メダリストたち

もう一週間前になるが、ロンドンから金銀銅のメダルを胸に凱旋した70余人のメダリストを讃えるパレードが銀座で行われ、沿道を埋め尽くした50万人の歓喜が日本代表選手団を迎えた。
17日間にわたり、日本人を睡眠不足に陥れ、そして、勇気と感動を届けてくれたロンドンオリンピック。日本は金7・銀14・銅17の計38個のメダルを獲得し、総メダル数は史上最多となり世界ランキングでも第6位と健闘した。日の丸を背負い、全力を尽くして戦った勇者たちに、心からの拍手を送りたい。

メダルラッシュをもたらしたのは、もちろん各選手の才能と努力の賜だが、その背景には、永年にわたる国のナショナル競技力向上プロジェクトの歴史がある。
今回のチーム「ニッポン」強化策の軸となったのは平成20年から始まったマルチサポート事業だ。これは、オリンピックでメダル獲得が期待されるトップレベルの競技者に対して、トレーニング方法はもちろん、競技用具やウェアの開発、スポーツ心理や栄養学、さらにはコミュニケーション技術まで、多方面からの専門的かつ高度な支援を戦略的、包括的に行うもの。19競技(夏17、冬2)が対象で、今回メダルを獲得した13競技のうち、重量挙げとボクシングを除く11競技が対象となっている。ロンドンでも選手村のすぐそばに、マルチサポート・ハウスを設置し、選手団をバックアップした。

そして、全国から選ばれた強化選手を徹底的に鍛える拠点が、NTC(ナショナルトレーニングセンター)とJISS(国立スポーツ科学センター)だ。NTCは、屋根付きの全天侯型陸上トラックや、柔道、体操などの専門練習場、選手やスタッフの宿泊施設などを備えた総合トレーニング施設である。隣接するJISSは、スポーツ科学、医学、情報など各分野のスポーツ研究のもと、最新のトレーニング手法や器具機材の開発、アスリートの心身の状態のチェックを行い競技力向上をサポートする。

かつて、我が国のアマチュアスポーツ振興は、企業のクラブチームの育成力に依存し、国による選手の強化育成は遅れていた。ところが、バブル崩壊による経営悪化により企業がスポーツの支援から撤退するなか、多くの企業チームが廃部に追い込まれ、競技種目によってはナショナルチームの存続さえむずかしくなった。
そのような状況を踏まえて、文部科学省がスポーツ振興政策に本腰を入れ始めたのが平成の時代に入ってからのこと。平成13年にまずJISSが完成し、次にNTCの一部利用が始まったのが19年のことだ。まさにロンドン五輪の選手たちが国営強化選手、第一期生とも言える。

私が初めてNTCを訪問したのは平成20年2月、所管大臣として竣工記念式典に出席した時だ。官僚が準備した祝辞には「永年に亘る関係者の『悲願』」と記してあったが、私の率直な印象は「日本の国力をもってすれば、何故この種の施設の建設がもっと早く実現しなかったのか?」と言うものだった。

国のスポーツ振興策の成果をオリンピックのメダル数で計るのならば、ロンドンオリンピックで一定の成果をあげたと言える。今後、この数年間の努力と成果を科学的に分析し、さらなる強化策の開発と実践に取り組んでもらいたい。
加えて、選手たちにとっては五輪のメダルは終着点ではない。現役引退後の人生はとても長い。セカンドキャリアとしての人生設計が可能なように国が支援することも必要だ。

2年後のソチ冬季オリンピック、4年後のリオ・オリンピック、さらには2020年の東京オリンピック招致に向けて、さらなる選手強化策の充実を求める声が強まるだろう。
今年度の選手強化に投入した国費は32億円。
財政再建に向け厳しい歳出抑制が求められる時代ではあるが、ニッポンの誉れを高め、全国民の心を揺さぶった“あの感動”を考えると高くはないとも思えるが…。

竹島

日本政府が、内政論議であたふたしている間に、韓国の李明博大統領による“竹島”上陸という暴挙を許してしまった。
竹島は韓国併合(1910年)以前からの我が国の領土であり、サンフランシスコ平和条約発効時(1952年)に我が国が放棄した「朝鮮に関する権限」の範囲には含まれいない。むしろ韓国の初代大統領が一方的に設定した境界線=李承晩ラインにより、かすめ取られたような形になっているのだ。今、韓国大統領という立場にある人物が、この島を訪問するということは、我が国にとって、極めて遺憾であり、日韓の将来に暗雲をもたらす愚行と言わざる得ない。

さらに、李明博大統領は14日に「(天皇は)韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった方々を訪ね、心から謝るなら来なさいと(日本側に)言った」と発言した。我が国から要請した事実のない天皇の訪韓に言及し、謝罪まで要求したことは常軌を逸脱したものであり、日本と日本国民に対する侮辱とも言える。

政府は毅然とした態度で、「竹島は歴史的事実に照らしても、かつ国際法上も明らかに我が国の領土である」との立場を明確に主張するとともに、「一連の大統領の反日的発言は一方的な歴史感に基づく侮辱的な発言であり、日本としては受け入れることはできない」と明言すべきである。

大統領がこのような大人げない行動に走るのは、韓国の内政問題=末期的な政権の求心力回復をねらう故だろう。とは言っても、互いの国民間に反日、反韓感情をあおる行為は、日韓関係にとって不幸のタネをまくのみだ。
ただ、幸いなことに、今のところ両国民の感情的対立は高まっていないように見える。少なくとも我が国では、(良い悪いはともかく)、従来と変わりなく韓国ドラマが放映され、K-POPが流れている。

