世界は今

15日、ニュージーランド(NZ)南部クライストチャーチ市のモスクで、男が礼拝中の信者に銃を乱射。地元警察によると、乱射は別のモスクでもあり死者は50人、負傷者は50人に及んでいるとのこと。犯行は「白人社会の再生」を掲げる白人至上主義者によるとのことだ。

NZは移民に寛容な政策をとっており、毎年6~7万人もの移民を受け入れている国だ。現在の人口は474万人だが、間もなく欧州系住民が7割を切るとも予想されているほど
だ。そのような多様性を尊重する安全な国だけに、今回の事件は想定外で、犯人は世界に与える効果を狙ったのではないかとも言われる。

近年、移民を巡る話題は、世界中で事欠かない。
トランプ大統領は、メキシコ以南の中米の国から不法移民を防ぐために国境に壁を建設することを公約に掲げ、その実現を巡って議会と対立している。その議論の最中にも、ホンジュラスなど、中米の国から移民の集団がアメリカを目指し大移動している。

欧州諸国では十年来、移民を巡るトラブルが絶えることがない。これらの国では徐々にナショナリズムが台頭し、政権を脅かす存在ともなっている。
英国ではブレグジット(EU離脱)を巡って、議会は出口が見えない混乱に陥っている。主な理由の一つは、人の移動の自由が保障されたアムステルダム条約による労働力の流動性、他国からの移民の急増により「移民に職を奪われた」とする労働市場の問題だった。

我が国も例外ではない。公式には移民受け入れ政策をとっていないものの、一部の産業分野では外国人労働力なしには成り立たない状況にある。これに対応し、昨年、出入国管理法を改正して外国人労働者の受け入れ拡大を決定した。年末には4月に創設される新在留資格「特定技能」に関する基本方針や分野別の運用方針、外国人全般に対する総合的対応策を閣議決定している。
一定の条件の下で長期滞在や家族同伴も可能となる。今後より多くの外国人が日本社会で生活する時代となることは確実である。

4月以降、基本方針に基づき実施状況を検証するとともに、更なる制度改革を行なう必要がある。これは労働政策だけの問題ではない。その基本は、文化や宗教、生活習慣の違う人々が互いを認めあい共生していくという理念の下に、教育から健康福祉に至る様々なシステムを整え、国民の一人ひとりが理解することだ。もし日本国民の中に排他的な考えが広まれば社会は不安定になり、外国人受け入れは破綻する。
世界各地で起きている様々な事件を対岸の火事と考えることなく、課題を解決することで日常の生活の中に外国人が普通に生活していける社会を実現しなければならない。

いま国会では、近年まれにみるスピードで審議が進んでおり、国内政治は比較的安定しているといえるが、米中経済交渉やブレグジットなど我が国経済に大きな影響が及ぶ問題や、米国とのTAG交渉、北朝鮮問題の新たな展開など我が国を取り巻く環境は大きく変化している。暫くは世界情勢から目が離せない。

*アムステルダム条約=EUの責務として、①自由、安全及び正義の地域を維持、発展させる②人の移動に自由が保障された地域とする③外部国境管理、肥後、移民、犯罪の予防と撲滅に関する適切な政策を融合させる、ことなど。

予算年度内成立

通常国会での最大の懸案は、4月からはじまる新年度の予算の早期成立である。

 

年度末3月31日までに成立しないと、4月分の国家公務員人件費をはじめとする新年度行政経費が執行できなくなる。憲法の規定で予算案は衆議院の議決が優先し、通過後30日で参議院の議決をまたずとも自然成立するので、この時期衆議院通過の日程をめぐり与野党の駆け引きが毎年のように繰り返される。

 

今年の通常国会は例年より遅く召集されたので、審議日程が非常にタイトになると予想されていた。加えて、“防災・減災、国土強靭化”などに資する平成30年度2次補正予算成立を優先したため、新年度予算は2月8日からの審議入りとなった。

 

前回のコラムでも言及したが、今国会の予算委員会での質疑の中心は厚労省の毎月勤労統計の不適切調査問題で、多くの時間が割かれてしまった。

 

野党は、①組織的な隠蔽行為があった、②首相秘書官の関与・官邸ぐるみ、③共通事業所の実質賃金「参考値」の公表など、同じ質問を繰り返している。つまり、アベノミクスの成果をねつ造するために賃金統計が操作されたのではないか?と印象づけたいのだ。

 

森友・加計問題では政権の支持率は大きくダウンしたが、今回の審議を経た後の最近の世論調査をみると、安倍内閣の支持率はメディア各社ともほぼ横ばいである。忖度という言葉でモリカケを連想させ、政権のイメージダウンを計ろうとする戦略が見て取れるが、今のところ功を奏しているとは言えない。

 

アベノミクスの評価や今後の経済政策、イノベーション戦略や人づくり政策、社会保障制度改革など、我が国の将来像について議論すべき重要課題が山積している。国際関係では日ロ外交交渉、日中関係、日韓関係、また米国とのTAG(物品貿易交渉)問題への対応も急がなくてはならない。米朝首脳会談の合意形成失敗により、朝鮮半島との外交戦略も再構築を迫られている。

 

しかし、国会では政局が優先され、大切な国民と国益のための政策議論がおろそかになっている。もう少し違った時間の使い方をすべきと考えているのは、私だけではあるまい。

 

今年の予算審議で一つ「おやっ」と感じたことがある。従来は野党第一党・立憲民主党の枝野幸男党首は対決型、第二党・国民民主党の玉木雄一郎党首は提案型であったのが、立ち位置が入れ替わったのだ。両党は参議院第一会派をめぐって激しい議員獲得競争を繰り広げている。おそらくこの争いも、従来の戦術を変化させているのだろう。さらには今年は4年ごとの統一地方選挙と3年周期の参議院選挙が重なる。少数野党にとっては存亡をかける選挙イヤーである。各党はこれからも春と夏の選挙を意識して独自性の発揮に腐心することになるのだろう。

 

新年度予算の年度内成立期限は3月2日の衆議院通過。激しい野党の論陣で審議がストップすれば暫定予算の編成が必要となるところであったが、幸い審議が空転することもほとんどなく、2日未明の衆議院本会議で予算案を可決し、とにもかくにも今年も年度内成立が確定した。

 

あと2カ月で平成の御代が終わる。平成の30年を総括するとともに、来るべき新しい時代に向け、政治の果たすべき役割について改めて考えなければならない。

 

TAG(Trade Agreement on goods)=複数国の間でモノにかかる関税引き下げや撤廃について定める協定。農産物や工業用品なども交渉対象。