ミスター

「ミスター」と言えば、今の若者達は韓国の人気女性グループKARAのヒット曲を思い浮かべるかもしれないが、我々団塊世代の誰もが連想するのは「ミスタージャイアンツ」、元巨人軍の長嶋茂雄さんだろう。現役時代、王選手とともにON砲と呼ばれ、日本シリーズ9連覇という巨人の黄金時代を築いた名プレーヤーだ。

彼は、現役時代のみならず、引退後もテレビ、週刊誌などのメディアを通して、数々の話題を提供してくれた。巨人ファンだけでなく、すべての野球ファンが、ミスタープロ野球とも呼ばれた彼のプレーに歓喜し、拍手を送った。プロ野球の世界にとどまらず、すべての国民が彼の人柄に惹かれ、好意をもって「ミスター」と称えた。

世代を超えて幅広い人気があるのは、プレーだけでなく真摯な態度や、彼の生き様によるものであるのだろう。
私の妻も一応は阪神ファンであるが、「私は長嶋ファンである」と公言して憚らない。多くの人にとって長嶋さんは特別の存在であるに違いない。

プロ野球の歴史は、数多くの名勝負、名場面で綴られているが、劇的と呼ばれるシーンに欠かせないのが長嶋さんだ。
昭和34年、昭和天皇・皇后両陛下が初めて観戦された天覧試合で放ったサヨナラホームラン、昭和49年の引退試合の挨拶「私は今日ここに引退いたしますが、我が巨人軍は永久に不滅です」の名台詞は、今も鮮明に覚えている。

「メイク・ドラマ」「メイク・ミラクル」など、彼が作りだした新語・造語も数多い。

平成16年、脳梗塞で倒れ「自分の足で二度と歩くことは出来ないだろう」と主治医から宣告をされていたが、強い意志に支えられたリハビリで障害を克服、5月5日の授賞式後の始球式では片手でバットを振るまでに回復した。

闘志あふれるプレーで国民を熱狂させ、プロ野球を国民的なスポーツへと導いた「ミスター」。そんな長嶋さんに国民栄誉賞が贈られたのは当然の帰結である。

共に巨人の黄金時代を担った王さんが、35年も前に受賞していることを考えると、むしろ遅すぎたと言うべきだろう。

ミスターは、記念のボールやバットを自らの手元に留めないで、すぐ誰かにプレゼントしてしまうと聞いたことがある。今回の記念品である金のバットも誰かにプレゼントするのかなぁ?などとふと考えてしまう。
だが、金のバットを持とうが持つまいが、国民栄誉賞を受賞しようとしまいと、「ミスター」の称号は野球史上に燦然と輝き、永久に語り続けられるだろう。そして、その名にあこがれてプロ野球選手をめざす子どもたちが続出すること、ミスターの名を継ぐ名選手が次々と生まれることこそが、ミスターの最大の願いではないだろうか。

今回同時受賞し、ヤンキースファンに未だに愛される“ゴジラ”松井も、ミスタ
ーの後継者の一人と言って良いだろう。

スポーツ選手も含めて、多様な人材の育成。個々の才能を最大限に生かす人づくりに向けて、複線型の教育制度への改革が求められている。