隣国の暴挙にもかかわらず意外なほどに反韓感情が高まらない一因は、竹島問題について、日本人の意識が希薄なためだろう。それもそのはず、私が文部科学大臣時代に行った2008年の学習指導要領改定以前は、竹島問題について触れていた中学校教科書は半分に満たなかった(7冊中3冊のみが記述、北方領土については全ての教科書が記述)のだ。

これでは日本の領土について正しい知識を与えることはできない。指導要領の改訂作業では竹島について明確に日本の領土と記述すべく検討を進めた。当時は李明博大統領の就任時期であり、両国の関係に波風を立てないように配慮が求められたが、私は「領土は国家の基本である。子どもたちには正しい教育をしなければならない」との信念のもと、指導要領解説書に「我が国と韓国の間に竹島をめぐって主張に相違があることなどにも触れ、北方領土と同様に我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要である」という文言を盛り込んだ。

現在中学校の社会科の教科書や地図帳が何冊採択されているのかは知らないが、全ての教科書や地図帳で明確に竹島が日本の領土であることが記されている筈だ。
しかし学校現場では、竹島問題の存在と日本の主張について正しく教えられているのだろうか? この機会に、もう一度しっかりと検証しなくてはならない。

昨今の領土を巡るいざこざは竹島のみではない。北方領土へのロシア大統領の訪問、尖閣諸島への中国の活動家の強襲上陸等々。これらの問題=隣国たちの強気の行動は民主党政権になってから顕著になった事象だ。
もちろん我が国の領土をないがしろにする隣国たちの姿勢は許されるものではない。しかし、彼らの行動を促したのは、我が国の外交力、防衛力の脇の甘さであると言えなくもない。

さらにその遠因は、普天間問題を発端として日米同盟を弱体化してしまったことであろう。その問題の責任者であった原因者であり、退任後も民主党外交顧問を名乗られ、奇行を重ねられている元総理は、少しは反省されているのだろうか?最近の言動を見る限りにおいては、とても反省されているとは私には思えないのだが…。

未来への責任

自公民の合意に基づき「社会保障と税の一体改革」関連8法案が衆議院を通過したのは6月26日。本来ならとっくに成立している筈なのだが、小沢グループの離党、新党結成など民主党内の混乱もあり、参議院の採決が遅れに遅れている。

3党合意で修正されたとは言え、そもそもが政府提出法案なのだから、当然、与党民主党が審議推進を図るべきなのだが、今の与党には全くその姿勢が見られない。
むしろ採決先延ばしを画策するかのような発言が党幹部(輿石幹事長や城島国対委員長)からでてくるのは、全く理解不能な誠意を欠いた対応だ。

そんな民主党の不誠実な態度に業を煮やしたのか、1日には、自民党の小泉進次郎青年局長ら血気盛んな若手の議員が「3党合意を破棄して法案を否決し、今すぐ野田政権を衆議院解散総選挙に追い込むべきだ」とする緊急声明まで公表した。

民主党執行部は表向きには、特例公積法案や公職選挙法の改正の成立に目処をつけるまでは一体改革関連法案の採決はできないとか言ってきたが、真の理由は某元総理を始めとする党内の消費増税反対派の動きを封じることができないからだ。仮に参議院の採決で、3名以上の造反者(離党者)が出た場合、参議院第一党会派は自民党となる。議長の座を奪われることになれば、今でも難しい国会の運営は更に苦しくなることは必至だ。

これに対し、野田総理は輿石幹事長を説得し、今週中の採決に柔軟に対応するとの意思を決定したようだ。
政策第一の野田総理の決断は正解だ。しかし、いつものことながら、どうして党代表が幹事長を説得するという構図が繰り返されるのか?不思議で仕方がない…。いつまでも党内の反乱分子を処分できない民主党の体質、政策で一致していない烏合の衆であることを続ける民主党の体質が問題だ。
原子力の将来を見据えたエネルギー戦略についても、TPP参加をはじめとする通商政策にしても、オスプレイ問題をめぐる安全保障問題についても、民主党内の意思統一が図れているとは思えない。これらの国策決定に際して、いちいち今回のような気の長い手続きを踏まれてはたまらない。

一方の我が自民党の結束は大丈夫だろうか? まさか、小沢新党など7党の内閣不信任決議案に同調するなどという暴論を唱える者はいないと思うが? 3党合意=消費増税の法案の早期成立と速やかな社会保障制度の改革議論のスタートを第一に、政策中心の議論を進めてもらいたい。

今回の3党合意は、今後の政策決定の範となるべき手法だ。党利を優先し何も決められない政治、やみくもに不毛の揚げ足取りの議論を繰り返す永田町体質から脱却し、本来の政策論議を行う国会を築くための第一歩だ。

今ロンドンでは、日の丸を背負った選手達が国民の期待に応えるべく全力をふりしぼって熱い戦いに挑んでいる。政治も今、国民の期待に応えることが求められているのだ。

「日本のために今何を為すべきか?」国民の負託を得て国政に携わっている議員諸君は、そのことのみを考えて行動して欲しい。それが「未来への責任」だと私は思う。

来週はお盆休みです。皆様も良い夏休みを…。