党首討論に思う

先週、野田政権初の党首討論が行われた。
首相と谷垣総裁の間で、消費増税やTPP交渉を巡り、表向きは激しい論戦が展開された。しかし、私としては、空回りのムダな議論という感が否めない。

首相は「消費増税の大綱素案ができた際には自民党も協議に応じろ」と言うばかりで、現時点でどう考えているのかを示さない。
一方の谷垣総裁も「マニフェストに反する行為=消費増税を行うなら国民に信を問うべき」との趣旨を繰り返すばかりで、自民党ならどうするかの政策案がない。
双方とも相手の欠点を突き、問いを繰り返すばかりで自らの主義主張が見えてこない。

我が自民党が主張すべきは、既に明確になっている。
2009年総選挙で「年金制度の抜本改革については、法律によって超党派の協議機関を早期に立ち上げます」と、昨年の参議院選挙でも「消費税は当面10%とし、全額を社会保障費に充当する財源とします。」とマニフェストに掲げている。
ということは、政府民主党からの協議呼びかけに応じるのは当然。むしろ、我が党の増税案を掲げ、民主党に政府案の早期取りまとめに向けた協議を呼びかけてもおかしくない。

一方の民主党の立場は、そう簡単ではない。
2009年のマニフェストでは、「消費税増税に全く言及することなく、無駄遣いの削減などで16.8兆円の財源を捻出できると主張し、途方もない巨費が必要な最低保障年金制度を構築する」と掲げていたのだから、「協議に応じて欲しい」と言うならまずはその撤回=放棄を宣言し、国民に謝罪すべきだろう。
現実を見る限り、野田政権の政策はことごとく自民・公明連立政権時代の政策に回帰しているのだから…。
とは言っても民主党内は一枚岩ではない。消費増税への反対意見も根強く残っている。まずは大網素案に向けて党内の意見集約ができるか否かが課題だろう。

「団塊の世代」(平成22~24年生まれ)は間もなく65歳に達する。来年から毎年250万人以上の高齢者が生まれるのだ。
今さらこの世代の年金支給額削減や先送りは困難だ。さすがに来年から削減しますとは言えまい。
しかし、この状態=現役世代の保険料と所得税が高齢者を支える仕組みを放置すれば、世代間の負担格差がどんどん拡大していく。
だからこそ、消費税の増税が急がれるのだ。消費税はすべての世代に公平に付加される税であり、世代内での支え合いの幅を広げることができる。

解散権は総理にあるのだから、谷垣総裁がいくら解散を求めても、総選挙には追い込めない。いづれにしても、マニフェストの評価は、次の総選挙で国民により必ず下される。
今為すべきは、解決が急がれる政治課題に迅速に対処することだ。解決のための原案を各党が持ち寄り、前向きの議論を行うことである。

特に社会保障制度や税制の基本構成は、短期的に方向転換が行われるようなものではない。政権交代にも耐えられる、長期安定的な制度と超党派の運営システムを設けるべきだろう。
とにかく今は、与野党が一丸となって制度設計を急がなくてはならない。そのために、麻生内閣の末期に「社会保障の財源確保のために、平成23年度までに税制の抜本的な改革を行う法的措置を講ずる」という趣旨を法定したのだから。(平成21年法律第13号改正所得税法附則第104条)

党首討論の正式名称は「国家基本政策委員会両院合同審査会」という。
本来は、毎週水曜日に開催されるもので、英国のクエスチョンタイムと同様、政策形成に向けた国会論戦を行う場であり、決して、政党間が足を引っ張り合う場ではない。
残り少ない臨時国会。党首討論に限らず、あらゆる質疑において、党利党略ではなく政策第一の王道の政治論戦を期待したい。