解散の大義

17日(日)早朝から主要マスメディアが、「臨時国会を召集した後、早期の“解散・総選挙”」を報じたため、台風18号襲来とともに突如解散風も列島に吹き荒れた。

 

衆議院議員は4年任期だが、戦後23回の解散では在職期間の平均は976日で、約2年8カ月となる。前回の総選挙からすでに1,000日を超えているので、“常在戦場”を旨とする衆院にあっては、いつ解散があってもおかしくない状況ではあったが、今回の解散・総選挙はいささか唐突感がある。多くの国民にも「なぜ今解散するのか?」との疑問が広がっているのではないだろうか。

 

内外に山積する諸課題を解決するためにも、国会での熱心な議論が求められるが、それには時間が必要である。これらを踏まえ、私は支持者に聞かれるたびに「年内解散はない」と言いきっていた。それだけに私も、今回の総理の決断には疑問を覚える。

 

党内にもこの時期の選挙に疑問の声も多い。また「何のための解散か、何を問うのか明確に」

との声もある。

しかし、解散・総選挙は時の政権にとって政権の維持と国民生活がよりよい方向が続くことを願って、最も有利だと総理が判断したタイミングで断行されるのであって、我が党の総裁である総理が決断したのだから、受け入れるしかない。

 

安倍首相は週明け25日に、解散理由や民意を問うべきテーマについて記者会見を行う予定である。

国民に信を問う以上、総理は会見で「なぜ今解散・総選挙なのか?」との疑問に応え、「いま、信を問う理由」を丁寧に説明し、国民の理解を得るべく最大限の努力を払う必要がある。そうでなければ、この選挙は解散の大義を巡っての説明に追われる厳しい戦いとなるだろう。

 

政権公約の柱となるべきものは、①アベノミクスの総仕上げ、②北朝鮮情勢を踏まえた安全保障政策の強力な遂行、③全世代型社会保障政策の確立や幼児教育の無償化、並びに高等教育の負担軽減および財源策、④働き方改革、⑤憲法改正についての我が党のスタンスなどで、国民に訴えるべき政策として党内論議が集約されつつある。

 

ただ、どんな素晴らしい政策もこの解散への国民の理解が得られなければ、国民の心には届かない。また、勝利なくしては素晴らしい政策も実現しない。われわれはこのことを肝に銘じて、来たるべき総選挙に勝ち抜いていかなければならない。

人づくり革命

政府の看板政策である“人づくり革命”の一翼を担う「人生100年時代構想会議」の初会合が9月11日に開催された。会議の趣旨は「人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインを検討する」というもの。議長は安倍総理が勤め、メンバーは関係閣僚、大学教授や経済界代表に加え、起業家、元サッカー選手などの幅広い分野の有識者が名を連ね、年齢も10代から80歳代に及ぶ。

 

会議設置の発端は「LIFE SHIFT」という本だ。この書の著者であり会議メンバーでもあるリンダ・グラットン教授は、人生の長寿化をポジティブにとらえるためには、ライフステージを「20代前半までの“教育期間”」「20代から60代までの“就労期間”」「60代以降の“老後期間”」の三つに固定的画一的に分割するのではなく、多様な選択ができる社会を作るべきだと主張する。働き始めてから学び直すのも良いし、80歳になってから仕事を始めても良い。100年という長い人生、一人ひとりの才能や体力に応じて、様々な設計を行うべきという考え方だ。

 

11日の会合も、リンダ・グラットン教授のプレゼンテーションから始まり、「卒業」「就職」「引退」の“3ステージの単線型人生”の見直しや、生涯にわたる学習の重要性などについて提言された。これを受けて、学び直しや職業教育の充実を含めた大学改革や待機児童対策、また全ての世代にむけた社会保障などについて活発な意見交換が行われた。

今後、この会議では、(1)全ての人に開かれた教育機会の確保・リカレント教育、(2)人材教育のあり方、高等教育改革、(3)企業の人材採用の多元化、多様な形の高齢者雇用、(4)高齢者給付型中心の現行制度から全世代型社会保障への改革、の4本柱で議論を重ね、年内には中間報告をまとめることとなっている。

 

この政府の動きと並行して、自民党の政務調査会でも同様の議論を進めなければならないが、すでに党内には「人生100年時代の制度設計特命委員会」が設置されており、5月には幼児教育と社会保障を中心に中間報告もまとめている。今後、この委員会を活用し、多分野にわたる党内議論を深め、提言をまとめていくことになる。

 

提言の素材は、これまでの部会や委員会の議論の中にたくさん埋もれている。

例えば、(1)教育の無償化やリカレント教育(2)高等教育改革については、私も所属する教育再生実行本部から様々な提言を行ってきた。さらに財源も含めた制度設計の具体化を図るべく検討作業を開始した。

また大学改革(高等教育改革)については、近々、文部科学部会の下に新たなプロジェクトチームを設置する。このPTは抜本的な大学改革全般を議論する場であるが、当面は構想会議のテーマに添った論点整理をおこない、特命委員会に提案したいと考えている。

 

