国会の開会にあたって

 

新春の日本を揺るがしたアルジェリア・イナメナスの天然ガス関連施設襲撃事件。数百名の人質の無事を祈る我々の願いも虚しく、アルジェリア政府の軍事制圧により事態は悲惨な結末を迎えた。最後まで安否確認がとれなかった大手プラントメーカー「日揮」最高顧問の新谷正法さんの遺体が帰国したのは26日のこと。日本人の犠牲者の数は10名となった。

 

事件勃発以来、現地の惨状と邦人犠牲者に関する情報が次々と伝えられたが、その内容は混乱し、政府として有効な一手が打てなかったのは事実だ。犠牲となった方々はいずれも日揮の社員や関係者。ふるさとを遠く離れた途上国で、政情の不安定さを厭わず、地域の発展と日本の繁栄のために黙々と働く“企業戦士たち”の尊い命が失われたことは極めて残念だ。

 

 

 

今回の一連の動きから、改めて、海外でのテロなどの緊急事態に際しての我が国の危機管理能力の不備が浮かび上がった。少なくとも今のままで良いと考える国民はいないだろう。邦人を保護、救出し安全に日本に輸送する術、その前提として、広範な情報を収集し、正確な評価、分析を行う力など、様々な能力を備え、新たな法制度と組織体制を構築しなくてはならない。

 

 

 

現在の自衛隊法では海外で活動する際は、「危険地帯を除き安全が確保されている」、「航空機および船舶の使用」、「武器使用時は正当防衛」といった制約が設けられている。今回のような内陸の事態では、まず、現地に足を踏み入れることができないし、戦闘現場に際しても隣で友軍が攻撃を受けても自分が撃たれるまで発砲できない。10名の尊い命を無駄にしないために、世界を舞台に活躍する企業戦士たちを支えるためにも、自衛隊法改正も含めた対応力の整備を急ぐ必要がある。

 

 

 

さて、第二次安倍内閣が発足してから1ヶ月余り。この間、内政においては、日銀と連携した金融緩和と24年度補正予算の編成を速やかに行い、円安と株高の基調を作った。ベトナム、タイ、インドネシアを歴訪する外交日程も精力的にこなし、ダボス会議では世界の賢者にアベノミクスの正当性を主張した。

 

総理が言うには、内政外交とも“ロケットスタート”を切ったことになるが、これからは、国会の論戦の場で力強い日本経済の再生を進める具体的な政策を打ち出し、国民に地道に訴え、理解を得ていくことが肝要だ。いよいよ第183回通常国会が始まる。28日には安倍晋三総理の所信表明がおこなわれ、論戦の火蓋が切られる。

 

 

 

私自身は、衆院の科学技術・イノベーション推進特別委員会委員長に加えて予算委員会にも所属することになった。自民党では、科学技術・イノベーション戦略調査会内に新たに設置される
“司令塔機能整備小委員会(仮称)”の委員長にも就任する。わが国は科学技術創造立国の早期実現を目指しているが、その国家戦略を遂行する党にあっての司令塔の役目を担いたいと考えている。

 

 

 

 

いま、わが国は政策を総動員して沈滞と閉塞感で覆われたデフレの20年から、全力をあげて抜け出そうとしている。そして、成長戦略の鍵を握るのが科学技術政策である。今後とも、そのスペシャリストを目指して、努力し研鑽を積んでいきたい。それこそが私の考える「未来への責任」を果たす最重要課題と確信している。

リハビリ?

新年会も成人の日までの3連休がピーク、今は松の内も明け、道を行き交う人々姿にも日常の営みが戻ってきた。
永田町の自民党本部では7日に仕事始めの会合が行われたが、今年は予算編成の仕切り直しが必要ということもあり、年始早々から連日熱心な議論が繰り広げられている。既に24年度補正予算は閣議決定し、今は25年度予算案や税制改正が主要テーマだ。

昨秋までは閑古鳥が鳴いていた党本部も、政権奪還により様変わりした。マスメデアの取材陣が激増し、政務調査会の各部会にも野党時代は全く姿を見せなかった各省庁の幹部が毎回出席するようになった。与党なのだから当然といえば当然だが、自民党本部にも活気が戻って来たと言えるのだろう。

