G7

昨年の伊勢志摩サミットからがらりと顔ぶれが変わり、首脳7人のうち4人が初参加となった今年のG7(サミット・主要国首脳会議)が、5月26日と27日の両日、イタリアの景勝地シチリア島タオルミナで開催された。

これまでのG7は、自由と民主主義、人権、法の支配といった共通の価値観によって世界をリードしてきた。そして、常にその先頭に立ってきたのは米国だった。しかし、その米国を率いるトランプ大統領の主張は内政優先の「米国第一主義」。主役の豹変とともに、これまでの会議とは様相が一変し、首脳宣言の取りまとめの難航が予想されていた。

 

その予想どおり、北朝鮮やテロを巡る宣言については異論なく合意されたものの、自由貿易や気候変動を巡るパリ協定遵守の議論では、トランプ大統領の主張が欧州諸国と対立し、会議は混乱した。

 

貿易に関するトランプ大統領の発言は、長年にわたりサミットが目指してきた自由貿易ルールの確立からはかけ離れた自国の利益重視、二国間取引の主張。米国の貿易赤字解消を目指すごとく、「米国の関税に併せて、各国も関税を引き下げるべき。できなければ対抗措置として米国の関税を引き上げる」と迫った。安倍首相をはじめ各国の説得により「保護主義と闘う」という文言は宣言に盛り込まれたものの、トランプ大統領の言動は保護主義者そのものであり、他の6か国との亀裂は深い。

 

地球温暖化対策については、自国の石炭産業保護を理由に「パリ協定」の離脱もほのめかしたトランプ大統領。26日の討議で欧州各国から非難を浴びた。そんななか安倍首相は「環境保護は重要だが、明日の雇用が失われると不安を持つ人もいる。温暖化対策はビジネスと両立できる。ドナルドの力が発揮できる分野じゃないか」と、大統領の顔をたてるとともにパリ協定の迅速実施も宣言に併記し合意形成に努めた。サミットでの両論併記は珍しいが、首相の発言によって決定的な亀裂は一応回避された。しかし、米国はパリ協定遵守への回答を“留保”したのであり、“同意”はしていない、欧州対米国の火種は残ったままだ。

 

首相はまた、G7諸国とロシアとの関係が改善すれば日露交渉に有益と判断したのか、ロシアとの対話の重要性にも言及したほか、北朝鮮のミサイルを「新たな段階の脅威」と位置づけて「国際社会における最重要課題」と宣言に盛り込んだ。

G7の根幹をなす「共通の価値観」が不明瞭となり、結束力に揺らぎをみせた今回のサミットだが、6回目の参加となった安倍首相にとっては、歴代首相のなかでも、最高レベルの存在感を示した会議だったのではないだろうか。

 

G7も終わり、各国首脳は厳しい国内問題を抱えそれぞれの母国に帰って行った。

メイ首相には総選挙が、トランプ大統領にはロシアゲート疑惑が、そして安倍首相にはテロ等準備罪の参院審議と加計学園の獣医学ぶ新設問題が待ち受けている。

サミットで共同宣言に盛り込まれた様々な課題に責任を果たすためにも、まずはそれぞれの国内問題を解決していかなければならない。国政を預かるトップリーダーには休日はないと言えよう。

憲法改正

自民党の各派閥は、毎週木曜日に昼食を兼ねた総会を開く。その際には会長が時々の政治課題に言及するのが慣例で、その発言がTVや新聞で取り上げられることも多い。連休明けの5月11日(木)の総会で、各派とも憲法改正についての発言が相次いだ。

 

発端は憲法記念日の5月3日、安倍首相がビデオメッセージで「自民党総裁として憲法改正を実現し、2020年(平成32年)の施行を目指す方針」を表明したことである。この方針では改憲項目として、①9条1項、2項を残したまま、新たに自衛隊の存在を明記した条文を追加することと、②高等教育の無償化を定めた条文の新設の二つを挙げ、自民党で具体的な改正案の検討を急ぐことを明らかにした。

 

首相は、平成18年の第1次安倍内閣では「戦後レジームからの脱却」を唱え、憲法改正、特に9条改正を悲願としていた。にもかかわらず、平成24年に第2次内閣を組閣してからは、各委員会などで改正に関する質問をされても、明確な答弁をしてこなかった。

 

それだけに今回の改正方針表明を巡っては、首相の意図を含め、様々な憶測が飛び交うなか、党内各派で意見表明がなされた。石破茂氏は「党の議論を粗略にして憲法改正できるとは全く思っていない」と強調。岸田文雄氏は「当面、9条の改正は考えてない」。石原伸晃氏は「3項をつくった場合(戦力不保持を定めた2項との)整合性は非常に重要だ」等々。連立の公明党からも理解を示す一方で、唐突感がありすぎ今までの案と大きな内容の違いを指摘するなど、懸念の表明もなされた。

 

そして12日には、安倍総裁から保岡興治・憲法改正推進本部長に「衆参両院の憲法審査会に出す自民党案をまとめるよう。具体案がないと審議が活発にならない」と指示が出された。

これを受けて、すべての所属国会議員が参加できる憲法改正推進本部で改憲項目や手順、あるいは2012年に作成した党憲法草案との整合性などの検討が始まることになる。すでに党内の一部では、たたき台となる改正試案と、国民投票までの工程表の試案なるものが飛び交っている。

 

一端を紹介すると、第9条に関しては、「第9条の2」として「前条の規定は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、自衛隊を設けることを妨げない。」との新条文を追加するというもの。

