ダブル党首選

通常国会閉会とともに始まった民主、自民のダブル党首選。一足先に終わった民主党は、野田総理が圧勝し、自民党も今週26日には新総裁が決まる。双方の選挙とも、TVで多くの討論会が放映され、街頭での演説も実施されたが、国民の注目度も討論の質も自民党の圧勝と言っても良いのではないか。

特に、民主党の候補者間の討論には強い違和感を覚えざるを得なかった。これまでから度々指摘していることだが、「社会保障と税の一体改革」や「エネルギー戦略」、「TPP対応」など、重要政策の大方針について各候補の意見が全く異なるのだ。

政策の優先順位や細々とした施策内容に主張の差異があるのはともかくとして、同じ政党に集うからには、社会保障、税制、外交、通商といった基本政策について対立するのはいかがなものか? ましてや、既に政府が方針を決定し、進行しつつある施策(原子力規制委員会の委員長人事など)についても異論を唱え、方針変更を求めるのは、与党の一員としての自覚に欠けるものだ。
いつもの民主党内の烏合の討論が、党首選でも露呈しているとしか言いようがない。

違和感を覚えたのは、私だけではない。
ある番組では司会役のニュースキャスターが「皆さんの議論を聞いているとすごく隔たりがあるような気がしていて、一つの政党といえるでしょうか?」と問いかけ、最後には「4人の候補者からは様々な意見が出ました。この多様性を民主党の強みとみるのか、それとも弱みとみるのか…。ただ明日の代表選が終わったら、その代表を中心にしてエネルギーならエネルギー、社会保障なら社会保障、一つの政党一つの政策をかかげて欲しいと思います」と討論を締めくくった。

街頭演説では、激しいヤジにさらされた野田総理がいささか興奮気味に「財政がこれほどひどい状況になったのは一体誰の政権だったのでしょうか。自公政権からではありませんか」「領土、領海をいい加減に無作為にきた政権は一体誰だったんですか」「今頃になって景気のいいことを言っている。大間違いです!」と声を張りあげる場面があった。

たしかに過去の政権に責任がないとは言えない。しかし、たとえそうであったとしても、総理が街頭演説で用いるセリフとしては、いささか品性を欠いている。
山積するばかりの課題に、先行きの見通しが立たないことへの苛立ちなのか…、それとも25年間船橋市の駅頭に立ち続けて、非自民、政権交代のみをスローガンに、政府批判を続けていた時のDNAが顔を出したのかも知れない。もし、国会の場でも同様の主張をされるなら、もはや総理たる資質に欠けていると言わなければならない。過去の政権に責任を転嫁するくらいなら、総理になどならなければいいのだ。

一方の我が自民党総裁選。手前味噌ではあるが、基本政策の大筋は一致したうえで、5人の論戦により各論が掘り下げられている。憲法改正をはじめ戦後体制改革をめざす安倍氏、卓越した安全保障政策論を展開する石破氏、通産省出身で税制や外交にも明るい町村氏、ふるさとの活性化を唱える石原氏、日本経済の再生を最重要視する林氏、それぞれが得意分野を軸に安定した主張を展開している。

月が変わり10月になれば臨時国会が召集され、積み残されている多くの重要法案や補正予算案の審議が始まる(と信じたい)。
その際に、再選された野田総理、3選された公明党山口代表、そして自民党新総裁の間で、三党合意は遵守されるのだろうか? 与野党不毛の批判合戦を乗り越え、「決められる政治体制」を構築するために三党合意がなされたはずだ。最早、なりふり構わず過去の敵のミスを責めてポイントを稼ぐ時代ではなく、将来に向かって各党が生産的な議論を行い、合意形成を行うのが、政治のあるべき姿だ。ここで合意を反故にすることは許されない。

そのためにも、まずば民主党内のガバナンスをしっかりと再生してもらいたい。統一見解のない政党とは政策協議などできないから…。だが、そのために民主党幹事長の続投が適切なのか? 他党のこととは言え、通常国会末期の国会混乱を見るといささか不安が残る人事ではある。

