TPP

「寒さ暑さも彼岸まで」とはいうものの、東京では先週末から桜が開花しはじめたかと思えば、今日はお花見日和どころか、真冬の寒風が戻ってきた。
「彼岸」とは元々サンスクリット語のパーラミータ=「彼岸に至る」に由来し、悟りを開き浄土に至ることを指す仏教用語だ。しかし、仏教発祥の地であるインドや中国には、春分の日と秋分の日に彼岸の法要を行う習慣はない。年に二回、太陽が憧れの西方浄土である真西に沈むことから始まった日本独自の仏教文化らしい。

これは一例だが、日本は歴史的に世界から技術や文化を取り入れ、和流に加工し、熟成させて、我がものとするのが得意だ。日本語そのものが、ひらがな、カタカナ、ローマ字と、漢字やアルファベットを加工して使っている。主食であるコメづくりも、そもそもは揚子江下流域から伝来した水稲栽培にあり、永年の品種改良により耕作地を徐々に北上させていった。高度経済成長を牽引した自動車産業の隆盛は、米国から導入した流れ作業にカンバン方式という在庫管理システムを加え、Just In Timeの生産技術を実現したことによる。

日本という国は、世界とのつながりの中で発展し、繁栄してきた。決してガラパゴス島の生物群のように、孤立して独自の進化を遂げてきたわけではない。これからも日本は世界の国々との財、サービスの取引を活性化することにより、諸国とともに発展していく道を目指すべきだ。

先週金曜日、安倍総理はTPP交渉への参加を決断し、「国家百年の計、今がラストチャンス」「守るべきものは守り、攻めるべきものは攻める」と国民に決意を発信した。
以前から国際的な通商ルールづくりへの積極的な参画を主張してきた私としては、この判断を全面的に支持している。そして、民主党政権下で遅々として進まず、2年間も迷走してきた難題を、2ヶ月半で党内意見を集約し、決断まで持ってきたプロセスこそ、責任政党、プロの政治家集団である自民党の実力を示すものだ。

一方、先の総選挙で自民党は「“聖域なき関税撤廃”を前提にする限り、交渉参加に反対する」という公約を掲げた。私は公約を守ることを表明し、誓約書にサインしている。すべてを市場原理に委ねることにより、我が国の食料安全保障を損なったり、地域経済を崩壊させたりする自由化は避けるのが当然だ。だからこそ、我が政権は早々に米国と折衝し、首脳会談でセンシティブ品目の存在=TPPの関税にも聖域はあることを確認したのだ。
一部で懸念が表明されている国民皆保険や、遺伝子操作品目の表示なども守るのが当然であり、むしろ日本のルールを諸国に採用させる攻めの交渉が必要な分野だろう。TPPは関税のみを定めるのではない。知的財産の保護による海賊品の蔓延防止、途上国の政府調達の自由化による商機拡大など、攻めの交渉が必要な分野は数多い。

先日、日比谷野外音楽堂に集まった4000人の農家の方々を前に、我が党の石破茂幹事長は「米、小麦、乳製品、サトウキビ、牛肉・豚肉などの重要農産品目の関税は、必ず死守をしなければならない」と明言した。参加時期の大幅な遅れにより、日本には厳しい関税交渉が待ち受けているだろう。三桁の高税率を課している品目については、引き下げが必要な事態も予想される。ただ、死守すると言った限りは、守らなければないのが政治の責任だ。そして、何よりも世界の市場で勝負できる強い農業の育成を急がなくてはならない。国内人口が減少していくなかで、農業も輸出産業にしなくては成長できないのだから。

当然のことだが、国際交渉の内容は、交渉に参加し、当事者とならなくては見えてこない。「国益を損ねる場合は即時撤退」という意見もあるが、むしろ、交渉の主体として「国益を損ねるような結論をもたらさない」ことが政府の責務である。
アベノミクスによる円高の是正が、輸出産業の業績改善をもたらし、それが日本株全体の急上昇をはじめとする経済の回復につながっていることは、我が国にとって自由貿易体制がいかに重要かを示すものだ。

TPP交渉参加を契機に、我が国が主導権を担い、アジア太平洋諸国が共存共栄する経済連携の構築を加速する。それこそが日本の国益を叶える道筋である。そして我々にはその力がある。
秋の彼岸、APECまでには、新しい国際ルールのひな形が見えてくる。日本の成長、世界の繁栄をもたらす有意な交渉に全力を投入し、短期決戦に挑まなくてはならない。