冬将軍

真冬並みの強い寒気の影響で、24日(木曜)は関東甲信の各地で雪が降った。11月に都心で初雪を観測するのは54年ぶり、しかも1875年(明治8年)の気象統計開始以降初めての積雪となった。

 

11月はともかく冬に雪が降るのは毎年のことで、雪対策の経験も積んでいるはずなのだが、相変わらず都会は雪に弱い。

今年1月の大雪では公共交通機関のダイヤが大幅に乱れ、鉄道やバスは本数を減らして運行したほか、空の便の欠航も数多く発生した。降雪が朝のラッシュの時間帯と重なったこともあり、都内の鉄道各駅には乗客がホームにあふれ駅構内への入場制限するところが相次いだ。積雪が多かった地域では路面が凍結するなど、雪が止んだあとも混乱が続いた。

 

今回は1月ほどではなかったが、昼間も気温が4°Cまでしか上がらず、街行く人は足元の悪い中コートの襟を立てて足早に行き交う姿が印象的であった。関東を中心にスリップ事故や転倒で怪我をした人は350人に及んだという。

週末にかけて寒さは少し緩んだものの最高気温は15°Cに至らず、予報では今週も寒い日が続くらしい。いよいよ冬将軍来襲かと思われる。

 

一方、国会では参議院でのTPP承認案の審議、また衆議院では年金改革法案の本会議での採決を巡って激しく衝突している。

萩生田光一官房副長官が23日都内の会合で、TPPを巡る民進党の国会対応を『田舎のプロレス。ある意味、茶番だ』と言ったとかで、不適切だったと謝罪することとなったが、表現は不適切だったかもしれないが、言いたくなる気持ちも分からないでもない。

 

発言に抗議した野党も委員長席に詰め寄っていながら、「年金カット反対!」とか「強行採決反対!」のビラを、TVカメラに向けて掲げて叫んでいるのは何故か?

与党が提出する法案に野党が抵抗し審議をボイコットしたりするのに、採決しようとすると阻止しようと委員長席に詰め寄る。毎回繰り返される光景は、与党の横暴による強行採決に見えるよう演出しているとしか、私には思えない。

 

今国会の会期は月末30日まで。TPPや年金改革法案を成立させるためには会期延長は避けられない。延長を巡っての与野党の対決は不可避だ。寒い空模様とは反対に国会では与野党の熱い(?)攻防が続いている。

 

今年も早や師走を迎えようとしている。

税制改正、予算編成と与党にとっては1年の中でも最も忙しいシーズンを迎える。

私がプロジェクトチームの委員長として取りまとめを進めてきた“給付型奨学金”も、29年度?からの導入も視野に入れ、与党内で大筋合意がほぼ整った。いずれこのコラムでも詳報したい。

「未来への責任」を果たすために、臨時国会の終盤戦と来年度新政策のとりまとめ、ともに最後まで緊張感を持って臨みたい。

アメリカの選択

世界の行く末に大きな影響を与える4年に一度のビッグイベント“アメリカ大統領選”。

全米で1年に渡り繰広げられた選挙戦は、ご承知のとおり、去る8日劇的な幕切れを迎えた。

 

メディアの事前予想は僅差ながらクリントン候補の優勢を報じていたが、最終的に戦いを制したのは序盤では泡沫候補扱いであったトランプ候補。党の内外を問わず、既成勢力を敵視し、歯に衣着せぬ物言いで打ちのめす手法には猛烈な抵抗もあったが、結果的にトランプ旋風を巻き起こし栄冠を勝ち得た。

結果を受け私の脳裏に浮かんだことは、6月に行われた英国のEU離脱に関する国民投票だった。この投票も事前予測と真逆の結果となった。

 

英国のEU離脱は、移民の増大により現国民の雇用が奪われ、犯罪が拡大するのではないかという漠然とした社会不安が底辺にある。これが、極右集団による移民排斥運動によって助長され、欧州統合によるメリット、現在得られている経済繁栄の利点を忘れさせてしまった。

 

米国でもリーマンショック後の不況に、有効な対策を打てない政府や経済界に対する不満は根強いものがある。上位1%の持てる者が346%の富を有し、次位19%の者が505%の富を有すると言われる格差社会に問題があるのは事実。これに対する米国民の怨嗟の声は止めることはできない。

自動車産業で栄えた旧工業地帯がグローバリズムに取り残され、これによって“プアーホワイト”と呼ばれる集団に脱落した中産階級労働者が、改革の希望の星をトランプに求めた。社会の閉塞感の蔓延とともに、この動きが全米に広がったのは自然の流れとも言える。

 

米英双方とも、既存体制側(エスタブリッシュメント層)に対する大衆の不平が予想以上に大きかったということだ。

クリントン候補はファーストレディ、上院議員、国務長官を歴任するなど、政治エリートの道を歩んできた。片やトランプ候補はビジネスエリートとは言え、行政経験も政治経験も軍歴も無い。

変化を求める国民の声は、長らく政治の舵取り側にいたクリントン候補より、ビジネス社会での成功者であるトランプ候補への期待となり投票行動に結びついたということだろう。

 

英米国民どちらの行動も理解はできる。しかし、移民排斥やアメリカファーストと言った排他主義、自分たちさえよければ良いとする内向きの思考が全世界に広まるのは阻止しなければならない。

最早、全世界の人、物、金、情報の流れは一体化し、その分断は何らかの歪み、デメリットを生み出すに違いない。世界は協調と共栄への道を探るべきであり、先進国にはその推進役を担う責務がある。

 

古い話になるが、1992113日、私はアーカンソン州リトルロックでビル・クリントン政権の誕生祝賀会場にいた。当時アメリカで行われていた「電子投票」を視察するための訪米中、大統領誕生の瞬間に臨場するために急遽予定を変更したのだ。

当地はクリントン氏の地元であるにもかかわらず、祝賀会にもかかわらず、「俺はクリントンが大嫌い」とか「私はブッシュ支持だ」と堂々と表明する人たちが少なからずいた。あの時私は、お互いが堂々と自らの考えを表明しつつも、互いに相手の主義主張も受け入れている姿を目のあたりにし、アメリカンデモクラシーの懐の深さを垣間見た気がした。

 

今回の選挙戦では候補者同士が聴くに耐えない中傷非難合戦を繰り返し、支援者間でも激しい対立が見られた。今なお、全米各地で選挙結果に不満を持つ集団が反トランプデモを展開している。

しかし、私はアメリカンデモクラシーの力に期待したい。非難合戦はまもなく収束し、米国民は一本化するはずだ。客観的に見れば今回の選挙の結果、オバマ政権一期目から続いているねじれが解消され、大統領も共和党、上下両院とも共和党が多数という、極めて安定した体制が生まれる。党内方針さえ定まれば政権運営はずっと楽になるはずだ。

 

超大国アメリカが内向きの自国中心主義に陥り、世界秩序の安定維持や経済発展を牽引する役割を放棄することは、あり得ない、と言うよりも許されない。

トランプ氏もそれを理解しているのか、選挙後は従来の過激さが影を潜め、一変して穏便な発言に終始している。政権移行チームにも共和党主流派からの登用が報じられている。新政権が発足するまで2ヶ月余り、現実的な政策の立案には十分な時間がある。

 

安倍総理は、各国首脳の先陣を切って、17日にトランプ氏と会談する。日米の不安、世界の不安を払拭するため、この会談の意義は大きい。

アジア太平洋の未来に向けて、世界の繁栄に向けて、今こそ日本のリーダーシップが問われている。地球を俯瞰する安倍外交の出番だ。