原発ゼロ

先週末、政府は「2030年代に原発稼働ゼロ」を目標に掲げた「革新的エネルギー環境戦略」を決定した。大飯原発の再稼働をはじめ、現実的で責任ある政策決定を行ってきた野田総理とは思えぬ大衆迎合的なスローガンだ。

新戦略では第一の柱で「原発に依存しない社会の一日も早い実現」を基本方針としている。
しかし、エネルギー戦略の議論は、原発の要否から入るべきではない。
産業構造に応じた「安定供給の確保」、地球温暖化をはじめとした「環境問題への適合」、市場原理の活用による「コストの低減」、等々を検討のうえ、実現可能な最適ミックスを引き出す。これはエネルギー政策基本法で定められたルールだ。その結果として原発が不要であればその比率を縮減してゆけばよい。

我が国はエネルギー自給率わずか4%の資源小国である。しかも島国故に大陸諸国のようにパイプラインや電線で簡単にエネルギーの取引を行うこともできない。過去数回のオイルショックではこの弱点を突かれた形で、産業活動や国民生活が大きな打撃を被った。故にエネルギー戦略は慎重に、安定供給を第一に考えなくてはならないのだ。

これまでの戦略は、エネルギー政策基本法に基づく「エネルギー基本計画」として策定されてきた。自民党政権時代の平成18年には石油価格の高騰を背景に石油依存度を下げ、原子力を含む自給エネルギーの比率を高めることを第一目標とした。2030年の数値目標は、石油依存度を40%以下とし、原子力発電比率を30~40%とするというものだった。
これを改定したのが菅内閣の平成22年、前年に鳩山総理が世界に宣言した(何の具体策もなく表明した)温暖化ガス25%削減を実現するため、2030年までに原子力発電比率を50%に高めることを定め、2020年までに9基の原発を新設するとしていた。

それが一転、「2030年代にゼロにする」である。実現可能性も見えないままに…。

確かに福島第一原発の災禍は大いに反省しなくてはならない。ただ、同じく被災地にあった福島第二と女川の原発はしっかり安全に停止したのだ。まず、その差を比較検証しなくてはならない。なおかつ、福島第一も安全に止める方法があったのではないか? それも確認しなくてはならない。その上で新たな安全基準を定めて、必要な技術開発を進めながら継続使用していくという選択肢もあるはずだ。これらの検証と努力なしに、「国民の多くが望んでいる」から「原発ゼロを宣言する」というのは、政府与党としてあまりにも拙速かつ無責任な決定ではないか。

将来に向けて再生可能エネルギーの比率を高めることは否定しない、しかし現状では安定性に欠け、高コストに過ぎる。太陽光は晴れた昼間しか動作しないし、風力も毎日同じ風が吹くとは限らない。現行の想定稼働率では前者は12%、後者でも20%でしかないのだ。メガワットソーラーといっても、平均すれば1000kwの12%=120kwの発電量しか期待できない。(火力や原発なら1基で100万kw級だ。)価格の方はご承知の通り、太陽光の買い取り価格は42円/kw、風力は23円/kwであり、LNG火力や原子力の発電原価の数倍となっている。この買い取り制度を急速に拡大すれば、自ずと電気料金は上昇せざるを得ない。

LNGなどの化石燃料の比率を高めるのはどうだろうか。今回の原発全停止状況をカバーしているのは化石燃料だ。そして、そのほぼ全量を海外に依存している。その結果、2012年上半期の貿易収支が約3兆円という過去最大の赤字幅を記録した。この状況を継続することは日本経済の体力的に可能だろうが? その上、昨今の中東情勢を考えるといつホルムズ海峡のタンカー航行が止まらないとも限らない。だからこそ、野田総理は大飯原発再稼働を決断したのではなかったのか?

