続・「選挙制度改革に想う」

予算委員会での野田前総理との議論を前にした18日。安倍総理は定数削減法案の今国会成立を目指す意向を表明し、谷垣幹事長に「アダムズ方式(※1)にもいろいろ問題があるが、それが基本だ」と伝え、衆議院選挙制度に関する調査会答申に沿った改革案をまとめるよう指示した。私の前号コラムの主張と相容れるものだった。

これを受けて、24日に示された新しい案は、①2015年度の簡易国勢調査結果に基づき、小選挙区定数を「0増6減」、比例4減とあわせ定数を10削減(アダムズ方式による都道府県間定数配分調整は不採用)。②定数配分の見直し時期は2020年の本格的国勢調査後とする。ただ、削減方法についての具体的な記述はなかった。

これでは、最高裁が違憲状態と判断し、廃止を求めた「1人別枠方式(※2)」を当分温存することになり、都道府県間調整を行わない分、当然、格差是正効果は小さい。

それでも党の会議では、「削減対象県の決定方法が不明解だ。恣意的に決められれば不満が出る」「被災地の声が小さくなる」など、不満が数多く出されたが、最終的に原案で連立与党の公明党と折衝を開始することは了承された。

安倍総理もこの案に基づき、26日の衆院総務委員会で、今回の改正は「0増6減」とし、アダムズ方式による都道府県の議席定数配分は、本格的調査となる2020年の国勢調査後にすべきとの考えを表明した。事実上、衆院定数の抜本的改革の先送りを容認した発言と言える。

このような中、2015年国勢調査速報値が発表された。格差2倍を超える選挙区は37となり、アダムズ方式で算定した場合の要調整選挙区は2010年調査の7増13減から9増15減に拡大した。

果たして「0増6減」の自民案でスムーズな協議に入れるのだろうか。このままでは折衝が暗礁に乗り上げることは、火を見るより明らかだ。

すでに、公明党の山口代表から「自公だけで協議するのはそぐわない。議長の指導のもとで合意形成を図るべきだ」。また別の幹部からは「2020年にアダムズを採用しても、それまでに行われる総選挙が最高裁判決に耐えられるのか」等々、自民案を牽制する声も上がっている。公明党幹部が言うように、このままの状態で衆院選が実施されれば、今度は「違憲」の判決が出るとも指摘されている。

どんな制度でもメリットとデメリットがある。選挙制度も同じだ。全国一区にすれば一票の格差問題は無くなるが、地域代表性が無視される。政党名の比例代表制も格差解消効果はあるが、人格を審査する機能がない。中選挙区も緩和策としては有効だが、一方で政党内での競争が生じる。様々な制度論の中から現行の衆議院選挙は小選挙区とブロック単位の比例代表の組み合わせを選択している。

そして、今直面しているのはその小選挙区制度につきものの一票の格差をいかにして解消するかという課題だ。最高裁は衆院選について3回連続で「違憲状態」にあるとの判決を出している。まさに「制度改正待ったなし」の状況にある。

調査会が提案したアダムズ方式は、一人別枠方式よりも格差を緩和しつつ、端数を切り上げることで人口が少ない県にも最低2議席を配分できる案であり、地域性にも考慮されている。今、現行憲法下で考えられる選択肢としては最善のものではないだろうか。

各党の思惑が複雑に絡み合い3年以上も先送りされてきた選挙制度改革。

これ以上の先送りは許されない。政治の信頼回復のためにも、選挙制度改革は今国会でやり遂げなければならない。

国会議員の役割は…

去る1月14日、”衆議院選挙制度に関する調査会”の答申が大島議長に手渡された。答申では、議員定数について「国際比較からすると多いとは言えない」としつつ、「削減案を求められるとすれば、10人削減して465人とする。」と提案している。また、一票の較差については「2倍以上の較差が生じた場合は直ちに最小限の是正を行う、ただし、都道府県を超える見直しは10年ごとの大規模国勢調査に基づく」とされている。

今般の改革議論の発端は、平成24年11月14日の党首討論だ。当時の野田総理から「国民に消費増税の負担を求める以上、国会も身を削る必要がある。次期通常国会で定数削減と較差是正を行う“選挙制度改革”を約束するなら解散してもよい」との提案があり、安倍総裁がそれを受け入れ総選挙となった。この討論をもとに、自民党、民主党はもちろん、多くの政党が選挙制度改革を公約に掲げた。

本来ならば、もっと早く、25年度にも改革の成案を得ていなくてはならないはずだ。

しかし、各党間、議員同士の議論をいくら繰り返しても改革案の取りまとめには至らず、26年に議長の諮問機関を設置し、議論を有識者の手に委ねることとなった。そして、佐々木毅氏(元東大総長)を座長とする有識者会議による17回に及ぶ審議を経て今回の答申に至った。

自民党として、この答申への対応を決定する会議が、先週10日に開催された。細田選挙制度改革問題統括本部長が取りまとめた執行部原案は、①まず、較差是正については(答申のとおり)2倍以内となるように選挙区定数の見直しを行う、②定数削減については平成32年の大規模国勢調査の際に実現するというものだ。10議席の定数削減は「都道府県を超える見直し」に該当すると解釈し、先送りする内容である。

私は、「この案では、野党はおろか公明党からも問題先送りとのそしりを受け、法案成立の見通しが立つのか疑問である。法案が成立しなければ、較差是正も実現せず、次の総選挙は違憲状態ではなく違憲判決が出るかもしれない。国民の眼には改革に後ろ向きの自民党と映る。」と主張した。

会議では答申そのものに反対する声から、私と同じく答申に沿った制度改正を急ぐべきだという意見まで、様々な意見が表明されたが、最後は執行部一任となり細田原案のとおり取りまとめられた。

