船中八策

通常国会開会からひと月を経て、野田内閣の支持率は軒並みに低下、30%を切り危機水域に突入したものと見られる。それにも関らず自民党の支持率も伸び悩み(というよりむしろ微減)の情況が続いている。
そのような中で、橋下徹大阪市長が引いる大阪維新の会の国政進出への期待が、日を追う毎に高まってきた。「決められない政治」に対する国民の不満、国政の閉塞感の打破を求める民意の反映が、世論調査の結果となっているのだ。

彼らの次期衆議院選挙に向けての公約「船中八策」の骨格も公表され、各方面で物議を醸している。「八策」によると「地域が自己決定、自己責任、自己負担で自立する」ことを基本的な理念とし、国と地方の役割分担を明確にして、各都市が統治機構のあり方を自ら決められる仕組みづくりを求めるとしている。
その上で各論として―①統治機構の変革②行政改革③公務員改革④教育改革⑤社会保障制度改革⑥税制を含む経済政策⑦外交・防衛⑧憲法改正―の八つの柱を掲げる。

たたき台と言われているだけに、政策案とか公約と呼ぶにはまだまだ内容が物足りないが、全体を通して「決定できる民主主義」をめざす志は見えている。各論の論評については、成案の公表を待ってからにするとして、現状の国政の課題を分かり易く整理し、課題解決の方向性を明確に打ち出したことについては評価したい。

既成政党からは、憲法改正が必要な項目が列挙されているが故に、「論評に値いしない」「実現性がない」「言うだけなら簡単だ」などとの厳しい評価も聞こえてくるが、果たしてそうだろうか?
そもそも憲法は法律の一つであり、法律とは社会規範の集大成である。国家のあるべき姿と現行憲法が適合しないのであればそれを改正すべきであって、憲法改正が必要だから現実的でないとの主張の方が間違っている。むしろ「八策」にもあるように、厳しすぎる憲法改正手続きこそ改正すべきだろう。

例えば、「首相公選制」はこれまでも盛んに議論されて来たテーマで、今も超党派の議員による「首相公選を実現する会」も活動している。当面、憲法改正は実現しなくても、「公選制」により近い形の首相の選び方も可能だろう。

「参議院の廃止とそれに代わる首長兼務の国会議員による協議の場」と言うのは、現職参議院議員にとっては過激すぎる提案だろうが、地方分権時代の「良識の府」のあり方としては一考すべきだろう。現にフランスでは、地方自治体の首長と国会議員の兼職は定着した制度となっている。

そもそも衆参ねじれなどという問題が生じるのは、第二院である参議院が衆議院と同じく政党を基本とする議会だからである。本来、二院制の目的は、異なる視点で政策を評価する点にあり、参議院と衆議院が同質では存在意義が問われる。少なくとも党議拘束などという慣行は参議院にはそぐわないだろう。

もちろん政策決定のスピードを優先するのであれば、一院制が優れていることは言うまでもない。私は「一定の期間(7~10年程度?)を経て、衆参両院を統合し一院制に移行する」が最も現実的なのではないかと考えている。
当面は、国会の意思決定がよりスピーディに行えるように、現行の「予算、条約、首班指名」に加え、「予算関連法案」にも衆議院の議決に優先権を与えるなどの工夫を考えるべきだろう。

「船中八策」は維新の会から「決められない国政」に突きつけられた挑戦状だ。
国政に参画する者は、国民に対して自らの政策、主義主張を明確に示さなくてはならない。そして政策の方向性を同じくする者が集うのが「政党」であるべきだろう。
残念ながら、現在の自民党も民主党も、当選証書を獲得するための所属機関に成り果ててしまっている。昨今の各党内の内紛を見るにつけ、政策の同一性は見られない。

本来の政党政治を取り戻すために、まずは個々の候補者が政策を明示して戦い、選挙後に政党を再編する。それが政党の存在意義が著しく低下した中で行なわれる次回の衆議院総選挙にふさわしい戦いになるのかもしれない。