背水の陣

6月1日、第190通常国会が幕を閉じた。閉会後の記者会見で安倍総理は、来年4月に予定されていた消費税10%への引き上げを、2019年10月まで2年半延期する方針を正式に表明した。

総理のこの決断について自民党内に反対論がない訳ではない。だが、参院選直前ということもあり、総務会では強い反対意見は出されず承認された。私も“やむを得ない”と判断した。財政規律や社会保障との一体改革の観点からいささか疑問を持たずにはいられないが、政党政治である以上は党の決定に従わなければならない。

政権奪還後3年半、アベノミクスを旗印に経済最優先で取り組んできた結果、雇用は大きく改善し企業の収益も良好になりつつある。3年連続のベースアップも実現した。さらに、この3年間で税収は21兆円上振れするなど、20年間のデフレ脱却まであと一息だ。

ただ一方で、ここまでの景気回復を牽引してきた外需が不安定化している。中国経済は供給過剰により失速気味であり、原油や鉄鉱石等の価格低迷は資源輸出国家の投資を抑制している。世界経済の行く手には大規模な需要不足というリスクが見え隠れしているのだ。

こういう状況から、先のG7伊勢志摩サミットでは、経済を成長軌道に乗せるため各国が機動的に景気対策を講じるという合意がなされた。これを受けて当面は需要創造に力点を置き、消費抑制効果が伴う消費税率引き上げは延期するというのが今回の判断である。

我々自民党は前回の総選挙で「2017年4月には消費税は10%に引き上げる」と訴えて当選したのだから、「公約違反」との指摘もある。麻生財務相や稲田政調会長のように、2014年12月の延期時には「国民に信を問う」と衆院を解散したのだから、今回も「総選挙を行うのが筋だ」という意見は、ある意味正論である。

しかし、熊本地震の被害状況やその災害に対応しなければならない自治体の混乱等を考慮すると、解散して衆参ダブル選は考えられない。総理の判断は当然だと思う。

参院選は元来政府の政策の評価を問うものであり、衆院選のように政権選択を問うものではない。
だが首相は、改選議席121議席の過半数61議席を連立与党の勝敗ラインと設定し、「国勢選挙である参院選で“新しい判断”の信を問う」とした。自ら勝敗ラインを改選過半数と設定し「信を問う」と宣言したのだから、敗れれば論理的帰結としては辞任ということになる。

政治家の国民に発する言葉は軽々であってはならない。その意味で今回の参院選は、俄かに重要性が増大したと言える。正に“背水の陣”である。

各種規制緩和やEPA(経済提携)交渉など経済構造改革のスピードが足りないのは事実。批判には真摯に耳を傾けて、反省すべきは反省し修正すべきは修正する必要もある。また、「新しい判断」を前提とした社会保障改革についての財源の確保やロードマップ、2020年度のプライマリーバランス黒字化に向けた財政再建の道筋を具体的に提示する必要がある。そうでなければ、「今の政治は次の世代より次の選挙しか考えていない」との批判を払拭できない。

このコラムのタイトルは「未来への責任である」。次の世代、子供たちのために「未来への責任を果たすために、いま何ができるか何をなすべきか」を、私も改めて考えなければならない。