桜花爛漫

寒波の影響で北上が遅れていたサクラ前線だが、4月に入りようやく本州にたどり着いた。先週の土日は久々の晴天に恵まれたこともあり、東京では満開の桜の名所が多くの人出で賑わったようだ。世界遺産姫路城でも観桜会が始まったが、こちらはまだ5分咲き程度、播州での見頃は次の週末になりそうだ。

日本を象徴する花とも言えるこの“サクラ”だが、由緒ある吉野山のような“ヤマザクラ”の名所はごくわずか。全国の行楽地で花見客を楽しませてくれる品種は“ソメイヨシノ”だ。各地で絢爛に咲き誇るこの花の歴史は意外と浅い。

ソメイヨシノが生まれたのは、江戸時代の後期のこと。江戸の町外れの染井村(現:豊島区駒込)の植木職人たちが、エドヒガンとオオシマザクラを交配して生まれた品種と言われている。その種子は芽を吹くことが無く、接ぎ木によって増やされる一種のクローンだ。
葉が出るより先に花が咲くというエドヒガンの特色と、大きな花ビラが密生するオオシマザクラの特色を併せ持つこの種は、満開時の華やかさから明治時代に全国に広がり、海外にも輸出された。ワシントンDCのポトマック河畔を飾るサクラも、明治の終わりに東京市から贈られたソメイヨシノである。

異なる種の花粉とめしべを人為的に結びつけ品種改良を行う、いわゆる人工授粉は数千年前の古代から行われてきた科学技術だ。江戸の職人たちが意識したかどうかはともかく、今風に言えば、遺伝子組み替え、バイオテクノロジーを駆使した品種改良である。

花粉といえば、先日、兵庫医大の研究チームが花粉症の原因物質が「インターロイキン33」というタンパク質であることを特定したという報道があった。基礎研究の段階であり、特効薬の開発には、まだまだ時間がかかるだろうが、国内だけでも2千万人が悩まされている症状の根本的な治療に繋がる大発見だ。

こういったバイオテクノロジーを進化させる装置がもうひとつの「SACLA(サクラ)」、先月も取り上げたが、播磨科学公園都市(上郡町)で運用を開始したばかりのX線自由電子レーザーである。この最新鋭装置の仕組みの解説は、理化学研究所のサイトを参照いただきたいが、いわば分子レベルの動きを見ることができる顕微鏡といったところだ。

創薬(薬の構造デザイン)にしても、遺伝子組み換えにしても、つい最近までは直感と経験に頼るところが大きかった。それは遺伝子やタンパク質の構造や動きを直接見ることができなかったからだ。それが、Spring-8やSACLAの開発によって研究環境が大きく変わってきている。
今後、秋に本格稼働する世界最速のスーパーコンピュータ「京」と組み合わせて、バイオテクノロジーの新たな開拓が期待できるだろう。

加工貿易の時代が終わった今、日本が稼ぐ術は知的財産を売ることだ。産学が総力を挙げて、科学技術をはじめとする知恵の力を磨かなくてはならない。ハリマのSACLAも早く研究成果という実を結び、サクラと同じく、日本中に世界中に知られる存在となってもらいたい。

平成24年4月9日配信文