ブレグジット

ブレグジット。
聞きなれない言葉だが、「Britain(英国)+Exit(退出する)」を合わせた造語らしい。その意味するところは、英国のEUからの離脱だ。
2016年6月23日は、イギリス国民にとってさぞかし長い1日だっただろう。国民の意思に委ねられた残留か離脱かの判断は、離脱派の勝利に終わった。

正式な離脱は、英国が欧州理事会に離脱の意思を表示してから2年以内に交渉で定められるので、2020年にはEUは第二の経済国を失うことになる。それまでにEU対英国の経済貿易ルールを定めなくてはならない。世界各国はその内容を踏まえて対英国の交渉が必要となる。関係諸国は情報を共有し、協力してこの事態に対応しなくてはならない。

日本経済への影響も大きい。当面は、世界の不安感が引き起こしている円高や株安。当然のことながら円高は輸出企業に打撃を与え、インバウンドの減少も招く。株安は国民の財を減少させ、アベノミクスの成果を圧縮してしまう。さらには、欧州との経済連携の再構築が必要となる。英国に拠点を置く日系企業約1380社も「拠点維持か方針転換か」の経営判断を迫られる。

24日、在英の友人からメールが入った。
「The ignorance of the voters, next Americans will vote in Trump」。
「無知な有権者達、次にアメリカ人はトランプに投票するだろう」(訳)。
もちろん残留派の言葉だ。彼らが危惧しているのは、今回の非論理的な判断を招いた「内向きの排他的思考」が世界中に飛び火すること。トランプの支持者もブレクジットの支持者も思考の根底は同じだというものだ。EU諸国にも極右政党が生まれている。その台頭はEUのさらなる分裂を招きかねない。

英国は統一通貨ユーロには参加せず、金融政策上、ポンドによる独自性を有している。また、国境審査を廃止する(パスポートチェックなしで国家間移動を認める)“シェンゲン協定”にも入っていない。つまり、他のEU加盟国と比べれば、主権上かなりの自由度を有している。その英国でさえ、EU離脱派が勝利した。「EU加盟による移民流入によって職場が奪われる」といったきわめて単純な“大衆の声”によって。

英国の政治や経済をリードしてきたのはエスタブリッシュメント層(既製秩序階級)。彼らがいくら正論を唱えても、大衆は目の前の生活改善、所得向上が果たされなければ納得しない。これは持たざる者の反撃、拡大する所得格差に起因する反乱かもしれない。

共和党大統領候補トランプ氏の躍進、そして今回の英国のブレグジット。いずれもその原動力は、現状の生活水準に不満を抱える大衆の力。
生活への不満は、国家の方向を大きく変える。これはどこの国にでも起こり得ることだろう。しかしその方向が偏狭なナショナリズムにつながってはいけない。他国を排除して自己実現を図ってもそこには真の幸せはない。世界の共生と共栄こそがめざすべき道だ。

今や経済はグローバルなモノとカネの連環のなかで動いている。鎖国なんてありえないし、それは国民を不幸にする政策だ。だからこそTPPをはじめ、国際経済連携の推進が必要となる。

ヒトの移動も本格的に考えなくてはならない時期を迎えている。かつて明治から昭和の初期にかけて、100万人もの日本人が中国大陸や南米へ渡った。当時は職を求めての移民であったが、今や日本国内は労働力不足の時代、もちろん、国内労働力確保のための積極的受け入れも含めて、移民政策の在り方についても考えなくてはならない。

猛暑の夏

最近流行りのTV番組のネット話題やニュースのランキング、先週末のある局のニュースワードランキングによると、マーリンズのイチロー選手の日米通算4,257安打達成。日本各地に出没する“クマ”の騒動。海外からは、103名を殺傷した米フロリダ州銃乱射事件や上海ディズニーランドオープンなど、多彩な話題がランキング入りしていた。

なかでもダントツのトップは、舛添都知事に関するニュース。
多額の出張旅費に端を発したこの問題は、公用車使用の可否や過去の政治資金の使い方まで波及し、最終的に舛添知事は辞任に追い込まれた。

知事は本日辞任するが、話題の焦点は早やポスト舛添に移っている。様々な候補の名前があがっているが、果たして誰に落ち着くのか?目下の最大関心事である。新知事を選ぶ選挙は7月31日投開票。10日の参院選に加えて知事選も重なり、今年の東京は激暑の夏となりそうだ。

参院選は今週22日に火ぶたを切る。
安倍総理は国会閉幕後の記者会見で、消費税の引き上げの再延期を「新しい判断」と定義し、公約の変更になるので“国民に信を問う”とした。勝敗ラインは「与党の改選議席の過半数確保」に定めている。
前回衆院選の公約や政権運営の審判を受けるという意味で、われわれ衆議院議員も審判の対象ということになる。これまでの参院選とはいささか意味合いが違ってくる。