先日訪問したシンガポールでは「人的資源が唯一の資源」との考えのもと、国の人的資源を最大限に活かすべく、国家予算の約2割が投入されて教育政策が実施されている。人口や国土の広さ、歴史的背景は違っていても「人材以外の資源に乏しい」という意味では日本も同じ、すでに急速な人口減少社会に突入した我が国においては、個々人の能力を高め、生産性を向上させなければ、豊かな未来を描くことはできない。

今後の「人づくり革命」をリードすべく、なお一層、教育政策の充実に力を注いでいきたい。

 

この原稿の執筆中に解散風が突然吹き始めた。

人口減少が加速するなかで今回述べた「人づくり革命」が如何に急がれるか、人材育成とともに生産性を高めるカギとなる労働規制改革の推進、自国優先主義が勃興するなか国際経済連携を重視する経済政策の重要性、軍事緊張が高まるなか我が国の安全保障を高める同盟の強化、さらには自衛隊の明記を含めた憲法改正の必要性。この時期の解散にはいささか疑問を覚えるが、前述のような政策論を国民に訴える機会になるのかもしれない。

半島有事

秋の気配が漂いだした8月29日早朝、北朝鮮が日本上空を越えて太平洋に向けてミサイルを発射。瞬時にミサイル通過が予想された空域の自治体エリア(北海道など12道県)ではJアラート(全国瞬時警報システム)が作動し、エリアメール、緊急速報メールが携帯電話などで流された。

 

TV局も通常番組から一斉に画面が切り替えられ、ミサイル情報をめぐって列島に緊張が走り大騒動となった。ミサイルは約2700キロ飛行し、北海道上空を通過して襟裳岬東約1800キロの太平洋上に落下した。

 

今年になって北朝鮮は弾道ミサイルを含めてすでに13発も発射している。

8月上旬には中距離弾道ミサイル4発をグアム島周辺海域に発射する「攻撃計画」を公表し、日本の島根県、広島県、高知県上空を通過することもあわせて発表。

これらの威嚇にトランプ大統領は、「これ以上米国を脅かせば、世界がかつて見たことがないような炎と怒りに直面する」と一蹴。両首脳の発言は互いにエスカレートし、米朝の緊張感は高まり続けてきた。

 

さらに3日には国際社会の自制要請を無視する形で6度目の核実験が強行され、北朝鮮は重大報道として「ICBM搭載用の水爆実験を成功裡に断行した」と発表した。

過去の核実験に比べてはるかに大きく、威力は広島原爆の10倍超で水爆との見方もある。

一連の北朝鮮の挑発行動は、核・ミサイルの保有国であることを国際社会に認めさせたうえで、体制の維持に向けて米国との直接交渉を有利に運ぼうとする意図は明白だと考える。

朝鮮半島情勢の緊張はまさに最高レベルに達している。

 

この間、我が国政府の対応は迅速、適切であったと思う。

安倍総理は「ミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢

をとった」と言明し、イージス艦やPAC3による迎撃態勢をとったことを示唆した。

 

また核実験があった3日深夜に総理は、トランプ大統領、プーチン大統領と相次いで電話会談を実施。4日午前には韓国の文在寅大統領と対応を協議し、新たな国連安全保障理事会決議採択にむけ日米韓の緊密連携を確認した。河野太郎外相も各国の大使と精力的に会談して、安保理での追加制裁決議採択にむけた協力を要請している。

 

国際社会による更なる強力制裁措置については、「実効力のあるものとする」ことが重要だ。

制裁案は石油の輸出禁止・供給制限などが念頭に置かれているが、特に北朝鮮と国境を接する中・露との協力取り付けが極めて重要である。

安倍首相はウラジオストクを訪問して7日にプーチン大統領と会談するが、朝鮮問題をめぐる国連決議への協力を強く働きかけてもらいたい。

 

我が国にとって懸念すべき事態は、米朝の直接交渉によって北朝鮮の体制を承認して、ICBM開発凍結を条件に現状を維持されることだ。頭越しの米朝直接交渉が無いよう、米国と緊密に連携を図っていく必要があると思う。なぜなら、北朝鮮はすでに日本を射程に入れた中距離ミサイル「ノドン」を実戦配備しており、現時点でも日本の安全保障上大きな脅威となっているからだ。

 

また、半島有事ともなれば我が国独自の課題として、①在日米軍基地攻撃への対処はもちろん、②テロなどの後方攪乱対策、③旅行者を含めると約6万人に上る在韓邦人の救出、④押し寄せる難民への対応等々、困難な事案が重なってくることが想定される。

 

「国民の生命財産を守る」ことが政府の重責であるなら、専守防衛のみで対応可能だろうか?自民党の安全保障調査会は今年3月、北朝鮮の核・ミサイル脅威を踏まえて敵基地攻撃能力の保有を求める提言を行った。敵基地攻撃については、1956年に鳩山一郎内閣で判断(注記)が示されて、憲法上の問題はすでにクリアされているが、政府方針の立案と国会での議論が急がれる。

 

注記:「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他の手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」。