感動をありがとう

連日連夜(日本では早朝)、遙か彼方のソチから素晴らしい知らせが届いている。
男子フィギュアスケートの羽生結弦選手は、日本中が待ちに待った金メダル、そして113名の選手団を率いる葛西紀明主将はジャンプラージヒルで銀メダル。渡部暁斗選手もノルディック複合で20年ぶりのメダルをもたらした。スノーボードハーフパイプの平野歩夢、平岡卓の両若手選手の銀、銅の活躍から始まったこの大会も、いよいよクライマックスを迎えようとしている。

今、注目を集める政策の一つである「教育委員会改革」の党内調整を任されている私は、連日の政調部会、小委員会コアメンバーとの論点整理やプレスへ対応等々、多忙な日々を過ごしている。それでも、宿舎に帰ったら深夜から未明にかけてテレビ画面を通じての応援についつい熱がこもってしまう、まだ暫くは寝不足が続きそうだ。

4年に一度のスポーツの祭典、オリンピックの舞台には魔物が棲んでいるとよく言われる。
大会前に“絶対金”と大本命視された選手がメダルを逃すことも珍しくない。必ずしも実力どおりの決着となるとは限らないのだ。大舞台特有の雰囲気や選手への過度の期待が、アスリートの精神面やフィジカル面に微妙に影響を与えるのだろう。
今大会の日本の目標メダル数は「1998年の長野五輪超え」。金5個メダル総数で10個だった。この目標が高かっただけに、大会半ばまで金メダルゼロの状況に日本列島に暗雲が漂い始めた。その空気を払拭してくれたのが、冒頭の若武者羽生選手の快挙だ。

ショートプログラム1位で臨んだフリー序盤、緊張からかジャンプのミスがあったものの、
疲労が重なる後半に加点に繋がるジャンプで持ちこたえた。プレッシャーをはねのけて自分に打ち勝ち、世界ランキング1位の誇りを守った演技に心から拍手を送りたい。
羽生選手は19歳、まだあどけなさが残る彼だが、歴史に残る大仕事を成し遂げてくれた。その活躍、そしてルックスから “氷上の王子様”なる冠が贈られたと聞く。

続いてもたらされたのが、7度目のオリンピック出場で41歳の古豪、葛西選手の大ジャンプの連続だ。一位との差はわずかに1.3ポイント、飛距離だけなら勝っていた。正に金に匹敵する見事な銀メダルだ。第一線で活躍する選手寿命の長さから、世界中のジャンプ選手から尊敬の意味を込めて“レジェンド”(伝説の人)と称されている葛西選手、「4年後8年後と、もっと向上すると思っている」との宣言に只々頭が下がる。

前回のこのコラムで「リケジョ」の小保方晴子さんの話をしたが、今回も少し自慢話をしてみたい。
先月末に自民党国会議員による稲門会(早稲田大学同窓会)が催され、その席上、鎌田薫総長からソチ五輪に出場する稲門の選手について報告があった。日本選手団113名のうち我らが後輩は13名。大学別ランキングではダントツのトップだ。なかでも羽生選手は金メダルに一番近いと評され、OB一同大いに盛り上がった。そして今、羽生選手の金、渡部選手の銀メダル獲得の朗報を聞いて、先輩として胸が震えている。

メダルを獲得し拳を高々と振り上げ歓喜のガッツポーズをする選手。実力を出しきれず無念の涙を流した選手。
それぞれの選手にはそれぞれの歴史があり、思いがあるのだろう。そしてアスリート達が繰り広げる熱戦には感動のドラマがある。自らの思いを胸に全力を尽くして戦い抜いた選手の皆さんに、その健闘を讃えて心から敬意を表したい。

数々のドラマを産んだソチ冬季オリンピックも、いよいよ後半戦に入る。引き続き日本選手の活躍を大いに期待したい。

リケジョ

先週来、“リケジョ(理系女子)”の話題がメディアを独占している。その渦中の女性、小保方晴子さんによる新たな万能細胞=STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)の作製は、山中教授のiPS細胞に続く世紀の大発見だと言われている。私にとって、ことさら喜ばしいのは、この生命科学を革新する研究成果が、神戸医療産業都市の理化学研究所「発生・再生科学総合研究センター(Center for Developmental Biology)」から発信されたこと。そして、彼女の出身校が我が母校でもある「早稲田大学理工学部」であることだ。

万能細胞の有用性は、今さら言うまでもない。数十兆個の細胞からなる人間も、1個の受精卵が分裂を繰り返して成人の身体を形成する。成人の体細胞をその起源である1個の万能細胞に人工的にリセットできれば、理論的にはすべての組織を再生できることになる。どんな病気も部品を取り替えるように治療できるということだ。
この再生医療の分野では、同じ神戸のCDBでiPS細胞を利用した「網膜再生医療研究プロジェクト」が既に臨床研究の段階に入っている。

遺伝子を解析し、生命の構造を探求する発生・再生科学は、総体的には典型的な基礎研究ではあるが、万能細胞の研究は医療福祉分野のみならず畜産などへの応用も考えられ、実用科学としての発展が期待される。一方で命の尊厳に関わる分野でもあり、倫理的な観点も含め研究を縛る制約も多い。
今回の小保方チームの研究はマウスによる実験成果だが、報道によるとハーバード大学では、同様の実験がすでにヒトの細胞を対象として実施されているという。論文の発表という点ではCDBが先んじたが、研究内容では後れをとっている可能性もある。

我が国の科学技術の発展を加速するためには、基礎研究を地道に支えていくシステムが必要だ。今回の理化学研究所のような「柔軟な発想が可能な若い(女性)研究者の登用」、昨年度の補正予算から取り組んでいる「長期的な研究資金の提供」、そして「研究開発の制約要因となる規制の緩和」。
カジノや法人減税の特区もさることながら、研究開発を促進する規制緩和特区による科学技術創造立国の実現こそが日本の成長戦略にもっとも相応しいのではないだろうか。

神戸医療産業都市には、CDBのほか、分子イメージング科学研究センター、計算科学研究機構(京コンピュータ)、生命システム研究センターといった理化学研究所の機関が設置されている。兵庫県内という意味では、さらに放射光科学総合研究センター(SPring-8)、高輝度光科学研究センター、X線自由電子レーザー施設(SACLA)がある。これほど国関係の研究所が集積する地域は他に例がない。この資源をフルに活用し、さらなる飛躍をめざすためにも3月にも予定されている「国家戦略特区」の指定に尽力したい。

科学技術創造立国に必要なもう一つの資源は、女性の力ではないだろうか。先に触れた網膜再生プロジェクトの研究を担っているのも女性研究者、高橋政代さんだ。
文部科学省では十数年前から女性研究者の活躍機会拡大への取組を指針に示しており、その対象は、採用段階や昇進プロセスはもちろん、出産育児への配慮にも及んでいる。
今日の女性陣の活躍はその成果かもしれない。

早稲田大学理工学部でも、パウダールーム完備の女子トイレ等の施設改修のうえ、「WASEDA Rikoh girls」のHPで先輩女子の活躍をPRしている。我が学生時代、華やかな文系キャンパスから「早稲田大学附属戸山工科大学」と揶揄されていた頃とは隔世の感がある。ただし、私が所属していた建築学科の成績優秀者トップ5は、なぜか5人しかいない女子学生で占められており、設備面がどうであろうと早稲田ウーマンは昔から優秀であったとも言えよう。
科学技術の分野だけではない。人口が減少するなかで、日本がこれまで以上の成長を獲得するには女性の活躍が欠かせない。女性の豊かな発想力をフル活用する社会づくりを急がねばならない。