政局より政策を!

10月24日に召集された第197回臨時国会もすでに会期の2/3が経過し、残りは2週間余となった。

しかし、災害対策費を中心とする補正予算こそ全会一致で成立したものの、最重要法案と位置づけられている外国人労働者の受け入れ拡大に伴い、新しい資格を設ける“出入国管理法改正案”の審議は難航している。

法務省が提示した「失踪した外国人実習生に関する調査結果」において、当初は失踪理由の約87%が「より高い賃金をもとめて」としていたが、実際はそのような質問項目はなく、最多の理由は「低賃金のため」の67%であることが判明するといった政府の対応の不備も響いている。

 

新たな外国人材の受け入れ制度については、「労働力確保のために必要」という観点から、各種世論調査でも概ね賛成意見が多い。半面、「家族を含めた社会保険の取り扱い」など議論すべき課題があり、必ずしも今国会で成立させる必要はないとの意見も多い。

そんな世論を意識してか野党は徹底抗戦する構えで、立憲民主党は16日に「野党欠席のまま一般質疑を進めた強引な委員会運営」と称して、葉梨康弘法務委員長の解任決議案を早々と提出した。

 

私はこのような時間を浪費するのみの決議案提出には疑問を持っている。現在の与野党の議席数からすれば成立しないのは明白で、19日の本会議であっさり否決された。この結果、一時不再議の原則により、葉梨委員長は今国会で再度解任を問われることはない。

 

法務委員長は早速、定例日以外の22日にも職権で審議を開会、参考人質疑は行なわれたが、審議は野党が欠席したまま空回りであった。また、週明けの26日も審議を行う予定だが、おそらく野党は出席しないのではと予想されている。

十分な審議時間が必要だと主張している一方で審議を拒否する野党の対応には、いささか違和感を覚えざるを得ない。が、この間の政府側の説明も充分とは言えない。欧州や米国で移民排斥的な運動が起こるなか、外国人の受入については国民の間にも不安点は多いと思われる。政府はより緻密な制度設計を急ぎ、丁寧な説明を心がけてもらいたい。

 

改正法案を12月10日までの会期内で成立させるためには、総理がブエノスアイレスでのG20首脳会議に出発する前の28日には、参院本会議で総理出席の質疑を行なう必要がある。参院での質疑を始めるには、それまでに衆院本会議で成立させなくてはならない。一方の野党は、それを阻止すべく山下貴司法務大臣の不信任案決議案の提出なども視野に入れて徹底抗戦する構えだ。

 

こういった国会情勢は、他の法案や条約承認議案の審議に悪影響を及ぼしている。私が会長を勤める党の科学技術・イノベーション戦略調査会が中心になってまとめた“研究開発力強化法改正法案”もその一つだ。想定していた今国会での成立が危機に瀕している。

 

この法案は日本をイノベーションに適した国にするために必要かつ緊急性の高い法案であり、これまで各党各会派に充分な説明を行ない賛同も得ていた。文部科学委員会の審議日程もほぼ合意されていたが、出入国管理法改正法案審議のあおりで、野党の態度が一転したらしい。共産党を除く全会派が提案者に加わることに同意しているにもかかわらず、委員会での審議の目途が立たない。

 

オープンな政策論議よりも政局を優先する。正に「国対政治」。全く理解に苦しむ。

このような旧態依然とした国会に対して、小泉進次郎議員をはじめ若手議員中心に改革議論が盛んに行われている。私もかつて、政治改革のために同志とともに決起した日があったが、今は若手の思い切った改革案に期待している。

アメリカ国民の選択

先週火曜日に行なわれたアメリカ中間選挙、下院で野党民主党が8年ぶりに過半数を獲得した。共和党が終盤になって追い上げたが、開票の結果は当初の予想通りとなった。

上院では、改選議席数が少なかった(3分の1の35議席が改選)こともあって共和党が過半数を維持したので、米国連邦議会は上下両院で多数派が異なる“ねじれ議会”となった。

詳細な分析は時間の経過とともに明らかになるだろうが、ある意味、本音の「アメリカファースト」と建前の「グローバリズム」、分断か融和かの選択選挙であったのかもしれない。

民主党健闘の原動力になったのは、トランプ大統領の不寛容で強引な政治手法に対して、ピンクウエーヴと称される女性と若者が投票行動を起こしたこと。民主党女性候補の躍進が目立ったのも今回の選挙の特徴だ。

ただ、オバマ前大統領時の中間選挙で民主党が60程度の議席を失ったように、中間選挙は与党にとって常に厳しい戦いを余儀なくされる。その中で議席減が限定的であったということは、コアなトランプ支持者も多いということだろう。マスメディアと民主党の執拗な攻撃のなか善戦したとの評価もある。

民主党が多数となった下院では、今後、あらゆる議会調査権を発動してトランプ大統領の疑惑追及が予想される。大統領罷免につながる弾劾手続きの発議も可能だ。

我が国のような党議拘束はなく、激しいロビー活動が行なわれることもあり、議員数と投票結果が常に一致するわけではないが、ねじれ国会がトランプ氏の公約実現に必要な法案成立の支障となることは間違いない。特に予算関連法案は野党の厳しい反発が予想される。

2019年会計年度(2018年10月~2019年9月)連邦予算の一部はまだ手当できておらず、歳出法案が可決されなければ政府機関の一部が閉鎖に追い込まれる。また、不法移民対策の「メキシコ国境の壁」や、医療保険制度改革法(オバマケア)の改廃、中間所得層向け減税などの実現も見通せなくなった。

一方、あまり論じられていないが、中間選挙と同時に行なわれた州知事選では、改選36州のうち18州で勝利し、非改選州をあわせると民主党を上回っている。内政面で広範な権限を有する州知事の過半を押さえたことは、大統領再選に向けて有利な要因となるだろう。

こういった要素も踏まえると、トランプ大統領にとっては今回の選挙結果は想定内で、2年後の再選に向けての政権運営も、引き続き強硬姿勢で臨むのではないかと思う。

日本との関係も特に大きな変化はないと考えられる。

年明けにはTAG(物品貿易協定)交渉が始まる。米国側は厳しい主張を繰り返すだろうが、自動車・農業分野でTPPの交渉範囲を逸脱して我が国が譲歩することはあり得ない。日本はこれまで通り原則を貫いて交渉に当たる必要がある。

我が国の国会では平成30年度補正予算も成立し、いよいよ最大の焦点である「入国管理法改正」の審議がスタートする。就労人口減少に伴う深刻な人手不足の解消は喫緊の課題。社会ニーズに応えるために、政治が一歩を踏み出さなければならない分野である。

これまで「単純労働者としての外国人は受け入れない」との方針を一部修正して、限定的ではあるが農業や建設業といった14業種の受け入れが検討されている。在留資格に応じて、滞在期間や家族同伴などに差も設けられている。滞在期間の延長は永住権の取得につながり、不安要素として治安、文化摩擦、応分の財政負担(就学・教育、社会保険)なども課題となってくる。

山下貴司法務大臣には、検察官を経験した法曹専門家として抜擢された期待に応え、国民の疑問や不安の解消に全力を尽くして欲しい。

TGA:Trade  Agreement  on  goods(複数国の間でモノの輸出入にかかる関税の引き下げや撤廃について定める協定)