半島有事

秋の気配が漂いだした8月29日早朝、北朝鮮が日本上空を越えて太平洋に向けてミサイルを発射。瞬時にミサイル通過が予想された空域の自治体エリア(北海道など12道県)ではJアラート(全国瞬時警報システム)が作動し、エリアメール、緊急速報メールが携帯電話などで流された。

 

TV局も通常番組から一斉に画面が切り替えられ、ミサイル情報をめぐって列島に緊張が走り大騒動となった。ミサイルは約2700キロ飛行し、北海道上空を通過して襟裳岬東約1800キロの太平洋上に落下した。

 

今年になって北朝鮮は弾道ミサイルを含めてすでに13発も発射している。

8月上旬には中距離弾道ミサイル4発をグアム島周辺海域に発射する「攻撃計画」を公表し、日本の島根県、広島県、高知県上空を通過することもあわせて発表。

これらの威嚇にトランプ大統領は、「これ以上米国を脅かせば、世界がかつて見たことがないような炎と怒りに直面する」と一蹴。両首脳の発言は互いにエスカレートし、米朝の緊張感は高まり続けてきた。

 

さらに3日には国際社会の自制要請を無視する形で6度目の核実験が強行され、北朝鮮は重大報道として「ICBM搭載用の水爆実験を成功裡に断行した」と発表した。

過去の核実験に比べてはるかに大きく、威力は広島原爆の10倍超で水爆との見方もある。

一連の北朝鮮の挑発行動は、核・ミサイルの保有国であることを国際社会に認めさせたうえで、体制の維持に向けて米国との直接交渉を有利に運ぼうとする意図は明白だと考える。

朝鮮半島情勢の緊張はまさに最高レベルに達している。

 

この間、我が国政府の対応は迅速、適切であったと思う。

安倍総理は「ミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために万全の態勢

をとった」と言明し、イージス艦やPAC3による迎撃態勢をとったことを示唆した。

 

また核実験があった3日深夜に総理は、トランプ大統領、プーチン大統領と相次いで電話会談を実施。4日午前には韓国の文在寅大統領と対応を協議し、新たな国連安全保障理事会決議採択にむけ日米韓の緊密連携を確認した。河野太郎外相も各国の大使と精力的に会談して、安保理での追加制裁決議採択にむけた協力を要請している。

 

国際社会による更なる強力制裁措置については、「実効力のあるものとする」ことが重要だ。

制裁案は石油の輸出禁止・供給制限などが念頭に置かれているが、特に北朝鮮と国境を接する中・露との協力取り付けが極めて重要である。

安倍首相はウラジオストクを訪問して7日にプーチン大統領と会談するが、朝鮮問題をめぐる国連決議への協力を強く働きかけてもらいたい。

 

我が国にとって懸念すべき事態は、米朝の直接交渉によって北朝鮮の体制を承認して、ICBM開発凍結を条件に現状を維持されることだ。頭越しの米朝直接交渉が無いよう、米国と緊密に連携を図っていく必要があると思う。なぜなら、北朝鮮はすでに日本を射程に入れた中距離ミサイル「ノドン」を実戦配備しており、現時点でも日本の安全保障上大きな脅威となっているからだ。

 

また、半島有事ともなれば我が国独自の課題として、①在日米軍基地攻撃への対処はもちろん、②テロなどの後方攪乱対策、③旅行者を含めると約6万人に上る在韓邦人の救出、④押し寄せる難民への対応等々、困難な事案が重なってくることが想定される。

 

「国民の生命財産を守る」ことが政府の重責であるなら、専守防衛のみで対応可能だろうか?自民党の安全保障調査会は今年3月、北朝鮮の核・ミサイル脅威を踏まえて敵基地攻撃能力の保有を求める提言を行った。敵基地攻撃については、1956年に鳩山一郎内閣で判断(注記)が示されて、憲法上の問題はすでにクリアされているが、政府方針の立案と国会での議論が急がれる。

 

注記:「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他の手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」。