地方創生

9月初めに内閣改造・自民党役員の改選などの人事が行なわれ、第二次安倍改造内閣が発足した。改造後の支持率は概ね上昇し、順調な船出と言えるだろう。今回の人事では、大胆な女性登用や谷垣元総裁の幹事長起用も注目を集めたが、最大の焦点は、石破茂前幹事長の処遇だった。

7月1日に閣議決定した「安全保障の法制に関する基本方針」に基づき、秋から集団的自衛権の行使に関わる法整備が始まる。今のところ17本にのぼる関連法改正作業が予定されているが、数十年に一度の安保方針の変更だけに来年の通常国会の最大の課題となり、また、春の地方統一選にも大きな影響を与えることは間違いない。

この難関を乗り切るため、安倍総理は“安全保障法制担当相”を新設し、この分野のエキスパートであり答弁能力も安定している石破氏を起用したいと考えた。が、ご承知のとおり、石破氏は「安全保障に関してのアプローチの仕方に違いがある」として就任を固辞。紆余曲折を経て結局はもう一つの新設重要政策ポストの“地方創生相”に就任することで一件落着となった。

「地方創生」も安全保障に劣らず重要な政策課題である。
今、日本の経済社会は成長社会から成熟社会への転換を迫られている。「量の拡大と効率性を重視する集中集権システム」から「質の向上と個性の発揮に重きを置く自立分権システム」への転換だ。

それにも関わらず、日本の現状は未だに東京をはじめ大都市への集中構造の進化が止まらない。首都圏には3500万人、全人口の三分の一が集中し、逆に中山間地域をはじめとする地方圏はかつての隆盛を失い、人口減少により消滅の危機に瀕する地域もある。若年人口が出生率の低い都市圏へ移転することにより、全国的な少子化が益々加速し、日本全体の活力を減退させるとの説もある。

地方活性化、地方の人口増大の第一の条件は、言うまでもなく、若者の地方定住、都市から地方への移住促進だ。江戸時代には「人返しの令※」で強制したこともあったようだが、今はそんな事はできない。今日、理念は語れても、その実現は容易ではない。若者の地方離れの要因は、第一に学びの場の不足、高校卒業と同時に大学進学のために都市圏へ出て行く。第二に仕事の不足、大学卒業時に故郷に帰ろうとしても雇用の場がない。第三には都市と比べて劣勢な生活環境、ITを活用したリモート勤務が可能となっても、医療や教育といった生活基盤の不安が移住の障壁となる。

この難題に挑むのが石破地方創生担当大臣率いる「まち・ひと・しごと創生本部」となる。
我が国の持続的発展には、全国各地がそれぞれの創意工夫による活性化を図る必要がある。求められるのは、地方の自律的活力の総体が国全体の活力となる構造だ。東京のおこぼれを地方に分配するという発想では成し遂げることはできない。

29日には、新閣僚のデビューともなる第187回臨時国会が召集される。
石破大臣の地元は、全国最小人口の鳥取県(57万人)。地方創生の重要性を誰よりも感じていることだろう。ふるさと鳥取を皮切りに、全国各地、津々浦々の再生を成し遂げる強力なサポート力を発揮してもらいたい。

さて、我がふるさと播州には日増しに秋の気配が漂ってきた。待ちこがれた祭りの季節の到来だ。播州地方では、10月中旬に町々村々で鎮守の杜に屋台を繰り出す秋祭りが開催される。私の地元の曽根天満宮の秋季例大祭は10月13、14日。遠方に住む氏子も故郷に帰り、地域住民の心がひとつになる一大イベントであり、先祖代々引き継いできた地域の伝統文化を体現する機会である。

我が播州における地域力の根源は、“祭り”が創る人の絆といっても過言ではない。屋台蔵から聞こえる太鼓の響きが地方創生の号砲に思える今年の秋祭りである。

※人返しの令:天保の改革で実施された政策。農村の労働力確保と江戸の貧民増加防止を目的に、江戸からの帰農奨励と江戸への移住禁止を定めたもの。

STAP検証

前号に引き続き、STAPと理研の話題を続けたい。
先月27日の改革行動計画の発表に引き続き、理研はSTAP細胞の存在の有無を確かめる検証実験の中間報告を行った。
内容は、「これまで4ヶ月、のべ22回の実験ではSTAP細胞は一度も作製できていない」というもの。ただし、まだ実験の途中段階であり、STAP細胞の存在の可能性について判断するのは尚早ということだ。

この検証実験に対しては、「論文撤回で白紙に戻った研究成果の検証を不正に関わった機関が自ら行うことは疑問、これ以上続けるのは税金の無駄遣い」といった批判の声もあがっているが、私はそうは考えない。