ただ、私が党本部での議論に溶け込むには、暫しのリハビリ期間を要している。3年3カ月の月日はそれだけ長かったのだと、つくづく実感している。
むしろ、永田町の流れにすぐに馴染んでしまったのでは、充電期間の意義が薄れる気もする。私にとっての3年3カ月は、永田町という社会の外側に身を置き、改めてそのあり方を見つめ直す貴重な時間だった筈だ。
「永田町の論理」でなく「国民の目線」に立てというのは良く聞く常套句だが、現実に政界の渦中にあると、ついつい日々の仕事に忙殺され、理想が忘れられる嫌いがある。そうならないためにも、初心に返り、若葉マークを貼り直したつもりで議論に参加しようと思っている。

純粋な若葉マーク議員という意味では、我が党に119名の新人が国政デビューを果たした。私は彼等を自民党の財産だと思っている。部会で遠慮がちに挙手しながら、初々しい主張を発言する様からは、新しい自民党が見えてくるような気がする。
選挙の最中、私は「政治への信頼を取り戻すために、まず自民党が変わらなければならない」と、強く訴えた。既成概念に毒されていない新人議員の発想こそが、永田町に新鮮な風を吹き込み、自民党を変える原動力となる筈だ。

だからこそ彼等に「先輩議員に対する礼儀は必要だが、政策の議論では何ら遠慮することはない。政策議論に際しては全議員が対等であり、党内の全ての部会や調査会は基本的にオープンで、誰もが参加し自由に発言できる。それが自民党の伝統であり、我が党の優れたところだ。」とエールを送っている。

かつて私が初当選した時、中曽根康弘総裁は、我々新人に対して「政治家にとって最も重要な資質はしっかりとした歴史感・国家感を持っていることだ」と言われた。そして直後には「しかし、今の君達に最も大事な仕事は、次の選挙に勝つことだ。だからできる限り地元に帰って次の選挙に備えろ。」とも言われたのを、今も鮮明に覚えている。

今回の新人たちの中には将来の総理・総裁を担う人材が埋もれているかもしれない。しかし、その行く手には当選を重ねるという高いハードル群が待っている。初心を忘れず、試練を乗り越え、大きく育ってもらいたいものだ。

私もいつまでも新人のことにかまっている余裕はない、一日も早く政策立案と法案審議の仕事の感覚を取り戻し、リハビリ中のワッペンを剥がさなくてはならない。
月末には25年度予算案が固まり、通常国会も始まる。いよいよ論戦の始まりだ。

アベノミクス

政府は先週11日、事業規模で20兆円を超える緊急経済対策を取りまとめた。

大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を束ね、長引く円高・デフレ不況から一日も早く脱却し、日本経済が力強く再生する強い意志を示すものだ。

わが国の経済は1990年代初頭にバブルが崩壊して以来、長期のデフレ不況に陥り、15年間も所得が全く伸びていない。物価下落→売上減少→給与削減→所得減少→消費抑制→需要減少→物価下落が繰り返すデフレスパイラルの渦でもがき苦しみ、先進国中最悪の長期低成長に甘んじる姿は、人に例えれば瀕死の重症とも言える。

この深刻な症状に小出しの対策では二進も三進もいかない。あらゆる可能性を秘めた政策を機動的、弾力的に繰り出すことで経済再生を図ることが肝要だ。だからこそ安倍政権発足前から“アベノミクス”と名付けられた「金融政策と財政政策のパッケージ」を展開し、縮小均衡に向かうデフレの悪循環を断ち切り、成長と富の創出の好循環に切り替えようとしているのだ。

まず、金融政策では日銀に対して2%という明確な物価目標設定と、それが達成できるまで継続的な通貨供給の拡大を求め、そして物価の安定だけでなく雇用拡大をも日銀の責任の範疇とした。続いて、今回の大規模な財政出動で、復興の加速と防災・減災力の向上を軸に据えた公共事業を実施し、強靱な国土形成を進めるとともに巨額の有効需要を創出する。市場はこれらの日本政府の意志を好意的に受け止め、既に為替は円安トレンドに転換し、日経平均株価も1万円を上回る水準に回復した。

この流れを加速し、短期間でのデフレ脱却を目指すためにも、15日に閣議決定する24年度大型補正予算案を早期に成立させ、執行に移さなくてはならない。さらに、引き続き編成する25年度予算と合わせた「15カ月予算」で切れ目のない対策を実施し、景気の底割れを防ぎ、成長軌道を確かなものとする必要がある。

