言葉の力

私がとても大切にしている一冊の本がある。

2003年2月、スペースシャトルコロンビア号の事故の追悼ミサに訪米した際、ワシントンDCのリンカーンメモリアルの売店で偶然目にして入手した本だ。

題名は「GREAT AMERICAN SPEECHES」、64のアメリカの歴史上の名演説が掲載されている。

残念ながら私の英語力では正しく理解するには辞書も必要だが、言葉の持つ力を感じさせてくれる本である。

中でもリンカーン大統領のゲティスバーグでの演説、ケネディ大統領の就任演説、キング牧師のワシントンモールでの演説は、アメリカ史上不朽の名演説だ。

リンカーン大統領の「人民の人民による人民の為の政府」という一節は良く知られているが、この思想は日本国憲法前文にも織り込まれている。

ケネディ大統領の「国があなたに何をしてくれるかを問わないで、あなたが国のために何が出来るかを問え」との一節は、当時高校生であった我々団塊の世代の若者に大きな感動を与えた。(ちなみに私は、アンケートで「尊敬する政治家」を問われた際には「J.F.ケネディ」と書いている)

60年代の公民権運動の指導者キング牧師は、リンカーン像を背に全国から結集した25万人の同志に公民権獲得への熱い思いを訴えた。

「I have a dream」とくり返し何度も呼びかける下りは、圧巻としか言いようがない。

そう言えば民主党代表選で、小沢さんも「私は夢があります」と言っていたが‥‥。

偶然ではあるが、この3人は3人とも暗殺されるという数奇な運命をたどることになった。

これらの演説は多くの人々の心を揺り動かし、歴史をも動かしたのだ。

まさに言葉の持つ力である。

ところで、最近の演説で一番印象に残っているのは、平成13年の参議院選挙に於ける小泉元総理の神戸大丸前での演説だ。

「日本を変えなければならない。その為には自民党が変わらなければならない。変わらなければ私が自民党をぶっ壊す」と宣伝カーの車上から絶叫した。

必ずしも話術がうまいとは思わないが、小泉さんの演説は分かり易くメッセージ性が強い。

ご子息の進次郎さんも父親と同じ(それ以上かも?)言葉の力を持っている。言葉の力も遺伝するのかも知れない??

ただ言葉が力を持つには聴衆との間に信頼がなければならない。

信頼がなければ、言葉は決して力を持ち得ない。

最近は政治家の言葉が軽いと言われている。

「有言実行内閣」を表明している菅内閣には、国民の信頼を裏切る事がないようにして欲しいものだ。