なでしこジャパン

「見て、空がまっ赤よ」。7月18日の早朝、夜明け前から“なでしこジャパン”の激闘を観戦していた妻が、東の空を見て叫んだ。
窓の外に目を向けると日本(ひのもと)の勝利を暗示するかのように、まっ赤な朝焼けが空一面に広がっていた。

試合の結果は、ご承知のとおり。“なでしこ”たちは二度も先行されながら劣勢を跳ね返し、PK戦を制して見事に勝利、世界の頂点に立った。
欧米の選手たちと比べると平均身長が10㎝以上も低いというハンディ。それを克服したのは細かいパス廻しの技術と身体を張った勇気あるディフェンス力、そして何よりもメンバーの信頼関係、友を信じるチームの結束力だろう。

彼女たちは試合終了後、東日本大震災に寄せられた世界中からの支援へのお礼の横幕「Thank you for all people of the world. Thank you for your support」を広げ、日本国民を代表してピッチを一周していた。
まさに「大和撫子」と呼ぶにふさわしい、清らかで美しいその姿は、東北の被災者の皆さんのみならず日本中に元気を与えてくれた。

世界一という快挙を成し遂げた“なでしこ”たちも、日頃のプレー環境はなかなか厳しいものがある。
男たちのJ1に当たる「なでしこリーグ」の一試合平均の入場者数は900人ほどだという。この数字が示すとおり、リーグを構成する9チームのうち、浦和や市原などJリーグとおなじ母体が運営する4チーム以外は、非営利(NPO)のクラブだ。

澤選手や海堀選手をはじめ7人の日本代表が所属する神戸レオネッサも、そんなクラブチームの一つ。プロ契約の選手は一握りで、ほとんどの選手は仕事とサッカーを両立させている。24日、そのレオネッサとジェフ市原のゲームが、神戸ホームズスタジアムで行われた。観客数はリーグ“過去最高”の1万8000人。
今の“なでしこ”ブームを考えると当然とも言えるかもしれないが、この人気をこれからも維持、拡大してもらいたいものだ。

「スポーツ振興」という政策分野も、なかなか難しいものがある。昨今の大相撲をめぐる問題のように、興行面が行きすぎると競技スポーツらしさを失う。だからといって、資金獲得無くしては、選手の育成、ファンの裾野拡大が進まないのも事実ではある。
野球が代表かもしれないが、我が国のアスリート育成は学校のクラブ活動に大きく依存している。確かに知育・徳育・体育の言葉のごとく、中学高校の教育の一貫として身体を鍛えるのは大切なことだが、例えば女子サッカーなどについては指導員不足から、必ずしもすべての中学高校にクラブが存在するとは限らない。
競技人口が一部の種目に偏らないようにするためには、国家予算による支援措置も必要だ。

このようなスポーツ振興予算にも、事業仕分けの大なたを振るって、削減してきたのが民主党政権だ。
19日の首相官邸での“なでしこジャパン”優勝報告会の際、「今から間に合うか分からないがチームの統率力を勉強したい」との総理発言の後、総理へのアドバイスを求められた澤穂希主将はきっぱりと「ないです」と答えたそうだ。
さすがは、世界のMVP。その誉れを改めて称えたい。

あたりまえの話し

東日本大震災発災後、官邸記者クラブからの会見要請はおろか、ぶらさがり取材にすら応じなかった菅首相が、先週13日の夕刻、自ら進んで記者会見を開いた。
その中身は、ご承知のとおり「脱・原発依存」宣言だ。

いつもの菅発言と同じく、代替エネルギーの確保の見直しや実現に向けての道筋や時期など、具体的な目標については示されておらず、政策の体はなしていない。単なる思いつきの、場当たり的なパフォーマンスだ。

最近では「浜岡原発停止要請」「原発再稼動時のストレステスト導入」に続いての唐突発言だが、振り返ってみると昨年の参議院選に於ける「消費税10%」や「平成の開国(TPP)」、「社会保障と税の一体改革」も同類だ。どの宣言も言いっぱなしで、何も具体化していない。私以外にも「またか?」と思われた方々も多いだろう。

民主党内や閣内でも一切議論されていないまま行われたこの宣言は、与野党のみならず閣内からも異論が噴出した。経済界でも批判が続出している。
谷垣自民党総裁は会見で「論評に値せず」と切り捨てたが、私も全く同感だ。

結局、首相の女房役である枝野官房長官も非難に耐えきれず、「遠い将来の希望という首相の思いを語った」と釈明し、首相も15日の本会議で「政府見解ではなく私自身の考え、私的な思い」と発言を後退させた。

ただ、首相には記者会見で“私的な想い”を発言する権利があるのだろうか?
ましてや、自らが記者クラブに要請して開催した会見である。通常は内閣で方針決定した“政府の思い”を表明する場ではないのか? この私的発言問題一つをとっても、菅直人という人物は一国の宰相に値しない。