勝敗の帰趨を握るのは全国32の1人区だろう。今回は候補者一本化による野党統一候補が実現し、自公VS全野党のガチンコ勝負となった点でも従来とは違った参院選である。

高い水準を維持している内閣支持率や政党支持率からは、与党候補有利との目算が立つ。一方で、過去の参院選の得票数実績から、与党候補と野党候補の合算得票数を比較すると、多くの選挙区で拮抗または野党が上回っている傾向にあり、情勢は極めて厳しいものがある。

世論調査で有利であったとしても、決して予断は許されない。不用意な発言は選挙戦の風向きを大きく変えることもある。

1998年の橋本龍太郎内閣での参院選は当初自民党の大勝が予想されていたが、恒久減税を巡る選挙中の総理並びに閣僚の迷走発言により一転大惨敗。結果、橋本内閣は退陣し政変となった。近いところでは、2010年の参院選で菅直人首相が選挙中に唐突に消費税増税を訴え、1人区で8勝21敗と大敗し、民主党退潮のきっかけとなったことは記憶に新しい。

今回1議席増となった兵庫選挙区は、公明党が24年ぶりに候補者を擁立し3議席を有力5候補(自民、公明、民進、お維新、共産)が争う激戦区となった。
来月10日の投開票日まで暑い日々の中、ホットな戦いが続く。

まずは、我が党公認候補の末松信介氏に加えて、推薦している伊藤孝江氏の当選により、与党で過半数超えを目指して頑張らなければならない。
しばらくは参院選に集中したいので、次号は参院選後に。

背水の陣

6月1日、第190通常国会が幕を閉じた。閉会後の記者会見で安倍総理は、来年4月に予定されていた消費税10%への引き上げを、2019年10月まで2年半延期する方針を正式に表明した。

総理のこの決断について自民党内に反対論がない訳ではない。だが、参院選直前ということもあり、総務会では強い反対意見は出されず承認された。私も“やむを得ない”と判断した。財政規律や社会保障との一体改革の観点からいささか疑問を持たずにはいられないが、政党政治である以上は党の決定に従わなければならない。

政権奪還後3年半、アベノミクスを旗印に経済最優先で取り組んできた結果、雇用は大きく改善し企業の収益も良好になりつつある。3年連続のベースアップも実現した。さらに、この3年間で税収は21兆円上振れするなど、20年間のデフレ脱却まであと一息だ。

ただ一方で、ここまでの景気回復を牽引してきた外需が不安定化している。中国経済は供給過剰により失速気味であり、原油や鉄鉱石等の価格低迷は資源輸出国家の投資を抑制している。世界経済の行く手には大規模な需要不足というリスクが見え隠れしているのだ。

こういう状況から、先のG7伊勢志摩サミットでは、経済を成長軌道に乗せるため各国が機動的に景気対策を講じるという合意がなされた。これを受けて当面は需要創造に力点を置き、消費抑制効果が伴う消費税率引き上げは延期するというのが今回の判断である。

我々自民党は前回の総選挙で「2017年4月には消費税は10%に引き上げる」と訴えて当選したのだから、「公約違反」との指摘もある。麻生財務相や稲田政調会長のように、2014年12月の延期時には「国民に信を問う」と衆院を解散したのだから、今回も「総選挙を行うのが筋だ」という意見は、ある意味正論である。

しかし、熊本地震の被害状況やその災害に対応しなければならない自治体の混乱等を考慮すると、解散して衆参ダブル選は考えられない。総理の判断は当然だと思う。

参院選は元来政府の政策の評価を問うものであり、衆院選のように政権選択を問うものではない。
だが首相は、改選議席121議席の過半数61議席を連立与党の勝敗ラインと設定し、「国勢選挙である参院選で“新しい判断”の信を問う」とした。自ら勝敗ラインを改選過半数と設定し「信を問う」と宣言したのだから、敗れれば論理的帰結としては辞任ということになる。

政治家の国民に発する言葉は軽々であってはならない。その意味で今回の参院選は、俄かに重要性が増大したと言える。正に“背水の陣”である。

各種規制緩和やEPA(経済提携)交渉など経済構造改革のスピードが足りないのは事実。批判には真摯に耳を傾けて、反省すべきは反省し修正すべきは修正する必要もある。また、「新しい判断」を前提とした社会保障改革についての財源の確保やロードマップ、2020年度のプライマリーバランス黒字化に向けた財政再建の道筋を具体的に提示する必要がある。そうでなければ、「今の政治は次の世代より次の選挙しか考えていない」との批判を払拭できない。

このコラムのタイトルは「未来への責任である」。次の世代、子供たちのために「未来への責任を果たすために、いま何ができるか何をなすべきか」を、私も改めて考えなければならない。