四畳半の家庭菜園から

もう15年前になるが、平成8年10月、4回目の選挙で私は苦杯を喫した。

結果的に地元で過ごす時間が増えた私は、事務所と自宅の間の四畳半ほどの土地で初めての畑作にチャレンジした。

まず、雑草に埋れていた空地を備中鍬で耕し、四条の畝を作り、キャベツ、白菜、ジャガイモ、ピーマン、トマトなど、多くの種類の野菜を数本ずつ植えた。多品種少量生産だ。

生ゴミ減量作戦を奨励していた婦人会のお陰で、わが家にも2つのコンポストに堆肥が余るほど貯えられており、肥料に不自由することはなかった。

だが、農薬は一切使わない有機栽培だから、日々の手入れは結構大変だった。

キャベツなど葉物野菜は、葉が巻き始めると、どこからともなく蝶が飛んで来て卵を生みつけ、そのうち幼虫が旺盛な食欲を発揮してくれる。

日中は挨拶廻りなどがあるから、日々の害虫退治は夜の仕事になった。懐中電燈の灯りを頼りに割り箸でアオムシを駆除するのだが、殺すのは何となく可愛そうでアジサイなどの違う葉っぱに移してやっていた。

毎晩ムシ取りをして育てたキャベツのデキは格別。市販のモノとは葉の厚みが違うし、鉄板の上で左右に分けて焼き比べてみると味も明らかに違う(と思った)。

それまでの苦労が喜びに変わる瞬間だったと記憶している。

同じ頃、レモンの苗木をブロック塀の傍に植えると、キャベツ目当てのモンシロチョウに加えて、大アゲハや黄アゲハなど、最近はめったに見られなくなった大物も飛来するようになった。

ただ、このレモンの木はアゲハのせいか、日照不足のせいか、5年ほどは苗木の大きさのままだった。塀から離して植え替えた数年前から、ようやく実を結ぶようになり、今年も既に40個以上の小さな実をつけている。秋の収穫が楽しみだ。

自然の中で育んだ恵みの品を収穫するのは最高に楽しい。

東北で農業を営んでおられる方々も、収穫期には同じ想いを感じておられていたのだろう。しかも、わが家の趣味の菜園とは異なり、日本の食料供給基地である東北では、ほとんどの農家が販売農家であり、営農は現金収入を得る重要な手段なのだ。

手塩にかけて育てた大量のホウレン草やかき菜を廃棄せざるを得なかった方々の悔しさを思うと、本当に胸が痛む。瓦礫の残る農地、塩をかぶった水田を前に、今年の田植えを見送らざるを得なかった方々の無念はいかほどだろう。

政治は一日も早く、その思いに応えなければならない。

四季の移ろいと歩調を合わせる一次産業にとって、いつまでに何ができるかというスケジュール管理は特に大切だ。植え付けの時期、収穫の時期を逃すと一年を棒に振ることになってしまう。

一方で、時間感覚のない菅首相は、辞めると宣言したように見せかけながら、メドがたたない政策課題を次々と、かつ唐突に繰り出し、「“メド”がつくまで、私の責任として、やらせて欲しい」と、総理の椅子にしがみついている。

「自己満足のために軽々しく『責任』という言葉を使わないでくれ」と言いたい。

昨夜(19日)の政府・民主党首脳会談でも、退陣時期の明示を求める執行部に対し、首相は一人開き直り、3次補正予算や自然エネルギー利用促進法の成立を持ち出し、年末までの超大幅な会期延長を求めたようだ。結果、退陣時期はおろか、会期延長の幅も示すことができない状態が続いている。

3ヶ月以上の会期延長、通年国会が必要と思っていたのなら、内閣不信任案提出前の5月からそう主張すべきだろう。当時は国会での責任追及が継続することに怯え、会期延長はしないと言っていたではないか。

今になって小規模2次補正の編成を命じているが、その中身である二重ローンや液状化の問題は、震災直後からわかっていたことだ。規模も2兆円程度なら、もっと早く指示していれば会期中に編成できていただろう。

貴方が唐突に思いついた課題群は、心配しなくても次の総理が、与野党の“熟議”のうえで、必要に応じて実現する。

そのプロセスをスピーディにこなすためにも、今や障害物でしかない貴方は、一日も早く総理の座を降りるべきだ。

それができないなら、貴方は、国家の危機に際し、自尊心のために政治を大混乱させた『平成の暴君』として歴史に名を残すことになるだろう。