今や孤独の暴君となった感のある首相の発言はともかくとして、福島原発事故を受けて、我が国のエネルギー政策を「白紙で見直す」ことは必然である。
この問題は、日本経済・国民生活・環境問題などを総合的に判断し、科学的かつ客観的に議論しなければならない。冷静にエネルギー政策のあり方を考えてみよう。

まず超短期的課題、この夏と冬、来年の夏をどう乗り切るか。
これは政策論としては手遅れの領域である。ストレステスト発言により、点検中の原発の即時起動は不可能になった。関西では間もなく11分の7の原子炉が停止状態となり、電力供給量が激減するが、この事態を乗り切る術は国民の節電努力しかない。

次に数年から10年後を視野に入れた短期的課題。
老朽化した原発は廃炉していかざるを得ないだろう。問題はその代替エネルギー源だ。
自然エネルギーはまだ間に合わない。選択肢は新型原発で担うか、化石燃料(前号で紹介したコンバインドサイクルLNG発電等)で担うかになる。後者の場合は当然温暖化ガスが増加する。一方、無理に自然エネルギー導入を加速すると電気料金の高額化や電力不足により、産業の空洞化=海外移転が進む可能性もある。

そして、20~30年後の姿。これくらいのスパンの計画であれば、電力供給バランスの再編を論じることができる。現在、原子30%、化石60%、自然10%(自然のうち9%は水力)。これをどう変えるか? 昨年民主党政権が定めた計画では原子50%、化石30%、自然20%にすると言う内容だった。脱原発ということは、化石と自然の発電量を倍増(50%→100%)させるということだ。

人口減少や産業構造の転換により、電力消費量が減少することも考えられる。技術革新により、自然エネルギーを30~50%にすることは不可能ではないだろう。しかし、化石と自然で100%というのはどうだろうか? せっかく蓄積してきた原子力の技術を捨て去ることにも疑問を感じる。原子力プラントの輸出は、数少ない成長産業でもあるのだ。

政治はこの課題について、より一層スピードアップして議論を深め、解決策を見出さなければならない。
それが震災復興とともに今、日本に求められている国家的課題であり、現在を生きる我々の「未来への責任」だと、私は考える。

エネルギー政策

自民党内の「総合エネルギー政策特命委員会」の本格意的な議論がスタートした。
「福島原発の事故を受けての今後のエネルギー政策について8月中に取りまとめる」と報道されているが、その関連で今私が注目している一つのプロジェクトについて言及したい。

今から10年前だと記憶しているが、文部科学省のスタッフの一人が私の事務所に、「官民連携開発プロジェクトの推進を政治の側から応援してほしい」と言って、やって来た。
その中身は、新素材(超耐熱材)を使った1700℃級発電用ガスタービンだ。

従来の発電用のLNGガスタービンの燃焼温度は1500℃まで。羽(タービンブレード)に使う超耐熱材の開発(独立行政法人 物質・材料研究機構で開発)に成功すれば、これを1700℃まで高めることができるという。
たった200℃と思われるかもしれないが、この燃焼温度の上昇はエネルギー効率(発電端熱効率)を改善し、燃料コストとCO2排出量の大幅な削減につながる。

直感的に悪い話ではないと思ったのだが、良く聞いてみると私の地元の三菱重工業高砂製作所が開発パートナーだという。

それを聞いて私の腰が引けた。
「先生の地元でもありますから」と言われたことにいささか抵抗があったのと、選挙で労組に苦しめられている(私の思い込みかも知れないが…)との不純な思いがあった。
余談ではあるが、ロケットの開発をめぐり「渡海は三菱の廻し者」と覚えのない陰口も流されたこともある。(政治の世界ではありがちだが…)

一度は断ったのだが、「これは国益の賭かった勝負なのです。米国との開発競争に勝たなければ、この分野での日本の未来はありません」と食い下がられた。
私は「国益」と言う言葉に弱い。環境保護に貢献できるという点にも心をくすぐられた。
結局、私はこのプロジェクトの予算獲得に積極的に肩入れすることになった。

以来、一貫してこの新タービンの開発動向を見守ってきたが、要素技術開発(2004~07)、実用化技術開発(2008~11)と順調に進行し、既に1600℃級に導入する実機の試運転に成功している。
2013年にはこのタービンを組み込んだ高効率コンバインドサイクル発電設備(※)が関西電力姫路第二発電所で運用開始するほか、東京電力川崎発電所(2016年度)、五井発電所(2020年度以降)でも採用計画が進んでいる。

ちなみに前述の姫路第二発電所では、設備更新によって発電効率が42%→60%へと向上し、発電電力量あたりの燃料費とCO2排出量を共に約30%低減することが可能になる。

