2020(年の瀬)

一年前の年の瀬は、大成功に終わったラグビーWCの興奮が冷めやらぬなか、オリンピックイヤーの幕開けを楽しみに待つ日々だった。しかし、現実には新型コロナウイルスに世界が翻弄される一年を体験することになってしまった。

世相を漢字一字で表現する「今年の漢字」は“密“。新語・流行語大賞でも、「3密」をはじめ「ニューノーマル」「アベノマスク」「アマビエ」等々、コロナ関連用語が続々とノミネートされた。

政策運営面でも、コロナ対策として、感染抑止のための社会行動規制と経済活性化に向けた需要創造という、相反する方策を状況に応じて打ち出さざるを得なかった。まさに、年初には思いもしなかった厳しい一年だった。

新型コロナウイルスの感染が国内で初めて報じられたのは1月16日。武漢から帰国した方だった。その後2月には横浜に入港したクルーズ船の集団感染への対応が注目された。が、このころまでは外国の病気といった雰囲気があった。

国内で感染が続出するのは2月下旬から。2月27日には安倍総理が、全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請する考えを表明。結果的に3月2日から春休みまでの期間全国一斉に休校措置が取られることになる。

3月にはこの感染症を「新型インフルエンザ特措法」の適用対象とする法改正が行われ、緊急事態宣言に基づく外出自粛要請や施設使用制限等の法的措置が可能となった。4月7日には、総理が緊急事態宣言を発令、国民生活は一変、飲食店の営業自粛をはじめ行動制限を求められた。街からは人の姿が消え、党の会合でも少人数以外はリモートとなり、国会でも本会議の採決以外は半数での審議となった。私も3ヶ月間全く地元に帰らなかった。こんな事は永年の議員生活でも初めてだった。

国民の皆様の協力により5月末に感染は一時的に収束していったが、反面、飲食店をはじめとする経済への影響はあまりにも大きかった。

7月、夏休みが始まり人の移動が活発化すると、感染は再び拡大基調となった。再度の自粛要請により9月には収まりかけたかに見えたが、10月に景気対策が本格稼働すると、寒さの到来とも相まって、11月には第3波が到来した。感染力を強化した変異種も発見されており、その猛威はしばらく弱まりそうもない。

一方で、いくつかのワクチンが完成したとの朗報もある。年明けもウイルスとの厳しい戦いが続くだろうが、オリンピックの季節までには何とか収束させたいものだ。

コロナ禍の夏の終わり、安倍総理が体調を理由に突然辞任。菅、石破、岸田の3氏に

よる総裁選の結果、菅義偉政権が誕生した。発足当初の高い支持率はコロナ対応への国民の不満からかここへきて急落、年を跨いで厳しい政権運営が続くと予想される。

私のライフワーク、科学技術政策の分野では、年末に明るいニュースが届けられた。12月5日、小惑星探査機“はやぶさ2”が「リュウグウ」で採取したサンプルを地球に届けてくれたのだ。小惑星の砂は太陽系の成り立ちや生命の起源を明らかにしてくれるだろう。また、6年間50億キロの旅路は、我が国の小惑星探索技術のレベルの高さを世界に知らしめた快挙でもあった。また、新スパコン“富岳”がコロナ対策で活躍し、計算能力4部門で連続世界一を獲得したことも忘れられない。

この一年間で私の政策面での成果は、先日決定された経済対策に「大学支援の為の10兆円ファンドの創設」を盛り込むことができたことだ。研究者の安定した活動経費確保をめざした長年の懸案であり、それなりの満足感をもっている。

アフターコロナの社会を見据え、世界各国も科学技術・イノベーション政策への投資を拡大している。国際社会の激しい競争に勝ち抜いて行かなければならない。

この一年間、何かとお世話になり本当にありがとうございました。来年も引き続きのご支援ご指導を、よろしくお願い致します。最後に、来るべき年が皆様にとって輝かしい年

でありますよう祈念いたします。

ラストチャンス

8日に決定された追加経済対策。ポストコロナ社会をめざし、我が国の変革を促す政策が並んでいる。その中に「10兆円規模の大学ファンド創設」が盛り込まれ、当面の財源として、第3次補正と令和3年度財政投融資と合わせて4.5兆円が計上された。令和5年度までにはファンドの規模を10兆円に拡大するプロジェクトである。私が会長を務めている科学技術・イノベーション戦略調査会の提言をベースに、今年度の骨太の方針に示された「世界に伍する規模のファンドの創設」を実行に移すものだ。

ハーバード大学、スタンフォード大学をはじめ米英の主要大学は数兆円規模のファンドを運用し、戦略的な研究投資や奨学金、スタートアップ支援に充てている。このため機動的で柔軟な資金投入が可能となり、大学の競争力の源泉となっている。

