大相撲

先月末から連日連夜ワイドショーを賑わしてきた元横綱日馬富士の暴行事件。未だに被害者である貴ノ岩の生の声は聞かれていないが、関係者の証言により事件の全容がほぼ見えてきた。秋巡業中の“モンゴル会”の酒席で、先輩の大横綱白鵬が話している最中にスマホをイジった貴ノ岩の態度に日馬富士が激高し、暴行。頭部に9針も縫う大ケガを負わせた。日馬富士は、横綱として責任を執るとして11月29日に引退を表明した。

 

2011年には力士の携帯メールから発覚した八百長事件などで、一時は存続の危機とまで騒がれた大相撲だったが、その後琴奨菊や豪栄道など日本人力士の活躍で、徐々に人気が回復。今年の正月場所後には稀勢の里が横綱昇進し、19年ぶりの日本人横綱が誕生した。「スー女」と呼ばれる若い女性の相撲ファンも急増するなど、国技としての地位を取り戻したかに思えた大相撲だったが、今回の事件で組織とガバナンスの在り方が再び厳しく問われることとなった。

 

思えば10年前の2007年、稽古中の暴力行為により時津風部屋の17歳新弟子・時太山(ときたいざん)が死亡、そして親方らが逮捕された事件があった。当時、文部科学大臣の任にあった私は、所管する公益法人である相撲協会が引き起こした不祥事に対処する立場にあった。

ただ、事件直後の金曜日の定例記者会見で質問を受けた私は、「熱心なタイガースファンで野球のことは詳しいが、相撲はそれ程詳しくない」と正直に答えてしまい、記者たちの間に不穏な空気が漂ったと記憶している。

 

会見が終わるとすぐに、詳細なレクチャーを受けるべく担当部局を呼んだが、週明けの月曜日に伊勢ノ海親方から経緯を聞くとのことだった。瞬時に土日を挟んでは不味いと判断し、「今日中に責任のある立場の人に来てもらうように」と指示。その結果、北の湖理事長の来訪を受けることとなった。

 

理事長が大臣室の扉から現れた時、私としては普通にお辞儀をして迎えたのだが、理事長はお腹がつっかえてお辞儀ができない。結果、私が謝っている様なシーンがテレビのニュースに流れ、多くの方々から「もっと堂々としていろ」とお叱りを受けることになった。

 

週刊誌には「北の湖の態度が大きい」との非難もあったが、当の理事長は事件の経緯を丁寧に説明するとともに協会の管理不備を認め、「この度は申し訳ありませんでした」と何度も繰り返しておられた。今は亡き氏の名誉の為に記しておきたい。

 

私はこの面談で、「外部の識者を協会の理事に迎え、相撲ファンの声が届くような体制にするように」と強く指導した。当時の相撲協会の理事会メンバーは約10名、理事長以下すべて力士出身者で占められ、閉鎖性が強かった。

翌年には親方以外から理事2名と監事1名が決定、選任されて体制は刷新されたかに思えたが…、今回、またしても暴行事件が起きてしまった。

 

相撲協会は、警察の取り調べ終了後に、貴ノ岩からの事情聴取を行うようだ。このような事件を招いた原因を究明し、新たな再発防止策を講じるべきことは言うまでもないが、問題はその本気度だ。

社会の規範や倫理とずれている言われる協会の体質を刷新するために、過半の理事を外部から招くくらいの意気込みで、さらなる改革が行われることを望みたい。