復興事業

先週、ようやく政府の復興構想会議が始動したが、既に被災したまちの復興をめざす提言が乱立気味だ。
「山を削って高台の住宅に住む」「海岸沿いの土地をかさ上げして人工地盤をつくる」「海岸沿いに防潮堤機能を持たせた工場を並べる」等々…。いずれも一考に値する。
が、忘れてならないのは我が国の財政は既に危機的状況にあることだ。それに、いくら安全で良好な住環境を創造しても、産業がなければ人は住み着かない。

仮設住宅の整備やがれきの撤去など、被災地の生活再生につぎ込む緊急的な資金を惜しんではならず、スピード第一で被災者を支援すべきだ。
しかし、次の段階の復興をめざす事業には、持続可能性の観点が必要になる。
財政運営に対する国際社会の厳しい要請もある。既にIMFも日本の復興政策に中長期的な財政再建策を盛り込むべきと指摘している。だからといって、即、復興増税と言うのでは能がない。

復興プロジェクトの立案に際しては、一つ一つの投資が将来どの程度の富を生み出すかを念頭に置いた事業計画を描き、資金調達を考える。いわゆるプロジェクト・ファイナンスの発想で進めなくてはならない。
30年、50年かかっても一定の経済成長がもたらされ、産業創造や雇用増進を通じて、広い意味で投資資金が回収できるなら、その事業は“適切”である。

今こそ、PFI(Private Finance Initiative=民主導の公共事業)制度と総合特区(規制緩和エリア)制度をフル活用して、民間の知恵と資金を生かした震災復興を進めるべきではないだろうか。資金調達の面では、復興のための投資ファンドを広く世界から募ることも有効だろう。

世界から集めた資金と民間の知恵で、安全安心基盤の確立と東北の基幹産業である一次産業の再生を進める。例えば、海水をかぶった農地と集落を対象に区画整理(=農地大規模化と土壌改良と宅地の台地化)を行い、さらに農業経営の効率化、販路の開拓等を民間の知恵で行う。
漁港や漁船、水産加工施設の再整備、漁業経営規模の拡大も同様だ。農水産業の経営規模が拡大し、就労環境が整えば、若者の就労も増えるのではないか。その結果、海外の一次産業と互角に戦う競争力も備わる。

従来の復興政策のように、公共事業一辺倒では経済成長は期待できない。高度成長期と異なり、今や公共投資の乗数効果は薄く、財政には資金負担に耐えうるスタミナがないのだから。
国全体の財政力向上の見地から、社会保障制度と税制改革も急がなくてはならないが、この問題と復興財源論=増税論は切り離すべきだろう。
復興プロジェクトの成否は財源ではなく、経済成長戦略に依るところが大きいのだ。むしろ、世界との結びつき、経済連携協定(EPA)の強化が急がれる。

菅首相率いる政府は、震災復興を金科玉条に積み重なった諸課題を先送りしようとしている風体だが、むしろ、今こそ、TPP参画を前提とした農水産業の大改革を実現し、世界と対等に競争できる一次産業の基盤づくりを進めるときではないのか。
東北の農水産業の復興は、その先頭に立つ成功モデルとしなければならない。