第9条の第3項に「自衛隊に関する規定」を追加すると、どうしても第1項の「武力」や第2項の「戦力」と、「自衛隊」との並びが悪く、関係が分かりにくくなる。このため、現行の第9条は「戦争の放棄」と「戦力の不保持、交戦権の否認」の条文として、そのまま存置し、別の条文で「自衛隊は、『戦力』ではない実力組織」という現在の解釈を確認するのがポイントだ。「加憲」らしさを強調したともいえる。

 

高等教育の無償化については、第26条1項(教育を受ける権利)を手直しし、教育の機会均等を図ることを明確にする趣旨から「経済的理由によって教育を受ける機会を奪われないこと」を明記するというもの。さらに、「教育が国の未来を切り拓く上で不可欠なものであること」「国に大幅な教育無償化措置等の教育環境を整備する責務があること」を明記し、無償化を含む教育環境整備規定の明確化も第26条に盛り込むという案のようだ。

 

個人的には、「ここまで憲法に書き込む必要があるのか?」との感もあるが、現在、高等教育の無償化実現に向けて、財源措置も含め検討を進めている教育再生実行本部の議論を強力に後押しすることになるのは間違いない。

 

私は憲法改正に関して、「時代の変化に柔軟に対応して必要な改正を行うべき」との考えだ。

今回の方針表明を機に、憲法改正推進本部での党内議論が活発化することは間違いない。

自民党案、与党案を早期に取りまとめ、衆参の憲法審査会の場での具体的な議論の展開につないでいきたい。そのためには(改憲派の)野党の皆さんにも、国民の声、社会の実態を踏まえた改正案を提示していただきたいものだ。

 

前回述べたように、国会が発議しない限り、国民は「国民投票」という形での意思表明ができない。「改正案の発議」は国会が担っている。今はその任務を果たさなければならない時である。

 

 

<参照条文>

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

憲法記念日

今年のゴールデンウイークは4月29日(土)から5月7日(日)まで。1日と2日を休めば、9日間の大型連休となる。ただ、報道によると今年の傾向は「安・近・短」と家でゆっくりと、近場で過ごす人が多いとのことである。

 

失言による今村雅弘復興大臣の辞任問題等で審議がストップしていた国会。野党は審議入りの条件として予算委員会の開催を要求した。衆参で1日と2日の開催提案(?)もあったらしいが、結局連休明けに開催することになり実質的に国会も9連休に入った。

 

毎年この連休を利用して海外に出かける議員も多いのだが、今年は朝鮮半島情勢の緊迫化もあり、外遊を取りやめた議員は2桁に及んだらしい。特に衆院小選挙区で敗れ比例復活した議員や、選挙基盤の固まっていない若手議員、7月に都議選を控える東京都選出議員に対して、「それぞれの地元でしっかり活動するように」との外遊禁止の幹事長通達が出された。

私の連休の大半は、地元で開催されるスポーツイベントやお祭りなどへの出席に費やされ、それ以外の時間は、自宅で資料整理や読書で過ごすことになる。

 

その中日となる5月3日は憲法記念日。今年は昭和22年(1947年)に現行憲法が施行されてから70周年の節目の年となる。施行以来今日に至るまで憲法改正の議論は幾度となく行われてきたが、発議の段階で両院2/3以上の議員の賛同が求められるという、ハードルの高さから、具体の改正案は提示されることさえなかった。「日本国憲法」は、改正された経歴のない現行憲法という意味で世界最古であるという。

 

護憲派の方は「素晴らしい」と言われるが、果たしてそうだろうか? 制定時と現在とでは世界情勢も、我が国を取り巻く近隣情勢も大きく変化している。

戦後間もない昭和20年代は勝者である連合国の共和の時代であり、国家間の紛争、安全保障を巡る問題は存在しなかった。その後、米ソの冷戦時代を経て、社会主義国の崩壊に至ったのが30年前。東西のイデオロギー対立は無くなった。一方で、快適さを求めるための「環境権」など、70年前は存在すらしなかった新しい権利意識念も出てきている。

 

世界の国々は時代の要請に応じて憲法を改正してきている。フランスは27回、ドイツに至っては60回を数える。憲法と言っても法律の一種、決して不磨の大典、金科玉条ではない。我が国でも時代の流れに柔軟に対応し、憲法改正の議論を進めなければならない。ところが、衆参の憲法審査会の現状を見ると、一応の議論は行われてはいるものの、政党の思惑が複雑に絡み合い、合意形成には程遠いのが現状だ。

 

改正すべき項目を例示すれば、「自衛隊の位置づけ」「環境権などの新しい権利」「緊急事態条項」「統治機構の在り方」「憲法改正の発議要件の緩和」など。加えて、「財政規律の確立」を明記することも重要だと考えている。

 

現行憲法が、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の堅持により、我が国の平和と繁栄の礎となったことは率直に評価すべきである。しかし、先に示した種々の項目等について国民はどう考えているのか?最近の世論調査では改正賛成の意見が若干ながら反対を上回っている。

 

言うまでもないが、現行憲法が憲法改正手続きにおいて“国会”に期待するのは、「改正案の発議」である。改正の是非は最終的に国民投票によって決定される。国会が改正案を発議できず国民に投票の機会が生まれないとしたら、それは憲法に対する国民の意思表明の権利を国会が奪っていると言っても過言ではない。

 

繰り返すが、憲法改正の是非は国会のみが決める事柄ではない。国民投票により、国民の直接の声を聴き、そして憲法改正案について賛同を得た時、改正が実現に至る。

これが、自民党立党時の綱領にある「自主憲法制定」への道筋であり、党是でもあるのだ。

 

 

 

*不磨の大典:すり減らないで、長く価値を保つこと。転じて、長期間改定されていない重要な法案や規則のことをいう。