小保方氏の肩を持つつもりはさらさらないが、半年余り前、世界中の生命科学者や再生医学者がSTAP細胞の発見に沸き上がったのは、「どんな細胞でも一定の刺激を加えることにより、万能細胞に生まれ変わる」という仮説が魅力的であり、実現可能性が認められたからではないだろうか。残念ながら、論文撤回により、その科学的根拠は宙に浮いた形となっている。

しかし、だからといって、STAP細胞の不存在が立証された訳でもない。
現状は「仮説は立てたが、実験データによる立証が未完成な段階に戻った」と言うことだ。国民の最大の関心は「STAP細胞はあるのか?ないのか?」という疑問にある。現時点でその疑問に応えられているとは言えない。

この疑問に明確な回答(願わくは存在の確認)を示すことこそが、騒動を引き起こした張本人である理研の責務と言えるのではないだろうか。
仮に存在を立証しようとすれば、まず、①弱酸性液の刺激による細胞のリセット(幹細胞化=STAP現象)を確認し、次に②その幹細胞の培養による万能性(全ての体細胞への変化)の証明、という二段階の立証手続きが必要となる。
漫然と実験を続けないように、研究期限を切る必要はあるだろう。成果を急ぐためには、小保方氏が自ら実施中の検証実験も加速する必要がある。

とにかく、一日も早く白黒をつけ、国民の疑問を解消することが理研改革の第一歩となるだろう。
野依理事長のリーダーシップの下、リニューアルした理化学研究所が、その若き研究員とともに世界最高レベルの研究機関として発展を続けることを期待したい。

「社会とともにある理研に改革したい」という野依理事長の言葉を、改めて私は支持したい。

CDB解体?

STAP細胞論文の不正問題を受けて、早急な改革が求められている理化学研究所は、8月27日、研究不正の再発防止を目指す「行動計画」を下村文部科学大臣に提出した。

外部有識者からなる改革委員会による6月の提言では、論文不正の舞台となった神戸の発生・再生科学総合研究センター(CDB)の「早急な解体」も提言されていた。
これに対して今回の計画では、CDBを大々的に再編し、現在の40研究室体制を半分に縮小、名称も「多細胞システム形成研究センター(仮称)」に変更した新組織を11月に発足させるとしている。新しいセンター長は、外国人研究者を含む委員会を設置し、3月までに選考する予定だ。

この件についてメディアから取材を受けることも多い。その際必ず「今回の改革案で“解体”と言えるのか?」との質問を受ける。

改革委員会の“解体”の意味は、「発生・再生科学の研究の廃止」ではなく、不正の温床となった研究体制の抜本的な見直しである。なおかつ、その見直しが必要なのは、神戸にある一つの研究所のみではなく、理研全体だ。(CDBの研究室を半減するといっても、個々の研究者に罪があるわけではない。)行動計画によると、理研のトップマネジメント組織として、外部委員も参加する「経営戦略会議」を新設し、不正防止の「研究コンプライアンス本部」も設ける。改革の進捗をチェックする「モニタリング委員会」も設置する。

私は、今回の計画の実行により、固定化されて運営体制を廃し、目的志向の研究に重点化することで、研究体制の「“解体”的な出直し」を成し遂げられると考えている。
現に改革委員会の岸委員長も、今回の計画について「中身には満足している。優良可でいえば“優”を与えてもよい」と評価されている。

とは言っても、計画にちりばめられた“言葉”が改革を実行してくれるわけではない。改革が実を結ぶかどうかは、案を具体化する“実行力”の問題だ。
理研の野依理事長は、29日の党科学技術・イノベーション戦略調査会に出席され「改革の陣頭指揮を執る責任がある」と明言され、「社会と共にある理研に改革したい」と宣言された。私は理事長の言葉を支持したい。今後、野依先生とともに理化学研究所の再生を進める新しい理事、外部有識者の人選を急ぐよう、理研、文科省に働きかけたい。

今回の一連の騒動で私が危惧しているのは、理研の特色とされてきた「自由闊達な研究風土」、「思い切った若手研究者登用」といった組織文化が失われることだ。不正はあってはならないことだし、研究倫理の確立が重要であることは言うまでもない。しかしそれとともに、研究者の独創性を伸ばす環境、失敗を恐れないチャレンジ精神を育む土壌も必要だ。

世界最高水準の研究開発を実施するには、世界最高水準の人材の集積が不可欠であり、そのためには報酬も含めて最高水準の研究環境を整備しなければならない。政府が創設しようとしている「特定研究開発法人制度」は、そのような体制強化を促進するシステムだ。

理研が一日も早く新しい組織体制を軌道に乗せ、「特定研究開発法人」に相応しい機関として再生することを期待する。そして神戸の「多細胞システム形成研究センター」をはじめとする研究所群が、世界の科学技術の革新を先導していくことを願いたい。