小沢政局再来?…いつか見た光景

社会保障と税の一体改革関連法案への自・公・民3党合意から一週間。いつも見る風景になってきた民主党の党内抗争が繰り広げられている。おかげで修正法案の提出が遅れ、衆議院での採決は、3党合意時の約束だった21日(会期末)から会期延長後の26日にずれ込んだ。

民主党内での採決への対応は、両院議員懇談会で幹事長に一任することで執行部が押し切った形だが、小沢元代表らの「消費増税反対」の火は消えるどころか燃え上がっている。メディアで報じられているとおり、採決で「反対・棄権」などの造反者は50人を超える見込みで、離党・新党結成の可能性についても言及されている状況だ。(他党のことについてアレコレ言うべきではないのだが、そもそも民主党は、TPP対応、エネルギー戦略などについても議論百出で、政策に対する共通の理念がない烏合の集団と化しているのだから、さっさと解党すべきではあると思うが…)

どちらが与党なのか?という疑問はともかく、民主党内から少々の反対者が出ても、自民・公明が賛成する一体改革関連法案の成立は間違いない。
だが、離党者が54名以上になると民主党は衆議院でも過半数を割ることとなる。衆参ねじれ国会で、ただでさえ政権運営が不安定なのに、衆議院でも少数与党となれば、政権は益々厳しい情況に追い込まれる。
そればかりか、内閣不信案の可決も現実味を帯びてくる。もし内閣不信案が可決されれば野田総理は内閣総辞職はせず、迷わず解散を選択するだろう。解散政局は一機に現実に向かって進み出す。

永田町のそんな現状を見て、一つの出来事が脳裏をよぎった。宮沢内閣の時代、1993年(平成5年)6月の「政治改革解散」に至る小沢・羽田両氏の造反劇を想い出したのだ。
当時も通常国会の会期末、政治改革関連法案を巡る与野党合意の不調を責める形で野党(社会・公明・民社党)が17日に宮沢内閣不信認案を提出した。それに、与党自民党内から小沢・羽田両氏をリーダーとするメンバーが造反、賛成票を投じた。18日、不信任は可決され、政局は一気に解散総選挙へとつき進んだ。

あの時の政局の転回は極めて早かった。6月上旬には解散風など全く無く、18日の会期末を目前に、各委員会では恒例の海外視察の計画などを立てていた。私は夏休み明けの9月に新党を結成すべく、仲間と秘かに勉強会を重ねていた。それが解散により、急遽スケジュールを前倒しし、解散後の21日に「新党さきがけ」を立ち上げる事になったのだ。
「政界は一寸先は闇」と言われるが…、正にその言葉を絵に描いたような数日間だった。

今回は一体改革関連法案の3党合意が成立しているから、いきなり内閣不信任案可決という筋書きは無いだろう。しかし、予算執行権を左右する「赤字国債発行法案」や一票の格差是正が必須となっている「衆議院選挙制度改正法案」、など、まだまだ不信任の火種となる重要法案は山積している。

政治は「シナリオないドラマ」なのだ。今の政治状況下では何か起きても不思議ではない。常在戦場の心構えで戦いの準備を怠ってはならない。
いずれにしても、遅くとも一年後(衆参同日選同時が最遠と想定)には必ず戦いはやって来るのだから。

三党合意

通常国会の会期末を目前にして繰り広げられた「社会保障と税の一体改革関連法案」に関する修正協議。(予定どおり?)先週末の15日、自民、民主、公明の3党は、同法案を修正し、我が党が提案した「社会保障制度改革推進法案」とともに可決することに合意した。

3月末の法案閣議決定から2か月半、2月の「社会保障・税一体改革大綱」の閣議決定から5か月、そして「社会保障・税一体改革成案」(平成23年7月1日閣議報告)からは約1年である。
今回の修正協議で、税制改正については、ほぼ、1年前の「成案」のとおり実施されることとなった。一方の社会保障制度改革は「成案」の段階に戻った形で、年金・医療保険・介護保険・少子化対策・生活保護の制度改革について、論点を確認した上で、(民主党マニフェストの枠に捉われることなく)現実的な改革をめざし「社会保障制度改革国民会議」で超党派の協議を始めることとなる。
余談だが1年前の「成案」の実質的な作成者は、麻生内閣の財務大臣を務め、後に自民党を飛び出した与謝野馨氏であり、その内容に我が党が異議を唱える余地は少ない。

