TOKYO 2020

8日の未明、数多の国民がTVに釘づけになっていたことと思う。
午前5時20分過ぎ、IOC会長のジャック・ロゲ氏が、投票結果が記されたボードを取り出し裏返した瞬間、「トーキョウ」のアナウンスとともに“TOKYO 2020”の文字が眼に飛び込んできた。ブエノスアイレスのIOC総会会場は勿論、夜を徹して日本各地で朗報を待っていた多くの応援団から大歓声あがった。

それにしてもハラハラ、ドキドキの一夜であった。
優位が伝えられながら敗退を喫した4年前の記憶があるだけに、1回目の投票後、スクリーンから「TOKYO」の文字が消え、マドリードとイスタンブールが同数と発表された時には、負けたと思われた方も多かったのではないだろうか。

正直、イスタンブールとの決選投票となった時、一瞬、不吉な思いが脳裏をよぎった。
イスタンブールの招致コンセプトは「ヨーロッパとアジアの架け橋」と、非常に分かり易く魅力的に思えたし、イスラム教国家で初めてのオリンピック開催もタイミングがよい。一方で、我が東京は、投票日を目前にしてフクシマの汚染水問題がクローズアップされていた。

決選投票の結果は60対36で東京の勝利。イスタンブール、マドリードの健闘を心から讃えるとともに、竹田招致委員会理事長をはじめ、招致関係者のチームワークに心から敬意を表したい。

今回の東京招致活動では、移動距離など選手に負担をかけない“アスリートファースト“を掲げ、安心で安全な成熟都市「東京」を強調した。そして、2回目の投票で逆転敗退した前回の結果を教訓に、IOC委員への緻密なロビー活動も行なうなど、地道な努力を積み重ねてきた。

何よりも素晴らしかったのが、投票を前にした日本のプレゼンテーションだ。安倍首相、猪瀬知事、太田選手、佐藤選手ら、それぞれのスピーチはしっかりと役割分担され、東京の、日本の魅力を様々な角度から余すことなく伝えていた。何よりも熱い心が伝わってきた。加えて、高円宮妃久子さまの震災復興支援への感謝のスピーチも大きな力となった。

半世紀前、昭和39年(1964)の東京オリンピック招致は、高速道路や新幹線等の交通基盤の整備を進め、今日の東京の原型を形作った。そして、経済効果は全国に波及し、日本の高度経済成長の起点となった。

今、日本は人口減少社会の入り口に立っている。行く手に待ち受けるのは世界が経験したことのない超高齢化の時代だ。
“TOKYO 2020”五輪・パラリンピック招致成功は、この時代の転換点に対応した新たな社会システムを構築し、成熟社会を切り開く起爆剤になることだろう。
単なる建設投資による経済効果だけではない。競技へのチャレンジを通じた若者のスポーツマンシップの育成。大会運営へのボランティア参加による協働精神、互助の心の醸成。世界との交流を基軸にした新たな経済関係の創造。様々な開催効果を日本の未来を創造する力にしなければならない。

短期的にはオリンピック景気が、安倍総理の政権運営にプラスになることは間違いない。
大幅な金融緩和、国土強靭化のための財政出動、そしてイノベーションによる成長戦略。これら三本の矢に続き、第四の矢とも言えるのがオリンピック招致決定だ。もうデフレ脱却宣言の時は目の前に迫っている。

144ゲームの価値

大きく引き離されていた巨人との差を5ゲーム差までに縮小し、8月26日から首都決戦に乗り込んだ我らが阪神タイガース。3タテなら一気に2ゲーム差、久方ぶりの“阪神優勝!”“逆転優勝!”の文字が阪神ファンの脳裏をかすめ、私も内心大いに期待し一人盛り上がっていたのだが…。
残念ながら東京ドームでの対巨人3連戦は全敗に終わり、久しぶりに甲子園に戻っての広島戦も負け越した。首位巨人の背中は再び遙か彼方の8.5ゲーム差に遠ざかり、優勝マジックも19まで減少してしまった。

いつか来た道、いつもながらの風景と言えなくもないが、私にとっての今年のセリーグペナントレースは終わったも同然だ。
かつて“死のロード”と言われ苦難を極めた高校野球大会中の長期遠征も、京セラドームを準ホーム球場としてからは昔話。今年は登り調子でロードを締め括り、甲子園に凱旋する予定であったが、至極残念である。
ここに至っては、クライマックスシリーズ(以下、CS)で勝ちを収めて日本シリーズに駒を進め、日本一を狙って欲しいと願うのみだが…。

そのCSについて、先日、ある野球解説者がその制度改善を提言されていた。私もペナントレースと日本シリーズの関連づけを考え直すべきだと思う。

数年前、ロッテがリーグ3位からパリーグのCSを制し、その余勢を駆って日本シリーズでも優勝を遂げたことがある。ルールに従ってそういう結果になったのだが、チョット違和感を憶えたのは私だけではないだろう。
今年のセリーグは、巨人・阪神が他の4チームを引き離している。現在3位の広島は借金を9つも抱え、残り25試合程度で勝率5割を確保するのは至難の業だ。
それだけチーム力に差があるということかも知れないが、勝負はやってみなければわからない。特に短期決戦ではラッキーボーイの出現やちょっとしたミスで流れが決まることがよくある。
つまり、リーグ戦で5割にも達しないチームが、リーグ代表となり日本シリーズに出場。そして、日本一になる可能性もあるのだ。

加えて、CSの1位と2位、2位と3位のアドバンテージの設定にも疑問がある。
現行ルールでは、いくらゲーム差がついていても上位チームのアドバンテージは1勝のみ、10ゲーム引き離してもゲーム差なしでも同じだ。これでは順位決定後のレギュラーシーズンは完全に消化試合になってしまう。例えば、リーグ戦での5ゲーム差はCSの1勝に置き換えるというような工夫が必要ではないかと思う。

「CSは日本シリーズ出場チームを決める手続きに過ぎない。レギュラーシーズンとポストシーズンは別物。」と言ってしまえばそれまでだが、本来、日本シリーズは各リーグのチャンピオンが競い、日本一のチームを決定するものではなかったのか? 144試合のペナントレースの結果を重視した日本一決定戦のルールを設けてもらいたいものだ。

今年のプロ野球は、密室で決定された「飛ぶ試合球」問題で物議をかもしたが、民主主義のルールづくりはオープンな議論が基本。政府では、先週、来春からの消費税の引き上げの是非について、60人もの有識者から意見を聴取し、「十分な対策を前提に、予定通り4月の引き上げを支持する者が大勢」と総括した。 
CSも含めたプロ野球のポストシーズンのあり方についても、ファンの声を聞き、大いに議論してもらいたい。(と言いながらも、今年に限れば、われわれ虎キチはCSでの大逆転を秘かに期待しているのだが…。)