年の瀬に思う

平成28年(2016年)の申年もあと数日。恒例の今年の世相を表す漢字は、オリンピックの年らしく「金」が選ばれた。「金」は2000年のシドニー五輪、2012年のロンドン五輪の年に続き3度目となる。

 

オリンピックの舞台となったリオは、日本から見ると地球の真裏で時差は12時間。朝と夜が逆転する。日本中を睡眠不足に陥れた17日間、日本は金12個に銀8個と銅21個の計42個という過去最高のメダルを獲得した。その期間(8月5日~21日)はちょうど国会が夏休み、地元スケジュールの調整も比較的容易で、私も思う存分TV観戦することができた。

勝利して感極まって流す涙もあれば、敗れて流す悔し涙もあった。日の丸を背負って大活躍し、私たちに大きな感動を届けてくれた選手たちに改めて拍手を送りたい。

 

オリンピックと言えば、2020年の東京大会の施設整備や運営方法について国、東京都、組織委員会の間で協議が行われている。費用負担を巡って議論が紛糾しているようだが、一日も早く問題を解決し、大会成功に向けて力を結集して頑張って欲しい。

 

私は今年もライフワークである科学技術政策を中心に活動をしてきた。

党科学技術・イノベーション戦略調査会長として、4月には一億総活躍社会実現の旗印の下、科学技術振興をアベノミクスの大きな柱の一つと位置づけた。予算編成の季節は、「科学技術は未来への先行投資」と訴え、新規・拡充予算の獲得に奔走した。その成果として、歳出抑制の基調のなか、科学技術振興費はかろうじて0.9%の伸びを確保できた。

 

秋の日本人のノーベル賞受賞ニュースも年中行事となってきた。今年は大隅良典先生が昨年の大村智先生に続き、生理学・医学賞を受賞された。受賞決定後の早い段階に科学技術・イノベーション戦略調査会に出席いただく機会に恵まれたが、先生からは「若手研究者が十分に研究に取り組める環境の実現」を求める言葉が繰り返された。

そう言えば2012年に、iPS細胞で生理学・医学賞を受賞された山中伸弥先生も「日本は科学が国を支える柱、ぜひ多くの若者たちに科学者になって欲しい」と言っておられた。

 

日本の未来を切り拓く上で、人材の育成は大きな課題である。

その意味でもこの3カ月間、与党のプロジェクトリーダーとして、大学生を対象とする「給付型奨学金」の制度設計に取り組んできた。

学ぶ意欲と能力があるのに、経済的事情で大学進学を諦めざるを得ない子どもたちの一助になればと願っている。今後もこの課題に全力で取り組む所存である。

 

今年は世界が大きく揺れ動いた一年でもあった。

英国では6月にEU離脱の是非を問う国民投票が行われた。その結果は、予想に反するEU離脱派の勝利に終わり、キャメロン英首相が辞任に追い込まれた。

米大統領選挙でも大半の予想を覆し、共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補に勝利。トランプ氏は来年1月20日には合衆国大統領に就任する。

米英両国とも既存秩序体制(エスタブリッシュメント)に対する大衆の不平・不満が底流にある。全世界の経済活動が一体化し、(移民も含め)人の移動も容易となる一方で、移民排斥をはじめとする排外主義的思想の拡大は気にかかるところである。

 

今年から来年にかけて、昨春伊勢志摩に集ったG7メンバーが相次いで、その座を退くことになる。すでにキャメロン英首相が去り、レンティ伊首相も退陣。オバマ米大統領は間もなく任期を終える。オランド仏大統領も来春の再選に不出馬を表明した。以上で7人中4人が交代。さらにドイツでは、秋に連邦議会総選挙が予定されているが、メルケル独首相の支持率は難民施策を巡って低迷している。

 

サミットにおいて古参となる安倍総理の地位は当然高まるだろう。そして、その言動はG7の動きを左右するのではないだろうか。日本が国際社会でリーダーシップを発揮するためにも、国内政治の安定が求められる一年になりそうだ。

 

