憲法改正

自民党は23日、元復興相で無所属の平野達男参院議員(岩手選挙区)の入党を決めた。平野氏の入党で参院自民党の議席は122議席となり、参院で単独過半数を回復した。消費税導入やリクルート事件への反発で強い逆風の中での選挙となった1989年の参院選で過半数を割り込んで以来、27年ぶりとなる。

今回の平野氏の入党で自民、公明、おおさか維新、日本のこころの所謂「改憲4党」は、参院で162議席(諸派・無所属の改憲派を入れると166議席)を占め、憲法改正の国会発議に必要な3分の2議席を衆参両院で確保することとなった。

さて、前回のコラムでも言及した憲法改正を巡る議論。
「改憲勢力が2/3になったら、安倍総理は必ず9条の改正をやる」とまで言い切り、改正阻止を前面に押し出し、「改憲勢力による2/3確保阻止」を勝敗ラインにあげて参院選を闘った岡田民進党代表だが、選挙後の発言はいささか趣が違っているようだ。

「安倍政権下での憲法改正議論に反対」と主張していた岡田代表は、参院選後「憲法改正、あるいは議論そのものを一切しないと言っている訳ではない」と言及。改憲勢力に2/3を許したことについても、「何が2/3か、いろいろな考え方がある」と、開き直ったかとも思える発言で責任論を回避している。

岡田代表の責任論は民進党の皆さんが9月の代表選で総括すればよいと思うが、条件付きとはいえ、憲法改正の国会での議論に道筋が開けたといえる。
秋に予定されている臨時国会では、今後の進め方も含め活発な議論がおこなわれることを期待する。

憲法改正議論は、各党が改正を必要と考える条文についての意見を持ち寄り、論点が明らかとなった項目からスタートすべきであろう。憲法改正と言うと9条に焦点が当てられるが、改正を議論すべき項目は数多くある。

緊急事態条項や環境権など、70年前の憲法制定時には想定されなかった新しい項目。おおさか維新が提起している統治機構の問題、あるいは衆参両院のあり方や参院の選挙制度の問題も俎上に載せる必要がある。前文も、より美しくわかりやすい表現に改めてはどうだろうか。
その他、53条(臨時国会召集)や89条(公金の使用)、96条(改憲手続き)などについても議論が必要だ。

なかでも私が最も重要視しているのは83条(財政)だ。83条には「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」と規定されているが、財政についての責任が不明確である。憲法改正に当たっては、前項に加え「国は国家の財政に責任を持たなければならない」という、新たな項目を加えるべきというのが従来からの私の主張である。

自民党が“憲法改正草案“を提示してから早や4年が経過した。草案策定後に選出された議員も数多くいる。秋からスタートする国会での議論を前に、党内でも草案内容の見直しや優先順位をめぐり議論が活発化するだろうが、私は83条の改正を強く主張するつもりだ。

憲法改正は、まず国会議員により改正原案が提案され、衆参各議院の憲法審査会で審査のうえ、本会議に付される。そして、両院がそれぞれ2/3以上の賛成で可決された場合、国会から国民に対しする提案が行われ、国民投票による過半数の賛成で承認、決定される。

今後、国会議員による改正原案策定の議論がよりオープンな形で行われることにより、国民の間でも憲法改正についての理解が深まることを期待する。

参院選が終って

第24回参議院議員通常選挙の結果は、ご承知のとおり、自公連立与党が改選議席の過半数61を大きく上回る70議席を得た。自民党は27年ぶりの単独過半数には僅かに1議席届かなかったが、勝利と言って良いだろう。
しかも、自公に加え、おおさか維新など改憲に前向きな勢力は、非改選組も合わせて2/3の議席を突破した。すでに衆議院は与党が2/3を確保しており、現行憲法の下で初めて改憲発議が現実味を帯びる歴史的な結果となった。

ただ3年前のような圧倒的な勝利ではない。鍵を握ると言われていた全国32の1人区では、すべての選挙区で野党協力(民進、共産、生活、社民の4党)が実現し、統一候補が擁立された。実質的には、自公VS民共の戦いであったが、与党21勝に対して野党11勝となった。3年前には自民が29勝2敗だったことを考えると、野党協力は一定の成果があがったと評価すべきであろう。

事実、福島と沖縄で現職閣僚が落選。東北6県では秋田以外は敗北。新潟、長野、山梨、大分も接戦を制することができなかった。岡田代表が「敗れたら次の代表選には立候補しない」と明言していた三重でも、民進党現職に屈した。
一方で、共産党との共闘が民進党の支持者離れを招いた側面も無かったとは言えない。いずれにしても、次の衆院選に向けて共闘が持続する可能性が高く、その行方を注視していく必要がある。

さて、実質的に発議が可能となった憲法改正をめぐる論議である。
選挙期間中、岡田代表は「改憲勢力が2/3になったら、安倍総理は必ず9条の改正をやる」と、憲法改正阻止を前面に出した。その結果、憲法96条が規定する改正発議の要件である両院の2/3の議席が勝敗ラインの一つになった。
私には改憲勢力が2/3になれば何故9条改正になるのか、全く理解できない。

改憲勢力といっても、各党それぞれ考え方に差がある。自衛隊の明確な位置づけに重きを置く党もあれば、環境権をはじめ新たな権利の追加を唱える党もある。地方自治を含む統治機構の改正に熱心な党もある。民進党のなかにも改憲に前向きな声もあるはずだ。

また岡田代表は、「安倍政権とは憲法に対する基本的なスタンスが違うから話をしてもしょうがない。安倍総理の元では改憲の議論はやらない」とも言っているが、これも全く理解できない。
憲法改正の発議権は、行政府ではなく立法府にあるのだ。誰が総理であろうと関係ない。そして最終的には国民投票により可否が決定する。

“日本国憲法”は、1946年(昭和21年)11月3日に公布、翌年の5月3日に施行されてから70年が経過した。この間、日本を取り巻く環境は内外共に大きな変化が生じている。にもかかわらず憲法が不変であることの方が異様と言えないだろうか。

そもそも法律は社会規範の集大成であり、憲法も法律の一つである。時代の変遷に即して改正すべき点は生じるし、現に時代に適合しない条文も少なくない。諸外国の憲法においても、少ないアメリカでも6回、最多のドイツに至っては58回も改正されている。日本の現状は国会の不作為を問われかねない状況とも言える。

その意味でも秋に予定されている臨時国会で、まず憲法の議論をスタートさせたいものだ。国会で議論を深めることによって、初めて課題や論点が明らかになる。
現憲法の「何が時代の変化に適応していないのか。どの様に変える必要があるのか」。国会では、党派を超えて真摯に議論することが求められている。