閉会後、細田本部長を訪ね再度意見交換を行った。ここでの議論は最後まで平行線であったが、細田氏に「平成22年の国勢調査を基に直ちに10名削減と較差2倍以内の改正を行うとすれば、全国13県で小選挙区の数を減らす必要がある。62の選挙区が関わり、比例復活組も含めると59名の議員に影響が及ぶ。彼らにとっては死活問題である。今日の会議でも言いたくても言わないでじっと我慢していた者もいる。その気持ちを暖かく包み込む、自民党は血の通った政党でなければならないと思う」と言われた時には、返す言葉がなかった。

細田氏の選挙区は島根県。参議院の話ではあるが、この夏の選挙から鳥取県と合区される。高知県と徳島県も一つの選挙区になる。この4県の方々は「故郷の声が国政に届かなくなるのではないか?」との不安をもたれている。衆議院の小選挙区も一票の較差を重視して区割り変更を重ねれば、郡部ではとてつもなく広い選挙区が生まれ、総体的に都市部への議席集中が生じる。(それを避けるためにも、東京一極集中是正、人口の地方分散を進める地方創生が必要なのだが…)

今回の議論を通じて、私は「答申を尊重すべき」との考えから、早期改革実行を主張してきた。一方で較差是正の課題については、国会議員は憲法43条に定めるように「全国民の代表者」のみであるべきだろうか。むしろ「地域の代表者」としての性質も有するべきではないか、との問題意識もある。

ただし、14条の「法の下の平等」への抵触を避け、地域代表としての国会議員を創設するためには、憲法43条を改正しなくてはならない。

ここにも憲法改正に於いて議論すべき論点がある。

 

※衆議院選挙制度に関する調査会答申全文は、
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/senkyoseido_toshin.html
をご参照ください。

地球の悲鳴

穏やかな新年の幕開けから比較的温かい日が続いた今年の日本列島。
各地のスキー場では年末年始の稼ぎどきに雪がなく、関係者からは悲鳴があがっていた。
一方、はくさい、だいこんなどの野菜はすくすく育ち例年を上回る出荷量、その安値に台所には喜びの声、生産者からは嘆きの声が聞こえた。
そんな暖冬ムードを吹き飛ばしたのが先週24日からの大寒波の襲来。

沖縄本島で観測史上初、奄美大島では115年ぶりの降雪。長崎では観測史上最高の17センチの積雪を記録した。数十年に一度の寒気に覆われた日本列島各地で「記録的」「観測史上初めて」とかの言葉が飛び交った。
首都圏では降雪が交通網を遮断し、例によって通勤通学や物流が大混乱。めったに氷点下を記録しない西日本では水道管の凍結、破損、断水といった事態が数多く発生し、市民生活を脅かしている。私ごとで恐縮だが、高砂の自宅でも配管が2ケ所断裂した。

この大寒波の原因は、北半球を西から東へ吹く偏西風の大蛇行らしい。アジアではシベリアのツンドラから日本列島の南にまで寒気を運び、北米ではアラスカの吹雪を首都ワシントン一帯にまでもたらした。暖房器具が普及していない台湾で58名もの方が寒さで亡くなり、アメリカの東海岸一帯の諸州では大雪で非常事態が宣言され、政府機関が機能停止した。

地球規模の損害をもたらした偏西風の蛇行の遠因となっているのは、東太平洋の赤道付近の海水温上昇、いわゆるエルニーニョ現象といわれる。2015年のエルニーニョは史上二番目の高温を記録している。

大型化する台風、頻発するゲリラ豪雨。異常気象が頻発する列島だが、我が国だけの問題ではない。アメリカ南西部の干ばつ、欧州やオーストラリア、インドシナ半島の大洪水等々、地球規模の気候変動に伴う大規模自然災害が毎年発生している。これまでもこのコラムで何度か言及したが、「地球が悲鳴をあげているのではないか」との思いが、再び脳裏をかすめる。

気候変動の最大の要因は地球温暖化。産業革命以降の化石燃料の大量消費は大気中のCO2濃度を高め、地球の温度を徐々に上昇させている。その対策には世界各国の協力、地球規模での対応が求められる。

だが対応の具体化は簡単ではない。その最初の取組であるのCOP3(第3回気候変動枠組条約締結国会議、1997年)でとりまとめられた京都議定書は、日本とEU等で統一した削減率と目標期間を定めたものの、米中露の三大排出国が参画しない不完全なものとなった。以来20年近く、世界各国が地球温暖化対策の必要性を認めながら、COPは混迷を続けてきた。

その転機が訪れたのが昨年12月。COP21で合意した“パリ協定”は、ついに共通の目標=「共通だが差異のある責任」を定めることに成功した。「すべての国は状況に応じて目標を設定して温室効果ガス削減に取り組み、5年ごとに目標値を改定する」とされた協定は、先進国から発展途上国まで196ケ国と地域が温室効果ガス削減を推進する法的枠組みを定めた歴史的なものである。ただし、具体的な削減目標値は各加盟国が設定することになっており、効果のほどは今後の加盟国の取組に左右される。

今年の5月26、27日には第42回先進国首脳会議”伊勢志摩サミット”が開催される。
世界中に模範を示すためにも、各国首脳が気候変動問題についても、ハイレベルな議論を行う必要があるのではないか。

*エルニーニョ現象:太平洋東部赤道付近、ペルー沖から西へ、太平洋の中心部までの海域において海面水温が局所的に異常に上昇する現象。アジア諸国、北米太平洋沿岸、豪州南部に温かい空気が流れ込み気候が著しく変化する。
日本全体は暖かく湿った空気で包み込まれ、大雨被害が発生しやすいと言われる。