世界に目を向けても、エネルギー需要は人口増加と経済成長により急増している。特にアジア、アフリカの伸びは著しい。中国や韓国は言うに及ばず、ベトナム、UAE、ケニア等々多くの国が原子力を求めている。先日のAPECの首脳宣言に、原子力の安全利用が盛り込まれたのはその証だ。禁止ではない、逼迫するエネルギー需給に対応するため安全に使っていこうということだ。

そして、我が国はそれを成し遂げる技術力、産業力を有している。
原発ゼロ宣言をするよりも、むしろ日本の原子力技術を生かし、世界のエネルギー供給の拡大と安全性向上に尽くすのが、福島の災禍を体験した我が国の責任ではないのか。

仮に将来、原発を放棄するとしても、米仏に次ぐ第三の原発保有国として、その技術を国際的に継承していく責任もある。

自民党は「原発の要否について今すぐ判断すべきではない」としている。これは積極的な判断の先送りである。仮に原発を削減するのならば、再生可能エネルギーや化石エネルギーの供給安定性やコストの変動、こういった不確実要素をしっかりと見極める必要がある。不確実要素を残したままのエネルギー戦略は、根拠無きスローガン政策でしかない。

APECの一員

野田総理最後の外交舞台となるのだろうか?先週末から極東ロシアのウラジオストックでアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催された。

今回の会議で合意された首脳宣言は6本柱。各国の貿易制限措置を控えることを確認した「保護主義の抑止」、APECの経済を一つにする「アジア太平洋自由貿易圏の検討」、太陽光パネルなどの貿易を拡大する「環境物品の関税引き下げ」、シェールガスの開発やLNG基地の整備による「天然ガスの利用促進」、旺盛なエネルギー需要に対応する「原子力の安全利用の支持」、食料の生産性向上と輸出制限による高騰防止をねらう「食料安全保障の強化」である。
自由貿易の推進による圏域全体の経済成長をめざす姿勢を強く打ち出した格好だ。

プーチン大統領が基調演説で語ったように、アジア太平洋地域21か国の経済力は世界のGDPの過半を有する。しかも全体として若く、急速に成長しつつある。この経済圏に位置している我が国は、もう一つの成熟国家群であるEUと比べて恵まれているのだ。

人口が減少し、高齢化していく成熟国家が、持続的な経済成長を遂げるためには、アジア太平洋の活力を取り込み、市場の拡大と生産性の向上を図る必要がある。そのためには、貿易や投資の自由化、そして知的所有権をはじめとする国際経済ルールの統一が不可欠だ。
このため、世界各国は自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結に躍起となっているが、なかでも最も高いレベルの自由化と連携をめざすのが、環太平洋経済連携協定(TPP)である。

思えば一昨年の横浜APECを前に当時の菅総理がTPP参加を急遽提案し、民主党内から反発を受けて取り下げた。そして昨年は野田総理がハワイでの会議で、「TPP参加に向けて協議に入る」旨を表明した。しかし、民主党政府の議論は2年間全く進まず、放置されたままである。ようやく先週末になって民主党のTPPプロジェクトチームが、「関税撤廃は認められない」などと指摘し、交渉参加について「慎重に判断することを求める」とする従来どおりの消極的な報告書をまとめた。
この間、先送りを続ける日本を追い越すかたちで、カナダとメキシコが参加を表明した。米国の新大統領選びが終われば、広域経済圏の新ルール作りの交渉が一気に進むだろう。歩みが(とてつもなく)遅い日本抜きで…。

APEC最大の消費力を有する米国がTPPを軸に経済連携を進めるという政策をとっている以上、我が国がこの協定に不参加という選択肢はありえない。参加しなくても、そのルールを使用せざるを得なくなるのだから。日中や日中韓で独自のFTAを進めようにも、米国と日本の協定(TPP)=米国の力が無くては、中国の経済力に対抗できないだろう。
その意味でも、国家全体の利益を尊重すれば、TPP交渉への参加は不可避であると私は考える。

領土問題で課題を有する日ロ、日中、日韓関係だが、そもそも領土紛争が生じる大きな要因は、そこに存する資源の利用権という経済的な問題だ。係争地域を含み完全に一体となった共同経済圏を築いてしまえば、双方の国民が共有できる財産としてしまえば、水産資源もエネルギー資源も共同利用が可能となり、もはや大きな問題にはならないのではないだろうか。
永らく停滞する北方領土問題でも、双方の国民が自由に出入りし、水産資源、エネルギー資源を共有できるなら、解決策は見いだせるように思える。サハリンやシベリアの天然ガスを利用し、我が国のエネルギー安全保障を強化するためにも、ロシアとは大人の関係を築きたいものだ。