今年も私どもの政治活動に対してご理解ご協力を賜り、有難うございました。

来年も引き続きご支援ご鞭撻をお願いします。良い年をお迎え下さい。

給付型奨学金

OECD(経済開発協力機構)加盟34か国の中で、大学生に対して返済不要の公的な給付型奨学金制度が無いのは日本とアイスランドの2か国だけなのは、ご存知だろうか。
そのアイスランドも国立大学の授業料は無料で、大学院研究コースには給付金制度がある。
日本は大学の授業料がかなり高額にもかかわらず、卒業後に返済する貸与型(有利子・無利子)の奨学金のみ。実質的に国が大学教育を無償で提供する制度を持たないのは、我が国だけだ。

昨年の秋以降、自民党教育再生実行本部では「社会的格差が広がる中、学ぶ意欲と能力があるのに、経済的事情で大学進学を断念せざるを得ない子供たちを救えないものか。日本の未来のために放っておけない。教育費負担の軽減のために、新たな奨学金制度の創設について検討する」との認識のもと議論を重ねてきた。

当時私は議論を取りまとめる本部長の任にあり、44日には自公両党で策定した「教育再生の提案」の中で、大学生らを対象にした返済不要の“給付型奨学金”創設を安倍総理に提言した。

7月の参院選に際しては、党の公約検討チームのメンバーとして、「教育投資は未来への先行投資」と位置づけ、公の財政支出の抜本的拡充と財源確保を政権公約集「Jファイル」に明記した。それら一連の経緯もあって、82日に閣議決定された“一億総活躍プラン”の中で「給付型奨学金については、平成29年度予算編成の過程を通じて制度内容の結論を得、実現する」旨、明記されるに至った。

そして9月中旬、下村博文幹事長代行から「文部科学部会に設置する給付型奨学金のプロジェクトチームの座長を引き受けて欲しい」旨の連絡があった。

経緯からすれば引き受けるべきなのだろうが、ライフワークの科学技術政策の拡充に奔走していたため、最初は逡巡した。何度かのやり取りの後、それでも「どうしても引き受けてほしい。しっかりとサポートするから。貴方しか適任者がいない!」とも。
実はわたしはこの言葉に弱い。最終的に引き受けることになったが、下村氏は言葉とおり文科大臣経験者5人を含む強力なメンバーを揃えてくれた。

キックオフは926日。
まず、現況についての認識を共有した上で論点整理からスタート。主な論点は、①制度の主旨、②給付対象、③給付額、④給付方法、⑤開始時期、⑥財源に整理された。
プロジェクトチームの議論が白熱したのは②給付対象、③給付額、⑥財源についてで、結論を得るまで熟議は8回に及んだ。その後、公明党との与党間調整を経て11月末に方針を決定し、安倍総理に申し入れを行った。

決定された給付型奨学金制度の原案の概要は次のとおり。
・対象者は、住民税非課税世帯の若者。学習成績が十分に満足のできる高い成績を収めた生徒、科外活動で優れた成果を上げ概ね満足できる学習成績を収めた生徒。
・給付対象者数は2万人程度。
・対象学校は、国公立大、私立大、国公立短大・専門学校、私立短大・専門学校。
・給付額は、国公立は自宅2万円で自宅外3万円。私立はそれぞれ3万円と4万円。
・実施時期は、平成30年度。ただし経済的負担が特に厳しい学生を対象に限定して来年度から先行実施。
・児童養護施設出身者ら、社会的養護を必要とする学生らへの特段の配慮をするためにイニシャルコストコストを支援(入学金24万円支給)。

この制度骨子をもとに政府・与党は来年の通常国会での法制化を目指している。
が、社会保障費が毎年5000億円規模で増嵩する厳しい財政事情下にあって、財源確保が最大の難関である。
新制度の給付規模は、本格実施初年度の平成30年でも70億円強、4学年が出そろう平成33年度からは毎年220億円程度となると試算している。将来は実態に応じた見直しと制度の拡充も必要になると考える。

200億円を超える金額を少額とは言わない。
しかし、資源に恵まれない我が国にあっては人材が資源そのものである。その人材を育成する未来への投資を実現するために、この程度の財源をねん出することは政府の責任ではないだろうか。
一億層活躍社会の実現に一歩近づくためにも、制度設計に関わった責任者として、政府の英断を切に願っている。