世論調査

秋以降、菅内閣の支持率は低下を続け、遂に30%を割り込み、いわゆる危険水域に入った。

尖関諸島沖の中国漁船衝突事件への対応のまずさ、辞任した柳田前法相をはじめ頻発する閣僚の失言、小沢さんの国会紹致に対しての消極姿勢など、支持率低下の要因は多々思い当たる。だが、何よりも国民に失望感を与えているのは、菅総理のリーダーシップが見えないことだろう。

曖昧で問題先送りの国会答弁や、記者会見での自信なさげな姿からは、総理がこの国をどう導こうとしているのかが全く伝わってこない。

そのような情況下で、混迷を極めた臨時国会が幕を閉じようとしている。菅総理は今国会の開会に際し、「熟議をしたい」と言っていたが、終わってみれば意味のある政策論議は、ほとんど行われなかった。

景気対策に不可欠な補正予算と予算関連法だけは何とか成立にこぎ着けたものの、他の多くの重要法案は、審議されることもなく流れてしまった。
しかも、仙石官房長官と馬淵国土交通大臣の問責決議が参議院で可決され、今後の国会運営は全く見通しが立たなくなった。国民の政治に対する不安感は募るばかりである。

その責任は第一義的に政府与党にある。しかし、野党も政府の失政や無策を追求するのみで良いのだろうか? しっかりと自らの対案を示し、与野党が両案の是非を論じ合ってこそ国会の論戦と言えるのではないだろうか?

今国会で自民党は補正予算の組み換え動議を提案したが、その考え方を国民に充分伝えられたとは言えない。外交問題にしても、「自民党ならこうする」という考え方を積極的に提案するべきではなかったのか?

国会審議は日頃メディアに露出度の少ない野党が存在感をアピールする絶好の機会なのだ。
自民党もせっかく影の内閣を組んでいるのだから、もっと積極的に自らの政策を発信し、政策立案能力を主張する必要があったと思う。

内閣支持率の低下に反比例して、自民党支持率が回復している訳ではない。我が党は国民の期待の受け皿と成り得ていないという事実を真摯に受け止めなければならない。

対面式の直接聞きとりによる私の世論調査では、
・民主党政権は看板倒れ、民主党に政権担当能力はない。全く期待外れだ。
・しかし自民党もあげ足取りばかりで聞いていてみっともない。
・どっちもどっちだ。結局誰がやっても政治は変わらない。
・もっと国民の為になる議論をして欲しい
これがもっとも多い直近の民意だ。

政権を批判するのは野党の一義的な役割ではあるが、国民は自民党に単なる反対党(野党)の役割を望んでいるのではない。(英語では野党を反対党“opposition party”というのだが)
今我が党に求められているのは「自民党なら日本の経済を建て直してくれる」、「自民党なら日本の外交を任せても大丈夫だ」と国民が思える明快で具体的なメッセージを発信することである。

反対のための反対を繰り返すだけでは、かつての野党・民主党と同じだ。

危機管理は万全か

北朝鮮が韓国の民間人居留地を砲撃するという暴挙に出た。
その第一報が我が国のメディアで報じられたのは、
22日午後3時頃。夕方には各紙が街頭で号外を配布した。
なのに政府の見解が発信されたのは、午後10時前‥‥
我が国は、またしても、危機管理能力の欠落を露呈してしまった。

北朝鮮の軍事的挑発行為は、常態化している。
その矛先が、いつ我が国に向かわないとも限らない。
今回のような挑発行為に対しては、再発防止の意味からも、
即座に強い怒りのメッセージを打ち出すべきだろう。

不幸にも我が国を巻き込む有事が発生してしまった場合、
適切に対処するための備えの制度が国民保護法だ。
平成16年の制定後、政府の指針に基づき、
都道府県、市町村も実施計画を策定している。
確かに、今すぐ非常事態宣言を発出するタイミングではないかもしれないが、
日頃からマニュアルチェックに遺憾なきことを願う。

日本全域が彼らのミサイルの射程圏内であることを忘れてはならない。
仮に我が国に向けて発射された場合の対処は万全なのか?
万一、国内に着弾した場合には、即座に適切な対応できるのか?
ミサイルでなくとも、細菌兵器等によるテロ行為の可能性もある。
直接攻撃はなくとも、半島で有事が拡大した場合は、
大人数の難民が漂着することも想定される。

