原発事故調査会

一時期、ニュースのヘッドラインを独占していた福島第一原発をめぐる報道も、やや落ち着きが見られるよう思える。
もちろん、退避生活を強いられている方々の住宅確保や農水産業をはじめとする損失補償の早期支払いなど、課題は山積しているものの、原発自体は目下のところ安定的にコントロールされており、収束に向けての工程表(努力目標ではあるが…)も発表された。

そんな中、政府は、5月中旬にも事故調査委員会を設置する意向を表明した。
事故の収拾が最優先の課題であることに変りはないが、再発を防ぐための検証も急がなければならない。先延ばしすると、必要な情報が失われる恐れもある。
現場の作業に支障をきたさないよう配慮しながら、並行して検証に必要な情報収集を行うことは可能だ。

5月26・27日にはフランスで主要8ヵ国(G8)首脳会議が、6月20日からは国際原子力機関(IAEA)の閣僚会議も予定されている。
事故発生以来、内外から「日本政府の情報発信は不充分」とのそしりを受けている。これらの会議でも、福島第一原発の現状と収束の見通しはもちろん、事故原因についても情報開示を求められることは必至だ。
むしろ、我が国の名誉挽回の絶好の機会とし、積極的な情報提供により信頼回復を果たすべきだろう。

設置予定の事故調査委員会には、当然ながら独立性と透明性が求められる。
今回の事案では、電力会社の活動を直接規制する官庁である「原子力安全・保安院」はおろか、中立的な立場で保安院等の行為をチェックすべき「原子力安全委員会」までもが、検証の対象と言える。調査委員会はこれらの政府組織から独立した公正の判断ができる第三者機関としなければならない。

原子力に詳しい専門家の多くは、なんらかの形で電力会社や保安院、安全委員会などに関わってきた。それだけに委員の人選は難しいようにも考えられるが、検証作業には必ずしも専門家が必要という訳でもない。
米国のスリーマイルアイランド原発事故の原因を総合的に徹底調査するために設置された「TMI事故に関する大統領委員会」(通称ケメニー委員会)が大いに参考になるだろう。
この委員会は、ダートマス大学総長のケメニー博士(専門:インターネットサイエンス)を委員長とし、学界・労働界・地方自治体の代表者及び住民代表(主婦)から選出された12名の委員から構成されている。原子力の専門家は1人しか入っていない。

今回の調査委員会も、津波によって原発に何が起こり、その後どういう対処が為されたかの客観的な分析が重要である。特定分野の専門家の知見が必要な部分があれば、参考人として意見を求めれば良い。

検証作業の結果が世界中の原子力政策に影響を与える以上、国際的に開かれたプロセスも必須だ。IAEAなどの国際機関の参画を求めたり、検証結果について国際的な評価を受けたりすることも考えなければならないだろう。

とにかく、政府は国際社会が「フクシマ」に視線を注いでいることを忘れてはならない。
思いつきのごとく唐突に原発操業停止要請を発するのではなく、守るべき公益と私権制限の影響を熟慮し、論理的、客観的な根拠の下に必要な措置を講ずるべきであろう。

そのためにも、スピード感を持って検証作業を進め、正確な現状報告とデーターの開示を行って欲しい。
被災地の方々に安心をもたらし、世界のエネルギー政策の明日を拓く、そんな検証活動と成果を期待したい。