【あやまちを改むるに憚ることなかれ】 平成6年冬

政治改革関連法案が成立した直後の平成6年2月2日、大事件が発生した。

小沢さんと細川さん(そして、斉藤大蔵次官)の手による国民福祉税構想である。

2日の深夜、武村さんに呼ばれて官邸の官房長官室に駆けつけた。

いつもの武村さんと様子が違う。すごい剣幕で怒っている。

「こんなことは許されない。イギリスで議会が誕生したのは国民に税を課したからだ。納税する以上、国民には意見を言う権利もある。だから国民の代表として議会が創立されたのだ。」

「園ちゃん、あんたも知らなかったのか?」とめずらしく激しい口調で園田さん(博之、さきがけ・日本新党代表幹事)を問い詰めている。

「俺も夕方まで聞かされていなかった。それまで福祉税の話は全く議論されていなかった。結果的に騙された気がする。」と園田さん。

すばらしく勘が良く交渉力もある園田さんが、いつになく元気がないのだ。

武村さんによると、細川さんと総理執務室で雑談していたらノックもなしに与党代表者会議のメンバー(小沢一郎、市川雄一他数人)が入ってきて、細川総理を囲んで座り込んだとのこと。

「消費税を上げましょう。」といきなり言いだして。

大蔵省から「国民福祉税」という一枚のペーパーが配られて。

その紙には、「消費税を国民福祉税にする。税率は7パーセント。」

と書いてあったそうだ。

武村さんはその日の午前中にも細川さんと会い、「いずれ消費税の引き上げは必要だが、今はまだ環境が整ってない。」と意見が一致していた。だから「細川さんは小沢さんらの呼びかけに簡単に応じることはあるまい。」と思い、先に部屋を出て園田さんに経緯を確かめていたところだった。

ところが、24時を過ぎ3日になった頃。突然、「総理記者会見が行われる。」

との連絡が官房長官室に入った。

武村さんが慌てて止めに行こうとしたけど、総理はすでに部屋を出た後だった。

武村さんの秘書官(勝栄二郎、現財務省事務次官)が、「長官、早く会見室へ行かないと。」と呼びにきたが。

「うるさい。君の出る幕じゃない。」と武村さんが凄まじい剣幕で怒鳴りつけた。

そばに居た鳩山由紀夫さんがどうしたものかと身動きが取れなくなっている。

私が、「鳩山さんまで行かないということになると、総理とさきがけとの関係はとことん悪くなる。貴方は会見に同席したほうが良い。」と言うと、鳩山さんはやっと腰を上げた。

咄嗟の判断ではあったが、後で鳩山さんの同席が事態収拾に意味を持つことになる。

数日後、国民福祉税構想は、政権内部はもとより国民からも激しい反発を受け、白紙撤回を余儀なくされる。

深夜の記者会見で税率7パーセント(当時の税率は3%)の根拠を聞かれ、総理が「腰だめの数値です。」と答えたのもまずかった。

国民に新たな税負担をお願いする時には、その根拠をはっきり示さないといけない。

(先の参議院選挙事の菅総理の消費税発言「10%」にも同じことが言える。)

この一件が細川さんと武村さんの間に大きな亀裂を生じさせた。

困ったことに二人がお互い意地を張って話もしない。

政府の最高責任者である総理と、その女房役、懐刀であるべき官房長官のコミュニケーションがないのだから、当然ながら、官邸は機能不全になる。

統一会派の総会で日本新党の議員は「武村が悪い」と我々を責め立てた。

そんな時、井手さん(政調会長)が「あやまちを改むるに憚ることなかれ。」と言い残して席を立った。

いつも静かな井手さんのこの一言で、その場の空気は変わったのだが…。

定例記者会見で武村さんが全く同じ言葉を用いたのにはいささか驚いた。

世代が同じだと考え方や言葉遣いまで近いのかもしれない。

とにかく細川さんと武村さんの関係を修復しなければならない。

鳩山さんが細川さんを、私が武村さんを説得したが、二人とも歩み寄ろうとしない。

武村さんとは連絡さえ取れなくなってしまった。

一件を案じて助けてくれたのが北川正恭さん(当時自民党、後の三重県知事)だった。

自民党清和会(安倍派)で、年下ではあるが当選回数で一期先輩の北川さんが、高輪宿舎の武村さんの部屋に押しかけ説得をしてくれたのだ。

結局、武村さんの方から細川さんに声をかけることで一件落着。細川さんも「私も手続きを間違えていた。」と応じたことで関係修復の体裁を整え、官邸は機能を回復した。

しかし、二人の信頼関係は二度と元に戻ることはなかった。

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