アジアとの絆

先週、ブータン王国のジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王とジェツン王妃が、日本に爽やかな、ほほえみの風をもたらした。
夫妻は先月結婚されたばかり。結婚後はじめての外遊に新婚旅行も兼ねて日本を選ばれたという。日本にとっても、東日本大震災後初めての国賓の受け入れとなった。

インドと中国の間のヒマラヤ山嶺に位置するブータンの面積は九州とほぼ同じ、人口はわずか70万人の小国だ。
だが、国の豊かさは面積や人口や経済力で決まるものではない。どんなに経済規模が大きくても、住民一人ひとりが日々の暮らしに満足し、生きることの幸せを感じていなくては、豊かな国とは言えない。

ブータンは、そういった心の豊かさを重んじ、国民総幸福量(GNH)という尺度を作りあげた国として有名だ。
自然環境と共生し、伝統文化の遵守を重視する政策は国民に浸透しており、ブータン政府が実施した国勢調査では、「貴方は今幸せか」という問いに、国民の96%が「幸福だ」と答えているという。(あやかりたいものである。)

この国は大の親日国でもあり、国連等での決議において常に日本を支持してもらえる友好国でもある。皇室との関係も深く、昭和天皇がご逝去された時には、国民全員が喪に服したともいわれている。
親日の心は、17日の国王の演説からも強く感じられた。国家元首の国会演説を拝聴する機会は何度かあったが、今回ほど心に響く演説はなかった。

国王は日本人について、「名誉と誇り、規律を重んじる国民、誇り高き伝統を持つ国民、不屈の精神、断固たる決意、そして秀でることへの願望をもって何事にも取り組む国民、知行一致の国民、兄弟愛や友愛、揺るぎない強さと気丈さを併せ持った国民であると認識してきました」と述べられた。

さらに、「卓越性や技術革新を体現する日本、偉大な決断と業績をなしつつも静かな尊厳と謙虚さを兼ね備えた日本国民、そして他の国々の模範となる国から、この世界が非常に大きな恩恵を受けるであろう」とつけ加えられた。そして、
「日本がアジアと世界を導き、また世界情勢における日本の存在が日本国民の偉大な業績と歴史を反映するに際して、ブータンは、皆様を応援し支持して参ります。」とも語られた。

この賛辞は、外交辞令などではない。日本人が歴史と伝統の中で育くんできた精神的価値に対する、心からの賞賛なのだ。東日本大震災の被災者の皆さんの姿を目にして「神話でなく現実だ」と思われたとも。
私たちは、この小さな美しい国の期待に応えなくてはならない。

ブータンに限らずアジアには、日本に好感を持つ国々が数多い(中国や北朝鮮はともかく…)。それは、我が国が欧米の支配を受けず近代化を果たし、アジア諸国に進むべき道を示してきたからに他ならない。

今回の演説から、アジアとの絆を尊重し、アジア全体の利益を極大化するリーダーとして、日本の役割と責任の重さを改めて自覚させられた。
それとともに思い出したのが、私たちが経済成長のなかで忘れかけてきた自然との共生、調和を重んじる「和の心」の大切さだ。

国王からは、「友愛」や「謙虚さ」等々を日本の美徳として褒め称えられたのだが、これらの道徳心はむしろブータン国民から学ばなくてはならないのだろう。
雨中の金閣寺訪問で、有馬住職に寄り添い、やさしく傘を差し出されたご夫妻の姿。あのような自然な美しい立ち居振る舞いを、私たち日本人も再認識して身につけなくてはならない。

国賓をおもてなしする宮中晩餐会よりも、身内の政治資金パーティを優先する閣僚がいたことは、残念でならない。
「国民は一流でも政治は三流」と言われないよう、心しなくてはと思う。