海外大学のファンドは寄付金が主要財源だが、我が国でも同様の仕組みを育てるため、まず、政府が呼び水として資金を拠出し基金を創設、大学等からの出資も求めながら規模を拡大していく。数年後には毎年数千億円の運用益が生まれ、厳選した参加大学の研究資金等を支援する財源となる。

そもそもこのプロジェクトの原点は、3年前の知財査会知的財産戦略調査会にある。大学の研究力の抜本強化や若手研究者支援を目的としたファンド構想が提案されたが、骨太方針に盛り込む段階で挫折した。当時の知財調査会長は、甘利明党税制調査会長である。リベンジに燃え、財務当局に強い影響力を持った甘利先生の存在がなければ、このプロジェクトは実現しなかっただろう。

今年の骨太方針の決定から2か月後、9月末の概算要求に文科省と内閣府から金額を示さない事項要求としてファンド創設を計上した。しかしその頃、財務省はこの要求に全く聞く耳を持っていないとの報告を受けていた。

当時、自民党のスタンスは、「ファンドの創設は、骨太方針として決定されているのだから政府の国民への公約である。政府内で調整して政府の責任で創設すべし。この段階では我々は財務当局と折衝はしない。」というものであった。が、表向きはそうは言っても、この頃から水面下では政治的に財務省との攻防の前哨戦は始まっていた。

甘利チームリーダーの下、チームAMARI(私が勝手に呼称しているのだが)を編成、財務省との折衝、ファンドの設計と運用の検討、党政調での平場での発言者などと、役割を分担するとともに、綿密な情報交換を行いそれぞれが事に当たった。私は全体の調整と運用益の使途(若手支援、大学改革など)を担当した。

菅総理が第3次補正予算の作成を指示したのは11月10日、時を同じく党の政調部会・調査会も一斉に予算要望の作業を開始。イノベーション調査会でも各種要望を決議として取りまとめ、行動を開始する。その中で緊急を要する案件として7項目を提言しているが、最重要課題はこのプロジェクト=「10兆円規模のファンド創設」だった。

党での決議をもって官邸や関係閣僚に要望活動を行うのだが、キーマンである麻生太郎財務大臣との協議でもファンドの話題が中心となった。大臣からファンドの運用や大学改革について非常に厳しい指摘があったが、半面、解決すべき課題がクリアになった。この宿題に応えた結果、前述のとおり経済対策に10兆円という数字を記載することができた。

このプロジェクトは、これまでは科学技術政策として、内閣府・CSTI(総合科学技術・イノベーション会議)が所管してきたが、運用益配分の前提である大学改革は文部科学省の課題だ。このところ些か権威と信頼を失墜している感のある文科省である。この機会に名誉を挽回すべく奮起を促したい。

初当選以来、“科学技術政策”をライフワークとし、科学技術基本法や科学技術・イノベーション創出活性化法の制定、文科相など政府の役職、科学技術・イノベーション推進特別委員長や党の調査会長などの仕事をしてきた私である。それだけに、ここ数年の日本の科学技術の競争力低下には責任を感じ、心を痛めてもいた。

日本の競争力の復権にとって、“ラストチャンス”と言っても過言ではないこのタイミングで、長年温めてきた構想が実現したことに深い感慨を覚える。

ただ、いつまでも感慨に浸っていることはできない。創設に関わった我々はこのプロジェクトの行く末に責任を負わなければならない。資金運用の状況や大学改革の進展、政策の成果などを定期的に検証しなければならない。

今回のファンド創設が我が国の科学技術力の反転攻勢の原動力になることを、切に願っている。

おかえりなさい

6日未明、オーストラリアの空に火球が流れた。報道でご承知のとおり、小惑星探査機「はやぶさ2」から放出されたカプセルである。数々のトラブルに襲われた初号機の旅と異なり、比較的平穏な6年間、50億キロの宇宙旅行だったが、金属弾による人工クレータの作成、誤差60センチという高精度着陸誘導など、我が国の宇宙開発力を世界に示してくれた。

明日(8日)にも日本に持ち帰られるカプセルには、小惑星「りゅうぐう」から持ち帰った岩石、砂が格納されているはずだ。このサンプルは太陽系の成り立ちを調べる材料となり、生命の起源である水や有機物の成分が含有される可能性もある。分析には播磨科学公園都市のSpring-8やSACLAが力を発揮してくれる。

「はやぶさ2」の使命は、これで終わった訳ではない。カプセル分離直後から、すでに新たなミッションが始まっている。水が豊富に含まれるとされる小惑星「1998 KY26」への11年に及ぶ旅路だ。きっと次も世界にアピールできる成果を上げてくれることだろう。

先進国が先端科学技術を競い合う宇宙開発での日本の活躍は、国民に夢や希望を与え、子どもたちの科学への関心を育んでくれる。新型コロナウイルスによる閉塞感を打ち破り、未来への夢と元気を産み出す契機となって欲しい。