今回の補正では、成長による富の創出の一環として5700億円の科学技術予算が盛り込まれた。規模もさることながら特筆すべきは、研究開発プロジェクトへの長期安定資金が用意されたことだ。

行政の予算は単年度主義が原則であり、科学技術分野も例外ではない。故にノーベル賞を受賞した山中教授の京大iPS細胞研究所でさえ、職員の大半は短期契約の非正規雇用と言う状況である。これでは長い懐妊期間を要する基礎研究にそぐわない。今般の制度改善では、iPS細胞を中心とした再生医療研究には、今後10年で1100億円規模の長期的支援を行うことが決定された。この新たな資金提供の枠組みは、日本の科学技術施策にとって大きな一歩であることは間違いない。

さらに科学技術創造立国の早期実現に向けて、各省庁が所管する科学技術政策を横断的に調整し、国家戦略として組み上げる意思決定システム(司令塔を含む)の構築、さらには研究開発の進捗状況を正確にグリップし、予算と比較した効果測定を行う組織体制の整備も急がなければならない。

言うまでもないが「三本の矢」は毛利元就が三人の息子に対して、国を守るために兄弟の団結と協力を促した逸話に由来する。三本の矢がそろってこそ力は発揮されるのだ。

経済再生に向けた「三本の矢」のうち、一の矢である金融政策、そして二の矢である財政政策は既に出そろった。だが、もう一本の成長戦略はまだ未完成な状態だ。民間投資を生み出し自律的な経済成長を促すためには、大胆な規制改革やアジアとの経済連携も急がれる。

公共投資偏重のかつての自民党が戻ってきたとか、先祖帰りとか揶揄されないためにも、24年度補正予算と25年度当初予算の成立に引き続き、法人税制のさらなる見直しや各種の規制緩和、エネルギー戦略の立て直し、アジアの活力を取り込む経済連携といった政策を迅速に展開し、日本経済再生への道筋をしっかりと描かなければならない。

日本経済の再生を世界に示すために、生まれ変わった自民党を国民に示すために、三本目の矢である成長戦略の実行力こそが“アベノミクス”の成否を問う試金石となると私は思う。

2013 年頭のあいさつ

明けましておめでとうございます。健やかな初春をお迎えのこととお慶び申し上げます。

昨年末の総選挙により民意を踏まえた政権“再交代”が実現し、私も与党自民党の一員として議席を回復することができました。発足したばかりの安倍内閣は、実務的な内閣として山積する政策課題を着実に解決していかなくてはなりません。衆議院で圧倒的多数を占めるという数の力に傲ることなく、野党各党との対話と相互理解を基調に安定した国政運営に努めなければなりません。

第一は、デフレ経済からの脱却と成長戦略の推進です。

有効需要を創造するためにも防災減災投資を加速し、災害に強い強靱な国家づくりを進めます。併せて日本の知恵を生かした経済成長を実現するため、京やSACLAなどの先端科学技術基盤の産業活用を促進するとともに、研究開発費のさらなる拡大を図ります。

第二に、ほころびた外交通商政策を再構築します。

21世紀の成長センターであるアジア・太平洋の中核に位置する日本は、域内の投資と貿易のルール作りを先導しなくてはなりません。その礎となるのが安全保障政策です。日米同盟を基軸とした外交力を駆使し、アジア・太平洋圏域の経済連携強化を加速します。

第三には、安心して暮らせる健康長寿社会の制度設計です。

人口増大を前提とした社会保障制度は全面的に見直す必要があります。その第一歩が夏までに取りまとめる国民会議での議論。人口が減少しても持続可能な制度をめざし、自助と共助の発想を取り入れた公平な受益と負担の関係を築きます。

これらの政策実現の基盤となるのが、政治家への信頼の回復です。国民の信頼無くしては、厳しい構造改革の道を乗り越え、日本の再生をなし得ることはできないでしょう。

「信なくんば立たず」を肝に銘じ、痛みを伴う政策こそ、しっかりと国民の皆様に説明し、ご納得いただき、そして責任を持って実行していかなければなりません。

今年も格別のご指導とご鞭撻をお願いいたします。