国土強靭化

平年より少し早い梅雨明けとともに本州各地は猛暑に覆われているが、一方で、1時間に100ミリ(ちなみに日本の平均降水量は年間1500ミリ程度)を超える、まさにゲリラ的な局地的集中豪雨の被害も続いている。

先々週は九州地方の北部3県で、死者・行方不明者32人、浸水家屋8254棟の大被害を被った。先週も北陸、九州で大規模な浸水被害が発生し、県内でも明石や神戸で10分間に20ミリという大雨に見舞われた。
気象庁は、重大な災害が差し迫っていることを分かりやすく伝えるため、6月から短文の警戒気象情報の発信を始めたが、先日の九州北部豪雨では「これまでに経験したことのないような大雨」という表現が早速使われることになった。

豪雨災害が激しさを増すほどに、水を治めることの難しさと大切さを痛感する。そして、昨年も紹介したが、砂防の父と呼ばれた赤木正雄氏(豊岡出身で、大正から昭和初期に内務官僚として全国の治水、砂防事業を指揮。戦後、貴族院議員、参議院議員を勤められた。)の言葉、「国を治めんとすれば水を、水を治めんとすればその上を治めよ」が思い出される。

古代より、治山治水は政(まつりごと)の基本である。日本の政治は、奈良時代から大規模な土木工事で、急流の改修に挑んできた。しかし、未だに自然を完全に制御することはできないし、未来永劫に不可能だろう。それは、1000年に1度の天変地異である東日本大震災の破壊力が示すとおりだ。

そして、東日本大震災は、三陸海岸の道路網寸断による村々の陸の孤島化、首都圏の交通麻痺による帰宅難民の大量発生、全国的な電力不足やサプライチェーンの破断による生産低迷等々、日本列島の脆弱性を改めて教えてくれた。
国民の安全で安心な生活を実現することは、いつの時代でも政治の基本であり、そのための強靭な国土づくりは、いつの時代も最重要政策の一つである。被災を完全に防ぐことはできなくとも、災害を避け、被害を軽減する努力は続けなくてはならない。

自民党はこういった観点から「国土強靭化基本法案」をとりまとめ、今国会に提案している。この強靱化法案は、大規模災害に備えた防災機能を高めるとともに、被災時の被害拡大の防止、社会機能の代替性の確保を図ることを主眼とする。さらには、効率性を第一に大都市への機能集中を進めてきた戦後の国土政策・経済政策が、一極集中の脆弱性を招いたことを反省し、分散連携型の国土を形成しようとするものである。

強靱化を進める基本政策として、
まず、①建築物の耐震化、百年単位の津波を防ぐ防潮堤の整備、数十mの津波到来に備えた避難路や避難ビル整備、30年に一度の豪雨に耐えられる河川堤防の強化、といった防災インフラへの重点投資を定め、
次に、②発災時に備えた緊急輸送路の整備、救急医療体制の確立、エネルギーの供給の多様化、様々な通信手段の確保といったソフト対策も掲げている。
さらに、③地域住民の「絆」の重要性に鑑み、隣保共同の精神に基づく自発的防災活動への支援等により、その維持、活性化を図ることとしている。

このうち①の防災インフラ投資については、需要創造効果があることは言うまでもない。日本経済を覆っている深刻なデフレを解消するためには、一定の財政出動が必要だ。その投資分野として防災減災事業は最適であろう。いずれは実施しなくてはならない投資であり、誰もが必要と認める投資だから。(少なくとも先日、政府が認可した整備新幹線に3兆円を投じるよりは全国的な理解が得られるだろう。)
この点は、公明党が唱える「防災・減災ニューディール」の推進とも軌を一にするものである。

平成26年4月の消費税率引き上げ想定時期まで2年弱。それまでに景気を好転させることが引き上げの条件だ。消費税法の改正法案の景気条項には「成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた対策を検討する」との記載も加えられている。
国土強靱化投資により、災害に強い安全安心な生活基盤を整える。併せてデフレギャップを解消し、消費税率引き上げに耐えうる経済力を確保する。この道筋は3党合意を実現するものでもある。
国民が一丸となって、この道を邁進するためにも、国土強靱化基本法案を一日も早く成立させてもらいたいものだ。