現在北東アジアは、軍事的に見れば、世界一不安定とも言えるのだ。
我が国はその一角なのだと言う事を念頭に、

日本の危機管理を総合的に再点検するべきだ
予算委員会でも集中審議が行われているが、
党派を超えた建設的な議論を望む。

“豊かさ”ランキング

急速な経済成長を続けている中国のGDP(国内総生産)が、日本を追い越して世界第2位となった。

そもそも中国の人口は日本の10倍以上なのだから、多少とも生産性が上がれば生産量が我が国を上回るのは当然だ。元相場を切り上げれば、米国を抜き、世界一になる日も遠くないだろう。

しかし、GDPは国家の経済規模を表わす数字ではあるが、それだけで「豊かさ」が決まるものではない。

むしろ私が気になっているのは、国連開発計画(UNDP)が発表した2010年版「人間開発報告書」の国民生活の豊かさを示す人間開発指数(HDI)のランキングだ。

HDIは、所得に教育水準と平均寿命を加味した「生活の質」を評価する指数で、バブル経済の頃(1990年代初頭)は首位争いをしていた日本は徐々に順位を下げ、今年は11位になった。

もっともこれらの指標はあくまで外形的・客観的な数値指標であり、国民一人ひとりの主観である「幸福度」を押し計ることはできない。

国民の自国に対する満足度が世界で最も高いのはメキシコだそうだ。

見た目には決して豊かとは思えないし、犯罪も多く所得格差の大きいメキシコで、国民の満足度が高いのは何故か?

一つの理由は国民の「現実肯定的な思考」とのことだ。

2年前、バングラデシュでは、「この国の国民はアジアで最も自国への満足度が高いのです」と現地の大使から説明を受けた。

日本の約4割の国土に1億5千万を超える人口を抱え、国民所得が日本の1/80というバングラデシュの国民満足度がなぜ高いのか? 

大使によると「平和である」「家族の絆が強い」「コミュニティの絆が強い」「現実肯定的な宗教感も関係しているかもしれない」といったことが満足の理由ということだった。

半面、アジアで国民不満度の高い国は、1位が日本で2位が韓国という。

我々が目指してきた豊かさとは何だったのか?と、軽いショックを覚えた。

幸福度と言えば、1972年にブータンの国王提唱したGNH(Gross National Happiness、国民全体の幸福度)が知られている。

GDPとかGNPといった富の量、金銭的・物質的豊かさを目指すのではなく、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだとする考えから生まれたものだ。ただ、人口70万人弱の国家故に調査可能な統計かもしれない。

とこらで最近私が気がかりな指標が2つある。

一つはスイスの国際調査機関IMDによる国際競争力ランキング、もう一つはOECDによる生徒の学習到達度調査ランキングである。

日本はIMD国際競争力ランキングで1989~91年にはトップの座を占めていたが、97年以降順位が大きく下落し、凋落の一途をたどっている。最新の調査ではアジア新興国にも追い抜かれ58か国中27位と低迷している。

一方、中高生を対象としたOECDの学力到達度調査では、2000年は数学1位、科学2位であったが、2006年の調査では10位(数学)、5位(科学)と、こちらも低下傾向が止まらない。

これまで何度も言及してきたが、私は日本の目指すべき国家像として「科学技術創造立国」を提唱している。それだけに、上記の2つのランキングは大いに気になるところである。

以上の指標と国際ランクから明らかになる政策課題は以下のとおり。

①    成長戦略の中心に教育・科学技術(未来への投資)政策を据えること。

②    GNHを高めるためには安定した社会保障制度を確立すること。

③    経済至上主義で壊れた地域や家庭の絆を再構築すること。

HDIランキング(知的・経済レベル)で№1を目指すことも悪くはないが、GNHランキング(一人ひとりの幸せ度)でメダルが取れる日本の国づくりを目指したい。

sengoku38

中国漁船衝突を巡る映像流出事件は、10日になって神戸海上保安部の主任航海士による投稿ということが明らかになった。

捜査は東京と沖縄を中心に行なわれていたから、「神戸」という報道に驚かれた方も多いだろう。

取り調べが進むなかで、映像の入手ルートなどが次第に明らかになっているが、どうやら事件発生当初は海上保安庁の多くの職員が容易に情報にアクセスできたようだ。情報が瞬時に広がるIT時代の課題が現れた事件とも言える。