既にこのコラムでも言及したが、数週間前の特別委員会の質疑で、茂木政調会長が「国民会議」の提案をした時に、私は「助け舟」との印象を持ち、合意の成立は時間の問題だと考えていた。ともかく、衆参ねじれ国会が常態化している現状で、与野党が国家の基本政策について合意形成のプロセスを見いだしたことは画期的であり、今回の結論を歓迎したい。

社会保障は全ての国民に関わる問題であり、長期の持続性・安定性が求められる。どの政党が政権を担当しようと短期的な視野による制度急変は許されない。故に与野党の枠を超えて制度設計に責任を持たなければならない。
その意味でも今回の合意=超党派で国民的議論を行う方針が決定された意義は大きい。

週末の報道番組で、コメンテーターのジェラルド・カーティス氏[※]が、「半年前にこの問題について問われたら、『今のタイミングで消費税を上げるより、他にすることがあるだろう』と話したろうが、今日、6月15日の時点で現実的に考えれば、この法案がもし通らなかったら、政治が混乱し、経済にもマイナスだろうし、国際的にも信頼がなくなる。『国益』を考えればこの法案は通すべきである」と言及されていた。極めて的を射たコメントだと思う。

ギリシャ議会選挙の結果を踏まえEUとユーロの危機が唱えられるなか、今日(18日)からメキシコでG20が始まる。速報によると緊縮財政派の2党で過半数を占め、ひとまずギリシャのEU離脱は避けられるようだが、ユーロ経済圏の状況が即座に安定するとは思えない。各国首脳の話題は、ヨーロッパ発の世界経済危機をどう抑止するかという点に集中するだろう。
ここ20年も停滞しているとは言え、アメリカ、中国に次ぐ第三の経済大国“日本”に求められる役割は大きい。内政問題に終始している場合ではないのだ。

我が国の通貨“円”が安定した地位を築いているのは、経常収支の黒字に個人金融資産の大きさ、そして国民負担率の低さ=消費税の引き上げ余力があると言うのが国際的な認識だろう。
約20%の消費税のさらなる引き上げを迫られているEU諸国から見れば、多額の資産を抱える日本が、わずか10%への引き上げに何を躊躇しているのかというところかもしれない。(まして、与党民主党内の派閥抗争で決断が遅れているとは思ってもみないだろう…)

野田首相は21日の会期末までに衆議院で「社会保障と税の一体改革関連法案」の採決を行うと明言されてきた。ただ、民主党では与野党合意の後に自党内の了承を取り付けるという、極めて異例な手続きが進められている。
政治生命を賭した総理の決意が、まさか先送りになるようなことはないと思うが…?

[※]アメリカの政治学者。コロンビア大学東アジア研究所所長、東京大学法学部客員教授等歴任。

晴れたらいいね

5月の播州地方は思った以上の少雨(平年の43%の降水量)だったらしく、先週金曜日には、11日から加古川大堰の取水制限を行うことが決定されていた。これから田植えにかかろうという農家の方々は気が気でなかったに違いない。
その直後、先週末の雨とともに近畿地方の梅雨入りが宣言され、制限はひとまず未執行に終わった。この一週間で加古川平野の田園には水が張られ、早苗が並ぶ美しい水田風景に模様替えするだろう。

梅雨の長雨は、稲作には無くてはならない気象である。特に盛夏の雨量が少ない瀬戸内海地方にとっては、ため池に水を満たしておくために不可欠だ。
しかし一方で、じめじめと蒸し暑いこの一月余りは決して過ごしやすい季節ではない。むしろ気分は鬱陶しく、体調も崩しやすい。
「梅雨」の語源である中国語「黴雨(ばいう)」の「黴」はバイ菌のバイであり、カビのことである。カビはもとよりサルモネラ菌やブドウ球菌等々、つゆ時期の高温多湿は細菌の増殖にも最適だ。食中毒にも気をつけなくてはならない。

ところで、このところ全く日が差さず、カビがはびこった感のある永田町。
決められない政治に国民の不満と不信は最高潮に達し、今や世論調査の政党支持率で第一位を占めるのは「支持政党無し」に定着してしまった感がある。
その永田町の今週。通常国会の会期末を21日に控え、まさにヤマ場を迎える。先週末には総理がようやくながら原発再稼働の意思表示をし、また、15日を実質上の期限として「社会保障と税の一体改革関連法案」についての民主、自民、公明の修正協議も始まった。

