第186回通常国会を振り返って

第186回通常国会は会期延長もなく6月22日に閉幕した。参議院選挙を控えていた昨年に続き2年連続の法定会期どおり、150日間の通常国会となった。

その参議院選挙で自民党が多数の議席を確保し、ねじれが解消した結果、今国会の審議はほとんど停滞することなく、順調に進んだ。法案説明資料の不備による参議院本会議の流会、環境大臣の不適切発言に対しての不信任決議案、問責決議案の提出など、終盤には若干いただけないこともあったが、電力システム改革の大きな一歩となる「電気事業法」をはじめ、政府提出法案の成立率は7年ぶりに9割台になった。何よりも、戦後3番目のスピード成立(3月28日)となった本年度予算が、ねじれ無き円滑審議を象徴している。

重要法案の一つと位置づけられ、与党案取りまとめ責任者としてかかわった「地方教育行政法」。戦後手を付けられることのなかった教育委員会制度を改革するこの法案は6月13日に成立し、責任を果たすことができた。あとは、関係者が新しい制度の趣旨を理解し、より良い教育行政実現に努力していただきたいと願っている。

政府提出法案の他にも「建築士法」「行政書士法」の改正、投票権を18歳以上とする「国民投票法」、特定機密を監視する常設機関を国会に置く「国会法」改正、山の日を定めた「祝日法」、「過労死に関する法律」等、議員立法も数多く成立した。
とりわけ、一級建築士として建設設計に携わった者として、建築士の義務と責務を明確化した建築士法の改正は、永年の懸案だっただけに感慨深いものがある。

通常国会は幕を閉じたが、解決すべき政治課題は山積している。
先週24日には骨太の方針も閣議決定し、27年度予算編成に向けた動きも本格化する。経済再興戦略では、新たな政策方針として「ローカル・アベノミクス」を掲げた。7月にも発足する地域再生本部では、この方針に基づき“第3の矢”で地方の力を高めるべく、各地域の自立的な経済活性化、人口減少対策を展開することになる。

EUの金融緩和に向けた動きなど、国際経済環境に対する留意も必要だ。一体化する世界経済に対応するためにも、TPP交渉をはじめとする経済連携交渉を加速しなくてはならない。集団安全保障をめぐる議論は、アメリカが世界の警察の役割を果たせなくなった今、日本の平和維持がもはや我が国一国では達成できないことをあらわしている。

国民の皆さんに様々な国政の動向と課題を説明し、意見を交換し、そして、国政にフィードバックするのが我々の役割。政治は結果責任、そのような時代に、日本を繁栄に導く責任が私たちにはある。それが「未来への責任」だと思う。これから夏本番を迎えるが、地域を歩き、現場の声、地方の声をしっかりと受け止めていきたい。

さて、播磨の地では、先週、先々週と首長選挙が連続して行われた。Politicsの語源は都市を治めること、我々政治家の究極の目的はより良い地域社会の創造にある。これからもふるさと播磨の発展に励みたいと改めて思う。

ネット選挙

私が本部長を務めている“自民党・政治制度改革実行本部”で、より開かれた政党を目指すための新たな取組として、総裁選挙へのインターネット投票導入を検討する小委員会を設置し、先週末から議論を始めた。

総裁選における党員票は従来、国会議員票の補完のような取り扱いだったが、本年度の党大会で制度を改正し、党員票と国会議員票のウェイトを等しく扱うこととした。
これに続くネット投票の導入検討は、地方の声を重視せよとの要請に応えるものであり、ひいては党員一人ひとりの参政意識を高め、党勢拡大につなげるものである。

中長期的には、我々の総選挙をはじめ、あらゆる選挙へのネット投票導入が実現すれば、外出が難しい高齢者や海外在住者でも簡単に投票ができるようになる。また、人海戦術に依存している開票作業も迅速化し、コスト削減にも繋がるだろう。
総裁選への導入はその第一歩だ。石破幹事長は、そういう意義を込めて委員会冒頭の挨拶で、「自民党は国民政党としてこの分野でも議論をリードする。ネット社会の最先端を走る党でなければならない」と語った。

今回の委員会は、まず基礎知識を学ぶために、ネット投票先進国であるエストニア共和国の大使館から山口巧作氏を講師に迎え、現状の説明を受けた。
エストニアは、人口134万人のヨーロッパ北東部の国家だ。その国が世界で唯一国政選挙までインターネットによる投票を実施しており、2005年から既に6回の実績がある。とは言っても、ネット投票は紙投票を補完する選択肢の一つとして行われており、最終的には紙による投票が優先されている。ネット投票利用率は四分の一を超える程度という。

公平・公正かつ安全・確実が求められる選挙制度。投票場所を選ばないネット投票では、なりすましや二重投票をはじめ、不正行為のリスクが拡大する。また、万が一システム障害が発生すれば、全国の投票が無効になる可能性もある。
エストニアでネット投票が可能となったのは、電子身分証明書(IDカード)の普及による。この国では15歳以上の国民はIDカードの取得が義務づけられており、行政手続きでも電子署名を認める法制度が整備されている。

我が国でも間もなく社会保障と税を管理するマイナンバー制度がスタートする。このカードの多面的利活用の一つとして、ネット投票システムへの活用も視野に入れるべきだろう。既に銀行のATMでは生体認証が普及している。この技術を各家庭のパソコンやタブレットと組み合わせれば、なりすまし等の課題を克服することはできる。
ネット投票の実現は、目の前まで来ている。

ただし、ネット投票をはじめとするIT技術の高度化は、選挙による代議員選出の必要性そのものを揺るがす可能性も秘めている。
現代国家では、国家の拡大、人口増大等々により、国民が1カ所に集まることができないがため、基本的に代議制(間接民主制)を採用してきた。しかし、電網社会は場所と時間を選ばないバーチャルの世界で、全国民参加による集会と意思決定を可能にする。太古ギリシアの都市国家が市民集会(直接民主制)で政を決定したように。

国民一人ひとりが参政する民主主義国家。それはある意味で理想国であるのかもしれないが、我々国民にも責任と義務を備える必要があるのだろう。