対中外交

今日4日から中国浙江省杭州市でG20が開催される。内政外交とも行き詰まり感のあるホスト国・中国政府にとって、世界経済の成長を中心課題に据えてG20を成功に導くことが必須である。 このためか、安倍首相の先遣として訪中した谷内正太郎国家安全保障局長に対して、李克国首相が自ら対応するなど、なりふり構わぬ“対日重視”外交活動が見受けられる。

先月末の日中韓外相会談では、王毅外相が「海空連絡メカニズム」(偶発的な衝突を防ぐホットライン)の設置に関して、これまで難色を示してきた姿勢を一転させる発言が注目を集めた。

我が国外交の懸案の一つが、東シナ海、南シナ海における平和の確立、すなわち中国の領土的野心とそれに基づく実行行為に歯止めをかけること。安倍首相はG20の場で、東・南シナ海で展開される中国の暴挙に対して、国際法に則った毅然とした対応を望む姿勢だ。
中国政府が対日重視の姿勢を強めているのなら、今が日本の主張を認めさせる好機ではある。だが、中国はしたたかだ。王毅外相は、「客はホストの意向に沿ってその勤めを果たせ」という上から目線の発言など、国内向けの自己主張も忘れてはいなかった。

安倍首相は5月のG7伊勢志摩サミットでも「南シナ海問題」を取り上げ、「南シナ海の軍事拠点化に対して“重大警告”」を明記した首脳宣言の採択を導いた。
これを受けた形で、ハーグの仲裁裁判所は、7月、フィリピンの提訴に対して南シナ海における「中国の領有権は無効」とする判決を下している。中国は「1枚の紙切れにすぎない」と拒否し、軍事力を背景に実行支配を継続中だが、一連の強行姿勢は中国を国際法と秩序を守らない国と印象づけ、国際的孤立を招来している。

このような状況の中で、8月はじめから東シナ海の“尖閣諸島”周辺領海に中国公船が侵入する案件が頻発している。我が国の連日の強い抗議にもかかわらず、盆前には中国公船20隻以上とともに400隻以上の中国漁船が押し寄せたこともあった。日本とフィリピンの連携により不利な状況に陥った南シナ海問題への報復、G20での対応への威嚇と受け取れないこともない。

世論調査では、中国に対する外交姿勢は対話より「もっと強い姿勢で臨むべきだ」という選択肢が、無党派層にまで浸透し全体で55%も占めているものもある。尖閣周辺の領海に連続侵入するという挑発行為が、国民感情に影響を与えていることは否定できない。
興味深い数字であるが、両国のナショナリズムの高揚があらぬ方向に暴走しないよう、政府には冷静な対応が求められる。

一方、8月11日に尖閣沖で中国漁船がギリシャ貨物船と衝突し、沈没するという事態が発生した。わが海上保安庁の巡視船は当然のことながら中国漁民6名を救助し、捜索活動にも協力した。この行動については、中国政府からの「協力と人道主義の精神を称賛する」との謝意はもちろん、中国国民の間でも「中国公船は何をしていたのか?」との声が上がったという。

かつてエルトゥールル号の海難救助が、日本とトルコ国民との100年を超える友情を作り上げた。粛々と正当な行為を行い、堂々と正当な主張を行えば、必ず理解しあうことができる。世界中がネットでつながる時代。我が国の情報を全世界の人々に伝える発信力を磨くことも重要だ。それが政府間の外交交渉にも力を与えてくれる。