霞が関文学

私がライフワークと考えている科学技術政策。その基本方針は5年ごとに改定される科学技術基本計画で定められる。今年度はその改定の年に当る。

先週10日には安倍総理が議長を務める総合科学技術・イノベーション会議で、その素案が取りまとめられ、年明けには閣議決定される運びとなった。

 

今回の素案取りまとめに際しての焦点は、「政府の研究開発投資を対GDP比1%とする数値目標を計画に明示できるか否か」だった。近年、ノーベル賞受賞ラッシュに沸く日本の科学界だが、足元では活用論文数のシェア減少など活力低下が懸念されている。激しい国際競争の中で、世界一の科学技術力を維持するには持続的な基礎研究が欠かせない。

 

幸い素案では、現政権が目標として掲げるGDP600兆円を実現するためにも、より一層の科学技術予算の拡充を目指すと言及。5年間(2016~2020年)に総額約26兆円を投じることを明記することができた。

私が会長を務めている自民党科学技術・イノベーション戦略調査会でも、「世界で最もイノベーションに適した国を実現する」ことを目指し、18回に及ぶ議論の末、基本計画に「対GDP比1%」と「総額26兆円」の数値目標を掲げるべきと決議、関係大臣等にも積極的に働きかけてもきた。所期の成果は得られることとなり、まずは一段落と言うところだ。

 

ここに至る迄に様々な紆余曲折があった。最も困難を極めたのは、国の財布の紐を握る財務省との折衝である。

第1の関門は、言うまでもなく目標額の設定。

かつては、道路整備5ヵ年計画をはじめ将来の投資金額を明示した計画が多数見受けられたが、予算の硬直化につながるとの理由で次々と廃止された。今では科学技術基本計画のみが唯一の例外とされている。

 

第2の関門は、霞ヶ関文学と言われる難解な表現だ。

政策案を文章表現する際、一字一句が検討の対象となる。「充実」は良いが「拡充」はダメとか、「必要である」はダメで「となる」なら良いといった文言。数値表現を巡っては、「どうしても数値目標を記入するなら本文ではなく脚注で」とか、「括弧書きにして表現を弱める」といった塩梅だ。

一般国民から見れば差異が感じられない仔細な表現の違いでも、政府(官僚)の文章では大きな意味があるらしく、府省間で延々と協議が続けられるのだ。政治に携わってかなりの歳月を経るが、未だに理解に苦しむところである。

 

今回の目標額盛り込みにより、基礎研究に対する国家予算の減少傾向に一定の歯止めをかけることができる。だが、もちろん研究開発の成果は、投入する政府予算額の多寡のみで決定されるものではない。

産業界の関連研究を誘発し、技術革新を促すためにも、研究体制の縦割りを廃し、情報の公開と課題の共有を進める「社会に開かれた科学の形成プロセス」が求められる。今後は、基本計画が掲げる数々の目標が達成され、生産性を高めるイノベーションをもたらすよう、しっかりとフォローしていきたい。

 

今年も残すところあと半月。めったに風邪をひかない私だが、先月末からどうもスッキリしない。

気温変化の激しい折、皆さまも体調に気をつけて本年を締めくくって下さい。