だが、今回の問題の本質は、情報管理責任よりも、映像情報の内容が秘密とすべきものか否かという点だろう。

もちろん、形式的には政府が「機密扱い」と決めた情報を公務員が公開することはもってのほかだ。

しかし、投稿された映像を見る限り、ビデオは中国漁船が衝突してくる様子を淡々と映しているのみで、何が機密情報に値するのか判然としない。

政府は映像情報を「機密扱い」とした理由をもっと丁寧に説明する必要があるだろう。

仙石官房長官は、刑事訴訟法の手続き論で「ビデオ非公開」の説明をされてもいる。

だが、処分保留とはいえ船長は既に釈放されているし、仮に船長を起訴したとしても公判は事実上不可能な状況だから、もはや証拠資料としては意味がない。

(もっとも、これまでの政府の弱腰対応からすれば、今さら起訴することもあり得ないだろうが…)

「一般論としては」と言われても、どう考えても官房長官の説明には違和感がある。

そもそも勾留期限をわざわざ延長しながら、その期限を残して急に船長を釈放し、その理由を語らず、「あくまで地検の判断」とした点が全く理解できない。

疑問の残る釈放の経緯、意味のない映像の非公開措置など、一連の対応のまずさが今回の映像流出事件を引き起こしたと言われても不思議ではないだろう。

官房長官は、「(情報流出に係る処分について)寛大な措置を求める声も多いが?」と記者会見で聞かれて、

「国民の中の可半数がそう思っているとは私は全く思っていません」と答えておられたが、世論調査でも「ビデオは公開すべき」と考えている国民は圧倒的多数だ。

それどころか、参議院予算委員会(前田武志委員長=民主党)は、理事会の全会一致で政府に一般公開を申し入れ、民主党の輿石東参院議員会長も公開すべきだと主張している。

これ以上の混乱を避けるためにも、国民の「知る権利」に応えるためにも、政府はビデオを一般公開すべきであろう。

そもそも外交問題として処理すべき今回の漁船衝突事件を、刑事訴訟法の狭い枠内で説明で済ませるのは、どう見ても無理がある。

尖閣事件の処理責任を那覇地検にすべて負わせる形にしたのも、法律家である長官の判断とも言われている。情報流出の責任論について「政治職と行政職は違う」との主張も、自らの責任回避に過ぎないのではないか。

「仙石さん。貴方はもう只の弁護士ではないのだ。貴方に今求められているのは政治判断と政治責任である。法律論は行政職に任せて政治家として事にあたって欲しい。」

未来への責任

小沢さんの国会招致を巡る混乱で、宙に浮いた状態だった補正予算案だが、民主党岡田幹事長が「(招致の)実現に向け努力する」と約束し、ようやく審議入りが合意された。

幹事長が約束したのだから、今後、小沢さんの問題がどう扱われるかは、民主党内の自浄能力を計る物差しとなる。仮に「努力」が報われないとしたら、民主党は国民世論から厳しく体質を問われることだろう。

現下の深刻な経済情勢を緩和するためには、一日も早い補正予算の実行が必要だ。尖閣問題をはじめ政局化の火種は山積しているが、ここは、補正予算審議最優先で、早期成立を目指して欲しい。

野党にとって、国会の論戦こそが自らの政策や存在感をアピールする最大の機会だ。自民党は政府予算案に対抗する組み替え案を8日にも提示する。

我が党の経済政策、政府案との考え方の違いを分かり易く国民に伝え、支持回復に結びつけてもらいたい。

ところで政府の補正予算案提出に先立ち、自民党は通常国会で廃案となった「財政健全化責任法案」を再提出した。

この法案では財政健全化目標を

 ①2020年度を目処に国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス:PB)を黒字化~

 ②2015年度までにPBの赤字を国内総生産(GDP)比で2010年度から半減~

としている。

これは政府が6月に閣議決定した「財政運営戦略」とも重なる。

菅総理も予算委員会で我が党の議員の質問に、「考え方は基本的に共通している」と答えている。本会議の代表質問でも審議に前向きな答弁がなされた。

財政健全化は、自らが財務大臣として出席した6月のG8財相会議での国際公約なのだから当然だが…。

一部メディアでは、財政健全化法案をして「民主党マニフェストへの自民党の揺さぶり」と報じているが‥‥。私はこの意見には組みしない。

そもそもマニフェストでは「政策に必要な財源は予算(特別会計を含む)の組み替えにより確保できる」となっていたが、この論が破綻しているのは先の特会仕分けで証明された。

