財政審

昨年の総選挙での目玉公約の一つであった高等教育(大・短大、高専、専門学校)の無償化。その具体化について選挙後に党内で激しい議論が繰り広げられた。そして年末に閣議決定された2兆円規模の「新しい経済政策パッケージ」に、一つの政策案が盛り込まれた。

 

その内容は、大学等の授業料の免除(※1)に加えて、学生生活を送るのに必要な生活費を賄えるように、給付型奨学金を拡充するというもの。

しかし、その対象者は、低所得者世帯(住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯)に限定されている。この原案のみで公平な制度が実現できるのか、意欲と能力のある全ての若者が高等教育を享受できるのか、私には甚だ疑問である。

 

「新しい経済政策パッケージ」には上記のような政策案に加えて、「夏までの検討継続事項」もいくつか盛り込まれている。その一つが、「HECS等諸外国の事例を参考にした検討」。中間所得層の高等教育アクセス権の機会均等を実現する政策の検討である。

 

HECSはオーストラリアで実施されている“高等教育拠出金制度”だ。

在学中の授業料個人負担はなく(政府が負担)、卒業後に所得に応じて課税方式で授業料相当額を支払う、いわゆる「出世払い」である。昨年来、党教育再生実行本部財源部会で検討が続けられてきた。

できれば政策パッケージに政策案として掲載したかったが、当時はまだ議論が熟しておらず検討事項となった。その後、馳浩本部長の下で具体化が進められ、(仮称)J-HECS(※2)案として、ほぼ制度設計が完了しつつある。

 

内閣府のアンケート調査によると、夫婦が理想の子供数(平均2.4人)を持たない理由で最も多いのは、教育費負担(特に大学教育)である。この制度が導入されれば、子育てに係る経済負担が大きく軽減され、出生率向上にもつながる筈である。

 

J-HECSは既存の所得連動型無利子奨学金とほとんど違いがないとの指摘があるが、新制度は資金の借入ではないので、保証人も機関保証も必要ない。卒業後の納付金は借金の返済ではなく社会貢献金(納税)であり、精神的負担感は全く異なる。

また、J-HECSを利用するか否かは本人の選択であるので、進学する人としない人との不公平は生じない。

 

ところが、17日に開催された財務省の財政制度等審議会では、この新制度案に対して、趣旨と内容を全く理解せず「高所得者世帯に便益を与えることになり、格差を拡大させる」との意見が提示された。

確かに短期的には財政負担が拡大するかもしれないが、その負担額は近い将来に税収として回収される。しかも、教育投資は個々人の生産性向上を通じて、社会的便益の拡大(税収増等)をもたらすことも忘れてはならない。

 

財政審が専門家の議論というのなら、政策パッケージに示された逆差別とも言える、低所得者に偏った不公平な支援スキームに何故異論を唱えないのか、それとも財政審は財務省の御用会議なのか?私には不思議でならない。

 

※1:国立大は全額、私学は国立大学授業料相当額に一定額を加算した額

※2:Japan-The Higher Education Contribution Scheme 日本型高等教育拠出金制度

国益

働き方改革が最重要課題と言われていた今年の通常国会だったが、法案提出前の厚労省のデータ不備問題でつまずき、肝心の「裁量労働制の拡大」を法案から除外せざるを得ない事態を招いた。

 

それに輪をかけたのが、朝日新聞がスクープした“森友文書書き換え問題”。3月に入ると予算委員会の審議は森友一色となった。

3月27日の佐川宣寿・前国税長官の証人喚問でも、(予想されたとおり)核心は明らかにならず、「何故、改ざんがおこなわれたのか」「誰が指示をしたのか」などの疑問は払拭されていない。これは、週末の世論調査(共同通信:支持42.3%、不支持47.5%、喚問納得できず72%)でも明白だ。政府は更なる説明責任を求められている。

 

森友問題に関しては、残された国民の疑問に速やかに応えたるためにも、政府と国会の立場で全容解明にむけ徹底調査の必要がある。院内に超党派の委員会設置も一案かもしれなない。

 

一方、国会が森友問題に明け暮れている間に、世界は大きく揺れ動いた。

3月初めに韓国が北朝鮮に特使を送り金正恩労働党委員長と面会。これを契機に北朝鮮を巡る外交が急展開し、4月27日には南北首脳会談がセットされ、5月までには米朝首脳会談も予定されることとなった。

 

この外交戦略の一環なのか、トランプ大統領は対話路線派のティラーソン国務長官を解任し、強硬派のポンペイCIA長官を指名。またイラク戦争開戦推進派だったボルトン元国連大使を大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に任命した。これは、半島情勢が融和に向けた動きを始める半面、米朝会談が決裂した場合には、軍事オプション発動の可能性が高まったということだろうか。

このような情勢を踏まえ、遅ればせながら、北朝鮮の「安全かつ検証可能で不可逆的な非核」を確認するための日米首脳会談も4月中旬にセットされた。また、5月上旬には日中韓首脳会談も予定されている。

 

我が国会が証人喚問で大騒ぎしていた3月25日から28日まで、金委員長が中国を電撃訪問した。その目論見は、叔父で政権ナンバー2であった張成沢氏の処刑や兄・金正男氏の暗殺などにより、冷めきっていた中朝関係の改善にあることは間違いない。

 

金委員長は「段階的かつ同時に朝鮮半島の非核化実現」を提案したようだが、この何の具体性もない言葉により中国の後ろ盾を得て、トランプ大統領との会談を有利に運びたいのだろう。米朝会談への影響力の如何はともかく、この訪問がしばらく蚊帳の外といった感があった中国にきっかけを与え、北朝鮮問題に関与を深める契機となることは確実だ。

 

日本ではあまり話題にならなかったが、先月中旬、米国で “台湾旅行法”が成立した。1979年の米中国交開始を受けて、アメリカは台湾との外交を自粛してきたが、この度の立法措置は台湾・米国の高官の相互訪問を促進するものであり、1950年の朝鮮戦争勃発のきっかけとなったアチソンライン(注1)の復活かともいわれている。

 

この1か月間、我が国の安全保障を巡る状況は激変した。そして、関係諸国の外交は、今も各国民の利益追求のため水面下で動き続けている。

われわれ政治家の第一の使命は、国民の生命と財産を守ることであり、それが国益と言うものである。国内の政治情勢の混乱により、外交に支障があってはならない。

 

激動する極東情勢に加えて、報復合戦を伴う「米中貿易戦争」の色彩も一段と濃厚になってきている。ここにきて、我が国の安全保障上の外交戦略の再確認はもちろんのこと、硬軟取り混ぜた経済外交にも十分な目配りが必要になってきている。

われわれ政治家に求められている責務は極めて重大である。

 

 

(注1)米国務長官アチソンが、共産勢力を封じ込めるためアリューシャン列島から宗谷岬、日本海     を経て、対馬海峡から台湾東部、フィリピンに至る海上に指定した防衛線。韓国は含まず。