野田総理はプーチン大統領との間で、12月のロシア訪問を約束した。これは間もなく行われるであろう総選挙によって、政権のバトンが移ろうとも、必ず実現しなくてはならない。
外交とはそういうものだ。中長期の我が国の舵取りは、一般的な国内施策の調整と同様に扱ってはならない。ましてや総理の思いつきで操舵することは許されない。消費増税を実現した三党合意の枠組みは、一過性のものではなく今後の社会保障制度の議論に引き継がれる。同様に、外交通商、安全保障等を定めるに際しても、恒久的な枠組みとして維持、活用したいものである。

オスプレイ

海岸部に生息するタカの一種“ミサゴ”。魚を見つけると空中に静止(ホバリング)した後に、急降下して獲物を捕らえる。別名“魚鷹”とも呼ばれるこの鳥の英語名は“Osprey”、米国海兵隊と空軍が採用する輸送機V-22の愛称でもある。

V-22はオスプレイの名に恥じない性能を有する機体だ。ヘリコプターと同じく垂直に飛び立ち、固定翼機として高速で遠距離を飛翔し、ホバリングも急降下もできる。現在、在日米海兵隊が装備している大型ヘリCH-46シーナイトとは比較にならない能力差だ(CH-46は50年前の設計だから当然だが…)。沖縄本島から尖閣諸島ならわずか1時間で防衛隊を送り込むことができるし、空中給油を行えば朝鮮半島までも飛べる。

仮に3年前の政権交代がなければ、何の問題もなく配備が進み、オスプレイの名もこんなに有名になることはなかっただろう。導入反対派は「事故が多い危険な機体」と言うが、パイロットの命を危険にさらすような機体を米軍が採用するだろうか? 現に事故率自体も垂直離着陸戦闘爆撃機AV-8ハリアーに比べると3分の1に過ぎない。(10万時間あたり事故率1.93対6.76) 離島防衛を考えると我が自衛隊でも導入を検討すべきと思える輸送機である。

問題はオスプレイの性能ではなく、街中に存在する普天間基地にある。仮に事故を心配するなら、万が一の場合も市街地への墜落を避けられる海上空港を整備するキャンプ・シュワブへの基地移転を急ぐべきだろう。その努力を放置して、事を進めようとするから問題がこじれてしまう。元をたどれば「少なくとも県外」という思いつき発言により、普天間返還を台無しにした鳩山元総理の責任は極めて重い…

もう一つの問題とされているのは訓練飛行。こちらはオスプレイに限った話ではないが、人家に危害を及ぼすような危険な訓練飛行を歓迎するはずがない。訓練飛行ルートは集落を避け、また、必ず事前に公表してもらいたい。

そもそも在日米軍は、何のために日本に駐在しているか? その目的を忘れ、ただ米軍基地を危険視、迷惑施設視することは無責任だ。我が国から見れば60数年前の占領軍も今や国土を守ってくれる傭兵的な側面を帯びている。さらに言えば沖縄の海兵隊は、日本防衛はもちろん、韓国からフィリピンまで東アジアの国々の平和維持のために存在しているのだ。

マキャベリは君主論で言っている。「自らの安全を自らの力で守る意思の無い場合、いかなる国家といえどもその独立と平和は期待できない」と。
米軍基地の存在を否定的に唱えるとき、それに代わる自国軍を配備するという発想であればそれも一理ある。(自衛隊がその能力を有するか否かはともかく) 逆に基地は危険だから要らないというだけなら、国家の最重要機能である安全保障政策を考えない平和ボケの無責任な主張だ。

7月に発表された防衛白書にも記されているとおり、巨大な隣国の軍事費は年々二桁の伸びを続けている。装備は近代化し、海軍の充実により沖縄列島を越えて太平洋進出の姿勢も見られる。尖閣諸島だけではない、中国は南シナ海の南沙諸島でも周辺諸国と理不尽な領有権紛争を起こしている。

東アジア全体の安全保障を考える上でも、こういった動きは無視できない。外交を優位に進めるためにも力は必要だ。それが国際社会の現実である。まずは米軍をはじめとする同盟国とともに、備えを固めなくてはならない。