春節に想う

先月23日からの一週間、中国の旧正月を祝う「春節祭」で神戸の南京町も中国文化一色に染め上げられた。今年は辰年とあって、豪華に電飾された龍も例年にまして見事な舞を見せていたようだ。

春節の期間、日本の正月休みと同じように中国でも民族大移動が起こる。大半は都市部から出身地への帰省だが、国民所得の向上とともに海外旅行に出かける方々も多くなっている。その人気訪問先の一つが日本だ。
東日本大震災以降、海外から日本を訪れるツアー客は、急激に落ち込んだ。しかし、中国人の訪日熱はいち早く復活し、秋頃から観光客数は対前年比増加に転じている。この春節休暇の訪日者数は過去最高を記録しそうな勢いだ。

経済成長率が鈍化してきたと言っても、昨年の中国経済は前年比9.2%増。
中国政府によると今年の海外旅行者数は12%増の7840万人。旅行での消費額は約800億ドル(約6兆円)と予測されている。当分の間、この数字は増えることはあっても減ることはあるまい。

観光地はもちろん、国内の百貨店や商業施設でも、中国人観光客をターゲットにした商戦が本格化している。中国語のポスターに、中国人好みの赤色商品の強調展示等々、それに中国の銀聯カードの決済機能も不可欠になった。

人口減少と高齢化によって我が国の内需の縮小は避けられない。それを少しでも補うのが交流人口の拡大だ。海外からの旅行客による需要創出は重要な国策の一つとなる。だが、今のところ旅行客の収支は、出国1500万人に対して入国800万人と、ダブルスコアの出超となっている。

一昨年の訪日者数の国別トップ3は、韓国240万人、中国140万人、台湾130万人だ。なかでも中国人客は、22年のビザ発行要件緩和から急増中だ。
中国の一人あたりGDPは日本の1970年代と同じ水準。今後、海外出国率は上昇するだろう。日本と同じ傾向をたどれば10年後には1億人以上が海外に出かけるとの予測もある。

この中国の活力を取り込むことが我が国の経済成長に不可欠であることは言うまでもない。
そのためには、海外プロモーションの拡充、観光地・交通案内の多言語化、外国人スタッフの充実、通貨決済インフラ整備など、様々な努力が必要だろう。そして、何よりも日本人のホスピタリティ(心地よく受け入れる心)の向上が大切だ。

尖閣諸島近海での資源開発問題、レアアースの輸出規制、食の安全を巡る疑惑、歴史認識の共有化等々、隣国との間で解決すべき懸案は多い。
観光を通じた人的交流の活性化は、経済のみならず国際間の相互理解の向上、戦略的互恵関係の具現化にも資するだろう。

訪日外国人の数値目標は、小泉内閣時代の年間1000万人から徐々に引き上げられ、一昨年の新成長戦略では「訪日外国人3000万人プログラム」が定められた。フランスの7000万人には及ばずとも、イギリス並みを目指そうという目標だ。

この「観光立国」という国家方針は、自民、民主の区別無く協調して推進できる政策方針だろう。
世界中の情報が一瞬で繋がるグローバルな時代、国を閉ざしていては未来への道筋は覚束ない。日本は世界に発信できる魅力的な地域資源、伝統文化で溢れている。世界の文化、違いを受け入れる許容力もある。
世界と共生する、共に栄える気持ちがあれば、道は必ず開けるはずだ。

ところで、国会では24年度予算の審議が始まる。
主戦場である予算委員会の論戦が建設的のものとなるよう期待したいのだが……。
果たして?