蓮舫新代表

民進党の新党首選びは、15日の選挙の結果、大方の予想通り圧倒的多数の支持で蓮舫氏が代表に選出された。岡田前代表、野田前首相、細野元環境相など、幅広い支持を取り付けて出馬したこと、党勢の低迷が続く中、ルックスや弁舌も含め次期衆院選の顔として党員の期待を集めたことが勝因のようだ。東京都知事選の切り札としての出馬打診を「国政でのガラスの天井を破りたい」と一蹴した甲斐があったということか。

他党の内部手続きにあまり言及したくもないが、今回の民進党代表選、「政権交代を目指す野党第一党の代表を決める選挙」という意味では、政策論争がもの足りず、国民的な盛り上がりにも欠けた感がある。中国でのG20開催、北朝鮮による核実験やミサイル発射など、世界が注目する事象が間近にあったにもかかわらず、世界経済や安全保障に関する言及が乏しかったことが一因かもしれない。

北東アジアの外交・安全保障に緊張感が高まっていることは、国民の知るところである。にもかかわらず、民主党代表選においては、ほとんど争点にならなかった。沖縄基地問題や安保法制についての言及はあっても、目の前で繰り返される暴挙への対応案は聞こえてこない。
国政に携わる者の第一の責務は、国民の生命と財産を守ることである。寄り合い所帯の多様性の故か、党内で基本政策をまとめ切れず、刻々と変化する課題に的確に対応できない様子。旧民主党政権を崩壊させた党内事情が依然として残存しているようで残念だ。

そもそも民進党は勤労者の代表である連合を支持基盤としているはずだ。それにもかかわらず、雇用改善に大きく寄与したアベノミクスをなぜ批判するのか?また、なぜ財政収支の早期均衡達成にこだわり消費税増税を急ごうとするのか?理解しがたい面がある。かつての労働者政党なら、政府支出の増大による仕事量の確保を訴えていたのではないだろうか?
世界的に見て、リベラル政党の中心的政策は雇用確保対策であるはずだが、安倍政権への対立軸を強調するあまり、党の政策理念を忘れ去っているようにも見える。

選挙途中からは蓮舫氏の“二重国籍者”疑惑も浮上した。各所からの指摘に対して説明が二転三転したあげく、結局、事実の弁明は、党員、サポーター、地方議員票の投票が完了した後の13日となって、今も自身の台湾籍が残っていることを明らかにし、謝罪した。つまり、蓮舫氏は1985年に日本国籍を取得した後も台湾籍を有し、国会議員となってからも二つの国籍を維持し続けていたことになる。

(万が一?)総選挙で勝利すれば、新政権を率いる総理の大役を担うのが野党第一党の党首である。違法かどうかはともかくとして、道義的に、外国籍を有するまま代表戦に立候補するというのは余りにも自覚がない、軽率ではないだろうか。外野からの指摘がなければ、台湾籍の日本国総理大臣誕生という可能性もあり得たのだから。
遅すぎる釈明と謝罪も含め、他党のことながら代表選の正当性に疑義が生じ、今後の党運営に影響しないかと心配する。

安倍総理は26日から始まる臨時国会で「党首同士で正々堂々の議論をさせてほしい」と語ったが、民進党内からは早くも人事を巡って不協和音が聞こえてくる。ベテラン議員の一人は、「新たな船出だがタイタニックかもしれない」と言及したらしい。

新代表の船出は必ずしも順風満帆とはいかないようだが、民進党にしっかりしてもらわないと国会での政策論議も活性化しない。個人的見解に依存した意見・主張のやりとりはもう必要ない。野党第一党として、政権交代可能な「影の内閣」を準備し、組織としての統一政策をとりまとめてもらいたい。そのためには、まず党内ガバナンスの強化が必要だろう。
民進党の積極的な政策提言により、緊張感のある政治状況が生まれることが、今この国の政治に求められている。政党間の競争が無くては、我が国の政治の進歩もままならない。
その意味で蓮舫新代表が、秘めたる経営手腕を発揮されることを期待する。

対中外交

今日4日から中国浙江省杭州市でG20が開催される。内政外交とも行き詰まり感のあるホスト国・中国政府にとって、世界経済の成長を中心課題に据えてG20を成功に導くことが必須である。 このためか、安倍首相の先遣として訪中した谷内正太郎国家安全保障局長に対して、李克国首相が自ら対応するなど、なりふり構わぬ“対日重視”外交活動が見受けられる。

先月末の日中韓外相会談では、王毅外相が「海空連絡メカニズム」(偶発的な衝突を防ぐホットライン)の設置に関して、これまで難色を示してきた姿勢を一転させる発言が注目を集めた。

我が国外交の懸案の一つが、東シナ海、南シナ海における平和の確立、すなわち中国の領土的野心とそれに基づく実行行為に歯止めをかけること。安倍首相はG20の場で、東・南シナ海で展開される中国の暴挙に対して、国際法に則った毅然とした対応を望む姿勢だ。
中国政府が対日重視の姿勢を強めているのなら、今が日本の主張を認めさせる好機ではある。だが、中国はしたたかだ。王毅外相は、「客はホストの意向に沿ってその勤めを果たせ」という上から目線の発言など、国内向けの自己主張も忘れてはいなかった。

安倍首相は5月のG7伊勢志摩サミットでも「南シナ海問題」を取り上げ、「南シナ海の軍事拠点化に対して“重大警告”」を明記した首脳宣言の採択を導いた。
これを受けた形で、ハーグの仲裁裁判所は、7月、フィリピンの提訴に対して南シナ海における「中国の領有権は無効」とする判決を下している。中国は「1枚の紙切れにすぎない」と拒否し、軍事力を背景に実行支配を継続中だが、一連の強行姿勢は中国を国際法と秩序を守らない国と印象づけ、国際的孤立を招来している。

このような状況の中で、8月はじめから東シナ海の“尖閣諸島”周辺領海に中国公船が侵入する案件が頻発している。我が国の連日の強い抗議にもかかわらず、盆前には中国公船20隻以上とともに400隻以上の中国漁船が押し寄せたこともあった。日本とフィリピンの連携により不利な状況に陥った南シナ海問題への報復、G20での対応への威嚇と受け取れないこともない。

世論調査では、中国に対する外交姿勢は対話より「もっと強い姿勢で臨むべきだ」という選択肢が、無党派層にまで浸透し全体で55%も占めているものもある。尖閣周辺の領海に連続侵入するという挑発行為が、国民感情に影響を与えていることは否定できない。
興味深い数字であるが、両国のナショナリズムの高揚があらぬ方向に暴走しないよう、政府には冷静な対応が求められる。

一方、8月11日に尖閣沖で中国漁船がギリシャ貨物船と衝突し、沈没するという事態が発生した。わが海上保安庁の巡視船は当然のことながら中国漁民6名を救助し、捜索活動にも協力した。この行動については、中国政府からの「協力と人道主義の精神を称賛する」との謝意はもちろん、中国国民の間でも「中国公船は何をしていたのか?」との声が上がったという。

かつてエルトゥールル号の海難救助が、日本とトルコ国民との100年を超える友情を作り上げた。粛々と正当な行為を行い、堂々と正当な主張を行えば、必ず理解しあうことができる。世界中がネットでつながる時代。我が国の情報を全世界の人々に伝える発信力を磨くことも重要だ。それが政府間の外交交渉にも力を与えてくれる。