現在は次のステップである1700℃級の実証機関発設計が行なわれているが、2015年には実証運転が計画され、更なる効率化が実現するものと期待している。

福島第一原発の事故を受けて、エネルギー政策の見直しは緊急かつ必須の課題であることは言うまでもない。そして、確かに菅総理が唱える再生可能エネルギーの研究開発・利用促進は大切だろう。
だが、政策は単線的に考えると取り返しが付かない失策を招く。エネルギー政策のあり方については、経済、国民生活、環境問題など、あらゆる視点を考慮しながら総合的な判断をする必要がある。

そもそも、再生可能エネルギーをどんなに急いでも数年で全電力をまかなうことは不可能だし、莫大な費用(電気料金の上昇)もかかる。
当面のエネルギー需要を確保する上で、比較的環境負担の少ないLNGコンバインドサイクルによる発電システムの導入と、それを支える1700℃級ガスタービンの開発は、時代の要請に応えた時宜を得たものだ。

一日も早い実現に向け、関係者のより一層の努力を期待している。

※コンバインドサイクル発電方式:ガスタービンの廃熱を回収し、蒸気タービンを回す方式。二重に発電機を回すため熱効率が高い。

社会保障改革

先週30日(木)、政府・与党の税と社会保障一体改革案が決定された。

「自助・公助・共助のバランスに留意」や「徹底した給付の重点化」「給付・負担両面での世代間・世代内での公平を重視」など基本的な考え方は、もっともな言葉が並んでいる。
しかし、具体的改革の方向となると、消費税の目的税化とその段階的引き上げ以外は見るべき内容はない。
本来、この改革に求められる重要な視点の一つは歳出抑制策であり、年金や医療費の給付をいかに適正化するかなのだが、これらについては検討方針が並ぶのみだ。

ただ、この案がこれから与野党協議を始めるための「たたき台」であるのなら、あまりガチガチに固めない方が良いかも知れない。自民党にしても、年金や医療費削減の妙案を持っている訳ではないのだから…。

今回の案で、民主党マニフェストの一部(増税無き年金改革)は破綻していることを自ら示された。後は先送りされているマニフェスト全体の検証・修正も急いで党内調整を終えて欲しい。
そうすれば、様々な政策課題に関する与野党協議も可能になるだろう。(与野党から信頼失墜状態にある菅総理の退場も、よりスムースな協議をもたらすだろう…)

自民党も、この国家的危機に直面している時期に「マニフェストを修正するなら解散しろ」とは言えるものではないし、言うべきではない。
石破政調会長は今回の案が閣議決定されていないことを理由に「協議のテーブルにはつけない」と発言しているが、私はそうは思わない。(石破氏の発言は、多分に菅総理に対する不信感に由来するのだろうが…)

そもそも、社会保障政策や外交政策(安全保障政策)は、短期的な視野で決定すべき事項ではない。たとえ政権交代があったとしても、揺らいではならない政策なのだ。
逆に言えば、これらの政策は、常日頃から党派の主張を超えた国策として、議論しなくてはならない。(今回の政権交代ではこのルールを破ってしまった故に日米関係にひびが入り、子ども手当等をめぐる混乱を来してしまった。)

ここ数年間、私は一貫して社会保障問題について「超党派の協議が必要」と主張してきた。前回の総選挙や昨年の参議院選挙での我が党のマニフェストに「超党派協議機関」について言及することにも汗をかいてきた。

あと1年で団塊の世代(1947~49年生まれ)が65歳となり、年金の受給側=支えられる側になる。加齢とともに医療の世話になる機会が増大することも避けられない。
昨年秋の国勢調査が示すとおり、我が国は人口減少社会に突入した。

急激な少子高齢化に見舞われるこの社会が持続可能であるための条件は、社会保障の給付を抑制するか、さもなければ、負担を上乗せするか、この二者択一だ。
税と社会保障の一体改革は待ったなし。もう先送りすることできない。

ところで会議の席で、「今回の決定は歴史的な決定だ。皆さんの努力を含めて誇りに思う」と言った菅首相だが、かつて「(この問題に)政治生命を賭ける」とまで言っていたのに、今回の取りまとめに汗をかいた姿は一向に見えなかった。
「平成の開国」とかかっこよく叫んでいたTPPは、全く耳にしなくなってしまった。
浜岡原発を止めた時の勢いはどこへ行ったのか、原発再起動問題は海江田経済産業大臣に任せっきりだ。

場当たり的に次々と国民受けを狙った新しい課題を見つけては延命を図って来た菅総理だが、特例公債法・第2次補正予算に加えて、今は再生可能エネルギー全量固定価格買取法案の成立が退陣の条件(一定のメド)と言われている。
「与野党協議を呼び掛ける」とのことだが、貴方の退陣がその実現への最短コースであり、それこそが「政治生命を賭ける」ということだと、私は言いたい。