菅総理は代表選で「マニフェストには“政策”と“財源”という2つの側面がある」とも指摘、暗に「財源」のない場合の「政策」の見直しにも言及していた。

これらを総合的に考慮すると、政府も財政健全化責任法案を審議しないと言う理由はない筈だ。

持続可能な健全な財政の確立は、誰が政権を取っても避けられない課題である。

ここはお互いに大人になって、財政の建て直しへの共通の土俵を築く努力をして欲しい。

それが今の政治に課せられた「未来への責任」だ。

未来への投資

先週27日から4日間、事業仕分け第3弾(前半)が行なわれた。

今回の対象は18の特別会計と特別会計を財源とする48の事業である。今年度の特会予算は176兆円、一般会計予算は92兆円だから額だけみると約2倍にもあたる。

挨拶で蓮舫行政刷新大臣は「特別会計の制度そのものに切り込んで行く。全ての特別会計をまる裸にする」と言及した。確かに、実質的に所管省庁の手の内にある特別会計を可視化することは重要である。

だが、一方で蓮舫大臣は、「今回は財源の捻出が目的ではありません」とも言っている。この発言は、昨年の衆議院選挙のマニフェストと明らかに矛盾しているのではないか?

民主党は昨年のマニフェストで、特別会計を含む予算全体を組み換えることで財源を生みだし、子ども手当などの新規政策に充てると主張していたのではなかったのか?

大臣の発言は、特別会計を仕分けても財源は捻出できない=マニフェストは間違っていたと言うことを認めたことになる。

だとしたら実現不可能なマニフェストの主要施策は、凍結又は修正(撤回も)が必要だ。

予算の無駄遣いを厳しく指摘することは評価したいとも思うが、民主党が国民に約束した契約書(マニフェスト)についても、履行できることとできないことを、しっかりと仕分けて欲しいものだ。

ところで昨秋の事業仕分けでは、科学技術予算が厳しい逆風にさらされた。

おかげで、次世代スーパーコンピュータは世界一の座をつかむのが絶望的となった。小惑星探査機「はやぶさ」の後継機開発は、初号機の帰還が話題となった故になんとか復活できた。だが、何にもまして、私が最も残念に思っているのは「最先端研究開発支援プログラム(FⅠRSTプログラム)」の削減(半減)だ。

FⅠRSTプログラムは、分野や段階を問わず、3~5年で世界のトップを目指した先端的研究を推進するもので、使途を縛らない百億円規模の研究費を一人の研究者に委ねる「研究者最優先」の画期的な支援制度である。

京都大学山中教授が開発したIPS細胞(多能性幹細胞)のような、世界をあっと言わせる革新的な発想と成果は、研究者に研究に没頭できる環境を与えるところから芽生える。

確かに、最先端の研究者の選考は至難の業で、成果が得られないこともあるだろう。それは、一種の賭とも言える。ただ、天然資源に乏しい日本が厳しい国際競争を生き抜くには、知恵を磨き、「科学技術創造立国」を目指す以外に道はないことも事実だ。

仕分けにおける説明者の説得力が不足しているとの指摘は真摯に受け止めなければならないが、費用対効果だけでは判断出来ない事業、政策もあるとの認識を、仕分け側にも持って欲しい。

特に教育(人づくり)や研究開発の分野では、成果が単純に予測できない政策も多い。

だが多くの基礎研究が後の人間社会の進歩に貢献した歴史は数多く存在する。

ノーベル賞を受章された小柴昌俊先生は、受賞後に「私のやっている事は、すぐに役に立つとは言えない。10年後に役に立つかも分からない。100年たっても役に立たないかも知れない。でもやる価値があるし、やらなきゃならないことなんです。」と言われていた。

研究開発投資は未来への投資である。「科学技術創造立国」は日本が国際社会で生き抜く唯一の道であることをくり返し重ねて主張しておきたい。