この修正協議の成否は、日本の政治が意思決定能力を有するか否かを示すものとなるだろう。仮に金曜日までに何も決められなければ、総理がその地位を危うくするのみならず、既成政党そのものが存在意義を問われることになる。

確かに、「年金のあり方」や「高齢者医療保険」をはじめとする社会保障制度の根幹に関する議論を棚上げし、消費税増税や被用者年金の一元化等のみを決定することには抵抗感もあるかもしれない。
しかし、今、合意できる部分だけでも決定していかなくては、改革を一歩でも進めなくては手遅れになる。それだけ、日本の財政は傷んでいるということを国民にご理解をいただかなくてはならない。

本来、社会保障制度は時間をかけて、じっくりと議論すべき課題である。「棚上げ」という消極的な受け止めではなく、今回の協議手法をこれからの与野党協議のルールとして確立していくという気概が欲しい。
社会保障制度や税制のみならず、国防も、外交も、通商も、いづれの政党が政権を担うにしても政権交代の度に180度方向転換できるはずがない。国家の基本政策は常に与野党が協議し、一定の大枠を定めておくべきなのだから。

梅雨の語源は、梅の実の熟する季節という説もある。この一週間、実りある議論を尽くし、野田総理には晴れ晴れとした、後顧無き気持ちで18日からのG20に臨んでもらいたい。
「晴れたらいいね」という、DREAMS COME TRUEのヒット曲がふと頭をかすめる、今年の梅雨入りである。

助け舟

「社会保障と税の一体改革関連法案」の審議時間は、連日の集中審議の成果で既に63時間を数える。各党の主張が出そろい、論点もほぼ明確になってきたようだ。
これまでの質疑で私が最も注目したのは、我が党の茂木政調会長が提案した「社会保障制度改革国民会議」である。 党内ではこの会議の創設を含む政府案への対案「社会保障制度改革基本法案」が了承され、近々国会に提出される予定である。

これまで自民党は、関連法案成立に協力する前提として、民主党マニフェストの象徴でもある「最低保障年金の創設」や「後期高齢者医療制度の廃止」の撤回を要求してきた。しかしそれでは、あまりにもハードルが高く、歩み寄りは絶望的だった。

民主党の看板政策を自民党案に掛け替えることはできないと言うのなら、一時棚上げして「国民会議」の場で協議のうえ国民の総意として修正してはどうかと、茂木氏が「助け舟」を出したのだ。マニフェストに揚げた政策の旗を今すぐ降ろす訳ではないので「公約違反」との批判を弱めることはできる。極めて現実的で妥当な提案だ。

厚生年金と共済年金の一元化や介護保険料の抑制、社会保障番号の導入などは、政府案と自民党案でほとんど違いはない。少子化対策における待機児童抑制や医療保険の財政基盤の安定化も政策の方向としては同じである。腹を割って(足して二で割るのでなく)しっかりと政策協議を行えば、より良い案が見つかることもある。

野党がここまで歩み寄り、手を差し伸べているのだから、政府には一体改革関連とされる十数本の法案をもう一度見直し、すぐに採決すべきもの、国民会議に委ねるものに再整理してもらいたいものだ。

そんな中、先週30日と3日の二度にわたり、野田首相と小沢元代表との会談が行われた。予想されたことではあるが、首相の協力要請を小沢氏は拒否、両者の主張は平行線で終わった。この結果を受けて、首相は、ようやく小沢氏の説得をあきらめ(?)、野党の協力に向けて舵を切ったようだ。4日には問責決議を受けた2大臣をはじめ、審議の足かせになる閣僚を交代させる内閣改造を行われる。福島と神戸で地方公聴会も開催され、着々と採決に向けて環境が整えられつつある。

気がかりなのは自民党の姿勢がもう一つ定まらないことだ。谷垣総裁は未だに「解散総選挙の確約」「会期中の採決に向けての日程提示」を求められているが、見方によってはハードルを上げようとしているようにも見える。こちらから提案した条件に相手が応じたら、さらに条件が追加されるのでは、自民党の姿勢が問われかねない。

政治の課題は消費税だけではない。決められない政治から脱却するためにも、ここは与野党とも大人の対応が必要だ。